第二十七話「おかしな町」
最果ての地、魔王城。
主が不在になってから数日が経過したその場所に、バートンとルクスが帰還する。
道中で傷を癒しながらではあったが、二人は心身ともに疲れ切っており、敷地に踏み込んだ瞬間に倒れ込む。
「なんじゃ、哀れな姿よのう」
「貴様に用はない。スパーダを呼べ」
うきうきと敗走してきたバートンを見下ろすアモール。口論する力も残っておらず、バートンはそれだけ言うと眠りにつく。普段は軽口をたたきまくるルクスも気絶するように眠っており、アモールはつまらなさそうに下級魔族に八つ当たりをする。
「姫様はどうだった?……って、聞くまでもないか」
魔王の間で右腕の治療を受けるバートンに尋ねるスパーダ。その黒焦げた腕を興味深そうに見ると、スパーダはバートンの頭をポンポン叩く。
「やめろ。何のつもりだ」
「慰めてやろうかと思ってよ。で、ルクスはまだ目をさまさねぇのか?」
ここにたどり着くまでは何とか意識を保っていたルクスだが覚醒した反動なのか、城に着いてからは微動だにしない。
「我の考え通り、ルクスと勇者には因縁があった。そして覚醒にも成功した。次は愚妹に遅れはとらん」
僅かに右腕が動くことを確認し、バートンは復讐を誓う。
「それで、実際のところどうなのじゃ?あの男は姫様に勝てるのかえ?」
魔王の間から出てくるバートンにアモールが尋ねる。
「さあな。バートンの心はまだ死んでねぇ。ルクスも覚醒した。だが姫様も勇者も健在だ。こりゃ困ったことになったぜ」
「それにしては嬉しそうな顔じゃな」
顔がゆがむほど笑顔を浮かべるスパーダに、アモールも口角が上がる。
「魔王が死んで俺もそろそろ引退だと思ってたんだがな、そうもいかないらしい」
「当然だ。お主に引かれては、わらわも張り合いがなくなるからのう」
二人の大魔族は静かに笑う。
廃屋を出発して丸一日が経過した。
今ではリヴの定位置はすっかりオルドの後ろと決まっており、誰もそれを不思議に思わない。その腰にしがみつく姿も見慣れたものだ。
夜通し走ったおかげで予定よりも早く次の町に到着する。
「この町を出れば次の町までは二日はかかる。準備は怠るな」
オルドは町につくなり馬たちの状態を確認し始める。
「私が一緒では目立ちます。夜まで町の外で待ちますので、先に行っててください」
「なら私と一緒に来るといい。近くの草原で馬たちを放したい」
そう言うとオルドはリヴを連れ、馬たちと一緒に草原へ向かう。
取り残されたアインたちはひとまず宿を探す。
「満室です」
宿に入るなり、店主は先頭のジークにそう告げる。
「どうしてですか?見たところ人は少ないようですが」
宿内を見渡すルルの目には客はほとんど映らない。
しかし店主はルルの言葉を無視し、それ以上は何も言わずに奥へこもってしまう。
「仕方ない、別の宿を探そう」
そう言って宿を出るが、どこの宿も結果は同じだった。
「付き合ってられないな」
五件ほど空振りが続くと、アインは二人から離れ、一人で歩き出す。
「アイン、待ってくれ!ここも帝国の一部だ。駐屯所があるからそこに行ってみよう」
「お前たちだけで行け、俺は野宿でも構わない」
ジークの言葉を無視し、アインは人混みに消えていった。
「仕方がないな」
「いい大人なんですから、一人でも大丈夫ですよ。私たちだけで先にいきましょう」
アインの方を向いているジークの背中を叩くルル。アインの協調性のなさに対する怒りが顔に表れている。
「いらっしゃ……あんた、さっきの!」
「満室なんだろう?」
最初に訪れた宿に再び足を踏み入れるアイン。その見透かしたような目を見た店主は、必要以上に驚く。
「だからそうだと言ったじゃないか!さっさと出てってくれ!」
「よく擬態しているが、俺の目はごまかせない」
慌てふためく店主を壁際まで追い詰め、アインが店主の口に手を突っ込むと、鋭い牙が姿を現した。
「……やはり魔族か」
アインの手を振り切り、店主に扮していた魔族は背を向けて店の奥に逃げ込んでいく。
「逃がすか!」
剣に手をかけながら扉を蹴破ると、その奥は数人の魔族が身を隠していた。
「ひぃぃ!」
「人間だ!」
「殺さないで!」
「慈悲を!」
魔族たちは口々に命乞いの言葉を口にする。立派な角も、鋭い牙も今はとても弱々しく見える。
アインは剣を抜きながらゆっくりと部屋に踏み込み、店主の魔族に近づく。
「ここに居た人間たちをどうした」
冷たく殺意を孕んだ言葉が店主の耳に突き刺さり、店主は泡を噴く。返答次第ではこの場の魔族を皆殺しにする勢いで、アインは店主に剣を突き立てる。
「し……」
「死……だと?」
口からあふれた魔族の言葉を聞き、アインは剣を強く握りしめ振り上げる。
「し、知らない!知らない!俺たちはあの男に従って……!」
振り下ろされた剣は魔族のすぐ隣の地面に突き刺さり、魔族は気を失ってしまう。
「詳しく話せ」
「やあ、助かったよ。なぜか僕たちこの町の人に嫌われてるみたいでね」
帝国軍駐屯所の廊下を歩くジークは、前を歩く男に礼を言う。
「気にすることはない。困ったときはお互い様さ……大佐殿」
猫のような鋭い目つきでジークを見る男。ジークの後ろを歩くルルは、その男の目が怖くて仕方がなかった。




