第三十話「VSカーター」
鋭いジークの剣を、カーターは軽々と回避する。
殺すつもりはないが、手加減をするつもりもないジークは、簡単に攻撃を避けられたことに焦りを感じる。
「さてジーク。生意気な口を利くお前には一つ講義をしてやろう」
「いつまで上司のつもりだい?」
度重なるジークの攻撃も、カーターはその場にある机や本を巧みに使い、簡単にいなしていく。
「まず魔族と人類の一番の違いについてだが、魔術を扱えるかどうかが大きい」
狭い室内をダンスでも踊るように華麗に移動するカーターに対して、ジークは剣を振るえる範囲がどんどん狭くなっていく。
「それと先ほども話したが寿命と頑丈さも忘れてはならない。素手ではまず太刀打ちできない。もっとも剣を装備していても実力差があれば意味をなさないがね」
息を切らすジークに、蔑んだ目つきでそう告げるカーター。
「いい歳をして動けるね」
「この程度で私の実力を測らないでもらいたいものだ」
机の上に腰かけ、カーターは煎餅の袋を開ける。それを口に運ぶかと思いきや、ジークの顔面めがけてはじき飛ばす。
「うっ!」
「隙はわざと作るものだ。作らされた時点で負けなのだよ」
一瞬目をつぶったジークに机の上から飛びかかり、剣を蹴り飛ばすカーター。蹴り飛ばしたまま体を回転させ、ジークの脇腹に回し蹴りを食らわせる。
体を反らし威力を殺すが、とても中年のものとは思えない蹴りにジークの内臓が悲鳴を上げる。
が、それと同時にカーターの鼻から血が噴き出す。
「隙ありだよ」
「小僧……!」
脇腹を押さえながら右腕を突き出すジークに、カーターは怒りを前面に押し出しながら突進する。
「お前も計画に加えてやろうかと思っていたが、もういい。死ね!」
カーターは魔族から剣を奪い取り、目を血走らせながらジークに斬りかかる。強がってみるジークだったが、正直もうろくに体が動かず、カーターの攻撃を避けることは難しい。が、もう避ける必要がないとジークは確信していた。
「遅かったね。でも助かったよ」
「何を言って……うっ!」
突如開いた扉から宿屋に扮していた魔族が飛んできてカーターに直撃し、まとめて机に激突する。
周りの魔族は突然のことに慌てふためき、カーターを救出するか、ジークを拘束するか、それとも逃げ出すか、選択を迫られる。が、選択するよりも先に扉から姿を現した男に殴り飛ばされ、全員気を失ってしまう。
「生きてるか?」
「なんとかね」
手をパンパンとはたきながらアインが姿を現し、倒れるジークに手を貸す。
「気を付けてくれ、あの人は何かおかしい」
差し出された手を握りしめ、ジークは壁にもたれかかる。
「問題ない。まともな相手のほうが少ない」
剣を抜き、アインは埃を上げる机に目を移す。
「乱暴なお客様だ。ジーク、お前の連れか?まるで礼儀がなってない」
魔族を踏み台にしながら立ち上がるカーター。細い指が何本かおかしな方向にねじ曲がっているが、無理やり形を整えると何事もなかったように服の埃をはらう。
「魔族でままごとをしているお前にはらう礼儀などないな」
「おまけに口も悪いときた」
睨み合う両者。
ジークがゴクリと唾を飲む。
最初に動いたのはカーターだった。
服のポケットからメスを数本取り出し、アインに向かって投擲する。アインは避けずに左腕で顔面を覆いながら突撃し、カーターに剣を振り下ろす。机を両断することには成功するもカーターは右に飛び退いて攻撃を回避する。
「捨て身の攻撃か。いつまでもつかな」
「お前がな」
アインは突き刺さったメスを乱暴に抜いて捨てる。二百年間拷問に耐え抜いたアインにとってダメージは蚊程もない。
だがカーターが驚いたのはその精神力よりも、アインの驚異的な回復力だった。
「な、なんだそれは」
みるみるうちに回復していくアインの傷から目を離せない。
長年探していた宝物を見つけたかのように目を輝かせながら、カーターは引き寄せられるように手のひらを前にしてアインに近づいていく。
「もっと、もっとよく見せてくれ!」
「なんなんだ」
無防備に近づいてくるカーターをアインの本能が拒絶する。
剣を突き出して牽制するアインだが、手に剣が刺さってもカーターは止まらない。その狂気的な表情にアインは思わず剣を捨てて後ろに下がってしまう。
「確かにお前の言うとおりだ。気味が悪い」
「一度引こうか」
意見が一致し、ジークを肩に乗せながらアインは部屋を脱出する。
「待て、待ってくれ!」
追いかけようとするカーターだったが、気絶した魔族につまずいて倒れてしまう。
絶望的な表情を浮かべるカーターだったが、アインから滴り落ちた血痕を見つけると目を細めながらほくそ笑み、それを直接なめ取る。
「解剖したい、研究したい、あの男とすべてが知りたい。そして私のものにしたい」
気絶した魔族たちの中心で腹を抱えて笑うカーター。おまけにバースデーソングまで歌い出す。
「おめでとうカーター。今日は私の二回目の誕生日になる」
その男の笑みは、どの魔族よりも邪悪だった。




