夏の夕陽
紅桜です。
この小説は私が書かせていただきました。
お楽しみいただければ、何よりです。
眩しい陽にひまわりが空を見上げる。今日は久しぶりに、彼と会う約束の日だった。眺めていた景色から目をそらした彼はゆっくりとこちらを振り向いた。
「久しぶり、夕波。」
「…久しぶりだね、葵。」
葵とはいわゆる幼馴染で、小さな頃から一緒に育ってきた。だから彼は私にとって互いをよく知っている、かけがえのない大切な親友。そして、元恋人でもある。
友情か恋情かも分からないまま、なんとなく付き合ったその感情が恋情だったとはっきり分かったのは、関係が崩れ去った時だった。クラスの打ち上げだかなんだかで大勢で騒いでいた時、彼がそこにいた一人の女の子に無理矢理キスをされて、遅れて行った私がうっかりそれを目撃してしまったのだった。盛り上がって、テンションが上がっている中でのたった一度の過ち、しかも無理矢理。今思えば別れる程のことではなかったかもしれなかった。けれど、彼の声も無視し思わず逃げ出してしまった私は、家についた後思いっきり泣きじゃくったし、その後気まずくなってしまった関係を、続けることはできなかった。
葵はそれから女遊びが激しくなり、私はそれから一度も恋をしていない。傷は互いに割と深かったはずなのに、こうして何事もなかったかの様に二人で会っているのは、やはり恋人という関係の破綻によって親友の関係まで壊れることはなかった、ということなんだろう。
「彼女と、どう?」
何気なく聞いた問いかけの答えはよくよく思い出してみればいつだって似たようなものだった。
「一昨日別れたよ。」
葵はメールではよく彼女が出来たとか、惚気話とか送って来るのに、私と会った時に彼女がいたことは一度もなかった。しかも、一週間前に別れたとか昨日別れたとか、そんなのばかりで。その中でも一番驚いたのは、今朝別れた、という答えだった。
ゲームセンターに行ったり、カフェに行ったりと割と色々まわって、気がつけば空はオレンジ色に染まっていた。
最後に、と向かったのは昔よく二人で行った眺めのいい丘。別れてからは一度も来ていなかった。
風が髪を揺らす。ふと横に目をやると景色を眺める葵。あぁ、綺麗だな、そう思った。結局の所、私は葵が好きなのだと、認めざるを得なかった。葵を忘れられないからこそ、次に進む気にはなれないのだと。
葵と同じ様にして眺めた景色は綺麗で、懐かしかった。真っ赤な夕焼けに目を奪われた。昔が、鮮明によみがえってくる。今よりもずっと幸せに満ち溢れていた頃。
…時間を、戻せたらいいのに。
「ねぇ、夕波。」
不意にかけられた声に顔を上げた。景色を眺め続けている葵の横顔をぼんやりと眺めながら返した。
「なぁに?」
「僕らってさ、やり直せないのかな?」
「…え?」
「あ、いや、その…」
少しの間目を泳がせ何かを迷っている様な顔をしていた葵は、何かを決意したかのようにこちらを向いた。
「ずっと、考えてた。だからどうか、もう一度だけでいいから、僕を信じて付き合って。もう間違えない。絶対に、失望させないから。絶対に、傷つけないから。」
驚いた。まさか葵からそんな言葉が出るなんて。葵は必死に忘れようとしている様にみえたから。まさか、まさか。…でも、
「……喜んで。」
目を丸くした葵がおもしろくて、私は思わず笑みがこぼれた。