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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第三章 「滅都編」

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第二十九話「カーター」

「はぁはぁはぁ」


 息を切らしながら町を走るルル。

 追ってはないようだが、それはジークが無事だという保証にはならない。むしろジークが追ってこないことは無事ではないという証拠になりかねない。

 考えても考えても嫌な考えばかりが浮かんでくる。


「どうした」

「……ッ!」


 泣きながら目の前を通り過ぎるルルを呼びとめるアイン。側には宿屋に扮していた魔族も居たが、ルルは気にせずにアインにすがりつく。


「大佐が……あの男、助けて!」

「よく分からないが……わかった。お前はそのまま町を出てあの女どもを連れてこい」


 ルルはアインに断片的な情報を伝えると、アインの返答に何度も頷きながら再び走り出す。


「おい魔族、お前の言うあの男」


 走りさるルルの背中を見送りながら、アインは魔族の首根っこを掴みながら尋ねる。

 魔族はアインの威圧感に怯えながら、また違ったカーターへの恐怖を思い浮かべる。


「は、はい。間違いないです」

「急ぐぞ」


 アインは魔族を左手に抱え、駐屯所までの道を急ぐ。




「さてジーク。私はお前の思っているような男ではない」


 ジークの体は椅子に縛り付けられ、身動きが取れなくなっている。意識もまだ回復していないが、それでも構わずカーターは話を続けている。


「ちなみに私のいう“お前の思っているような男”とは兵士たちの見本となるような勇敢で聡明な男という意味だが、相違があったとしても訂正はいらない」


 カーターとジークを取り囲むように兵士に扮した魔族が数人待機しており、自らの爪や牙ではなく、人間のように剣を武器として装備している。


「だが私を臆病と思ってもらいたくはない。私の言う“ではない”は、“兵士たちの見本となるような”にかかっているからね」


 手にした紅茶をすすりながらジークの周りを一周する。

 特に何をしているわけでもないが、魔族たちは体をこわばらせながらカーターの一挙手一投足に注目している。


「いいや、やっぱりあなたは臆病だよ。僕を縛り付けなければ話すらできないんだからね」


 意識を取り戻したジークの挑発に大きく反応したのはカーターではなく魔族たちの方だ。

 手にしたカップがミシミシと音を立てるだけで魔族たちもカタカタと体を震わせる。


「目覚めたか。では本題に入ろう」


 少し声に怒りが混じっているが、表面上は冷静に告げるカーター。だがそれでも怒りが抑えきれなかったのか、手にした紅茶をジークの頭からかける。


「タオルはもらえるのかな?」

「必要ない。紅茶はまだまだある」


 不敵な顔でカーターを睨みつけるジークの正面に座り、カーターは紅茶を入れなおす。


「結論から話そう。私は魔族になりたい」


 足を組み、周りを取り囲む魔族たちをジークに紹介するように両手を広げながら話すカーター。


「なるほど、帝都があなたを追放した意味がようやく理解できたよ」


 何とか抜け出せないものかと手足を少しずつ動かすジークだが、びくともしない。剣も手の届かない場所に取り上げられており、脱出は困難だ。


「言葉に気をつけろ。追放ではない、私が自ら選んだのだ」


 カーターはジークの額に指を突き立てる。グリグリと押し当てるが、ジークが何の反応も示さないとつまらなそうに指を離す。


「理由が知りたいか?教えてやろう」


 カーターは唐突に立ち上がると、近くにいた魔族をいきなり殴りつける。

 細腕から繰り出されたカーターの拳は想像以上の破壊力があり、魔族の顔面は変形して壁にめり込む。それを見たほかの魔族たちはガタガタと震え、一気に緊張感が増す。


「なんのまねだい?」


 さすがにジークも恐怖し、冷や汗と紅茶が混ざって流れ落ちる。


「見ろ。人間なら即死のところをあれはまだ息がある。素晴らしい生命力だ」


 とても無事とは思えない魔族を、返り血で汚れた手で指差すカーター。子供のような無邪気な顔で笑っている。


「下級魔族でこれだ。おまけにこれらは人類の数倍寿命が長い」


 満足そうにカーターが指を鳴らすと、震えていた魔族の数人が瀕死の魔族を抱えて部屋を出ていく。


「あなたが魔族になりたい理由はなんとなくわかったよ。共感はできないけどね。でも人間は魔族にはなれない」

「確かにそうだ。だが分かりきったことを自信ありげな顔でいちいち私に告げるな!」


 怒りのスイッチがいきなり入り、カーターはジークを蹴り飛ばす。ジークの体は魔族に当たり、二人まとめて壁に激突する。


「おっと、申し訳ない。近ごろ気が立っていてね」


 こぼれてしまった紅茶を入れなおし、カーターは気を落ち着かせる。


「君の言う通り私の体は魔族にはなれない。だが、方法がないわけではない」 

「……いいや、あなたはとっくに魔族だよ」


 ジークは血反吐を吐きながらカーターを睨みつける。


「褒め言葉と受け取っておこう」


 カーターが目をつぶりながら紅茶をすすると、突如魔族の悲鳴がその耳に飛び込んでくる。カップに口をつけたまま目を開けると、ジークが魔族の剣を奪って立っていた。


「なるほど魔族の爪でロープを切ったか。爪は残しておいてやったが、やはりすべてへし折るべきだったな」

「なら僕はその愚鈍な鼻をへし折ってあげますよ」


 手にしたカップを地面に投げ落とし、カーターは服を整えながら立ち上がる。

 取り囲む魔族たちは二人の人間を前に、もはや見ていることしかできなかった。

 


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