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第十一話 運命の子

『このお堂を奉り、永代まで供養していくことで、この土地は益々栄え永久なる平穏が約束されることでしょう!』

 金曜日の夜七時、ゴールデンタイムに放送された特別番組は、女子アナの大げさすぎるコメントで幕を閉じた。その後、旬のスピリチュアルカウンセラーの斎木天道と目に涙を浮かべているカリスマモデルのマリのアップで、エンディング。

 学校ロケの数日後に、緊急特番として流された番組を、優輝と慶と琉星は食い入るように見つめている。少し離れた所で、優子も見ていた。突然のオンエアに、一同は度肝を抜かし優輝の家に集合していた。

「俺達にとってはウソみたいな有りがたい展開だけどな……」

 優輝はテレビ画面の真に迫ったマリの演技に感心しつつも、軽くため息をつく。

「いいのか、こんなのゴールデンに放送して。っていうか、校長に許可とってんのかな?」

「そんなのとってる訳ないじゃない。こういうのは放送したもん勝ちよ」

 優子はゆったりとソファに腰かけ、ニンマリと笑う。

「明日の学校がどうなってるか楽しみ」

「斎木天道にマリ。いつの間にか、『お堂』周辺がパワースポットってことになってるし」

 マリの名演技やテレビ局の演出には、優輝も感心していた。

「そんじゃ、オレ達超有名人じゃん!」

「僕達は関係ないよ。それより、『お堂』がまた汚されたりしたら困る」

 こんなに大々的に学校の『お堂』がテレビ放送されれば、全国各地から人々が集まって来るに違いない。今が旬の斎木天道とマリの威力に加えて、ブームになっている『パワースポット』とくれば、誰だって興味を惹かれることだろう。

 琉星としては、取り壊し阻止の件は解決出来ても、また別の不安要素が頭をもたげてきた。

 だが、優輝と慶は取り敢えず、『お堂』取り壊し阻止作戦が成功しそうなことを、素直に喜んでいる。

「で、キャ、キャサリンさん。『お堂』の取り壊しはなくなったし……あのことだけど」

 エンディングが終わりCMに入ったところで、慶はキャサリンに話しをふる。

「あのことって?」

 テレビ画面を凝視していた優子は、ツインテールを揺らしながら、慶に顔を向けた。

「その、事件は解決した訳で……オレも一肌脱いだかなぁと……それで、あの例の……」

 優子に見つめられると、慶の大声も次第にフェイドアウトするみたいに小さくなっていく。

「例の?」

 優子は慶の言っている事にピンとこない様子で、小首を傾げる。

「えーっと、もう一度、え、映画に誘ってみて良いですか?」

 冷や汗をかきながらそれだけ言った慶の言葉に、優輝はポンと手を打つ。

「あっ! すっかり忘れてた、チケット買うの」

「何っ!」

 ガクッと前のめりになりそうになりながら、慶は優輝を睨む。

「悪ぃ悪ぃ、あの映画まだ終わってないよな? 明日買って来るよ」

「映画がどうしたんだっけ?」

 優子の視線は、再びテレビ画面に向けられている。彼女の関心はもう、来週の特番のテロップにいっていた。

「来週もマリの出演かぁ。あの子どんだけ稼いでるんだろ」

 来週の特番はカリスマモデル、マリの一日を密着取材するらしい。

「そろそろ帰るよ。なんか、明日学校行くのが怖いな」

 琉星は、フーッとため息をつきながら立ち上がる。

「取り敢えず『お堂』の取り壊しは中止になるだろうから、ま、良かったってことかな」

 と優輝。

「慶、帰ろう」

 琉星は、まだそわそわしながら優子をチラ見している慶に言う。

「あ、あぁ」

 完全に置いてけぼりの慶は、仕方なく立ち上がった。意気消沈して琉星と帰る慶に、部屋の奥から優子の声が響く。

「映画が終わるまでに、ちゃんと誘いに来なさいよ」

 背中越しに優子の声を聞いた慶の顔は、パッと明るくなった。







「琉星君」

 二度目に自分の名を呼ばれて、琉星はようやく後ろを振り向いた。

「どうかした? ぼんやりして」

 そこには沙良が立っていた。いつものように、口元に薄く笑みを浮かべ真っ直ぐに琉星を見つめかえしている。

「あ、ちょっと考え事。騒ぎもすっかりおさまったな、と思って」

 琉星は『お堂』の周りに供えられた数々の花束や手紙やお供え物に目を落とす。その中には、何故か絵馬まであって、願い事まで書かれていた。

「案外、早くブームは去るんだなと思った」

 あのテレビ放送以来、予想通り全国各地から『お堂』見物の人々が殺到していたが、毎日目まぐるしく移り変わる話題の波に、直ぐに『お堂』の存在も飲み込まれていった。一週間も経つと、『お堂』はまた元の静けさに包まれている。琉星の心配も取り越し苦労に終わった。

「そうね、私もテレビ放送の翌日の見物人の多さにどうなるか心配だった。けど、お陰で校長も取り壊しを中止せざるを得なくなったし、結果的に良かったわね」

「『お堂』は、新校舎の中庭にそのまま残されるらしいよ。今より『お堂』がスポットを浴びることになりそうだね。なんか、新校舎が建つのが楽しみになってきた」

「そう……」

 沙良はじっと『お堂』を見つめ、目を伏せる。

「私も新校舎を見てみたかった」

「え?」

 琉星は沙良に目を向ける。新校舎が完成するのは、約一年後、琉星も沙良もまだ在校生のはずだ。だが、沙良は遠い目をして、僅かに瞳を曇らせていた。

「栗原さん、また転校するの?」

 琉星の質問に沙良は首を横に振る。黒く長い髪が風に揺れる。

「……明日になれば、何もかもが変わっているわ」

「どういうこと?」

「明日になれば分かる。ううん、分からない。変わっていることにさえ気付かないっていうのが本当ね」

「……」

 琉星は沙良の言うことの意味が飲み込めず、首を傾げる。

「短い間だったけど、この学校に来て良かった。みんなと出会えて楽しかったわ」

「それじゃ、まるで別れの挨拶みたいだ」

 沙良は顔を上げ、琉星を真っ直ぐ見つめる。彼女の漆黒の瞳は涙でうるんでおり、琉星は言葉に詰まった。

「私の正体。みんな知りたがっていたわね」

 涙を浮かべながらも、沙良は笑みを浮かべる。

「私は、この世に生を受けなかった子。未来に生まれる子供だった」

 沙良は琉星から視線を空に向ける。

「見て、空がとても高い。秋の空って、どうしてこんなに青くて澄み渡っているんだろ?」

 琉星もつられて空を見上げた。そこには雲一つない、秋晴れの真っ青な空が広がっている。しばらく、二人は無言で広く澄んだ空を仰ぎ見ていた。

「……私は一人の人間と白い蛇の間に、生を受けるはずだった子」

 琉星が青空に見とれていると、突然、沙良の声が耳に響いてくる。

「もしかしたら、私と琉星君はどこかで繋がっていたかもしれないわね」

「え?」

 沙良の言葉に、琉星は沙良の方を見る。しかし、さっきまで直ぐ隣りに立っていた沙良の姿は、もうどこにもない。琉星は慌てて辺りを見回すが、彼女の姿は忽然と消えてしまった。

 彼の耳には、木々の葉を揺らす風の音とともに、沙良の最後の言葉が何度もこだまし続けた。



これで、私、春野天使の担当は終了です。後は、雨宮さんに投げました~(^^)宜しく。なかなか思うように執筆出来なかったですが、初のコラボ企画、楽しく書けたと思います。また、機会があれば、第二弾も書いてみたいですね~

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