第二十六話「廃屋」
帝都を旅立ってから半日が経った頃、一行は小さな小屋にたどり着いた。
もともとは旅人のために用意された休息所だが、魔族が勢力を増してからは旅人の数は減少しており、利用者はほぼ存在しない。ろくな整備もされておらず、今はただの廃屋でしかない。
「いい加減離れたらどうだ」
「す、すみません」
馬を止めるオルドにそう言われ、リヴは顔を赤らめながらオルドの腰から手を離す。
「食料は無さそうだね。ちょっと辺りを探索してみるよ」
「私もご一緒します」
ジークは小屋の現状を把握すると、近くの林に食料を探しに行く。ルルもジークの後ろに続き、アイン、リヴ、オルドの三人が残される。
日が暮れ始め、虫たちが演奏を始めている。馬たちは各々雑草を食べ、束の間の休息を楽しんでいる。
「冷えてきたな」
そう言うとオルドは小枝を集め始め、火を起こそうとする。なかなかうまくいかないと、リヴがすかさず魔術で火をつける。
「たすかる」
オルドはそう言って兜を脱ぎ、甲冑を外す。剣だけを手の届く場所に置いて腰を下ろす。
細い腕、スラリとした足。
あれほど威厳に満ち、力強さにあふれていたオルドだったが、装備を外せばただの女性だ。そのギャップにリヴは驚かされる。
「なんだ、ジロジロ見て」
「あ、すみません。キレイだなって……」
「おだてても何も出ないぞ」
火にあてられたせいか、オルドの頬が僅かに赤らむ。
リヴもオルドの隣に腰かけ、かじかんだ手のひらを火に向ける。
「それで、お前はずっとそこに立っているつもりか?」
オルドは小屋にもたれかかるアインに声をかける。
「見張りだ。お前こそ装備を外していざという時にどう対処するつもりだ」
アインは警戒を怠らない。いつでも剣を抜けるように気を張り続けている。
そんなアインの忠告をオルドは鼻で笑う。
「ふん、心配はいらん。そもそも私に甲冑など必要ない。むしろ身軽でいい」
膝を立て、足を組みながらアインを嘲笑するオルド。いつまでも気を張っているアインの姿が彼女の目には滑稽に映っているようだ。
少々腹が立ったアインは落ちていた木の枝をオルドに向かって投げつける。だがオルドは素早く体勢を整えると、その枝を切り落とし、薪として火にくべる。
「枝ひろいご苦労」
はっきりとしたしたり顔でアインに勝利宣言し、オルドは満足げに再びリヴの隣に腰を下ろす。
「仲良くなったようだね。良かった良かった」
「大佐、本気で言ってます?」
ジークが不機嫌な顔のアインをさらに不機嫌にさせながら戻ってくる。ルルはこれ以上問題を起こさないでくれと上官の行動を嘆く。
「とにかく食べましょう」
ルルは収穫した木の実やキノコをアインに差し出す。
木の実はともかくキノコは明らかに毒を持っていそうな見た目だが、ルルはニコニコしながらそれをアインの手に乗せる。
「お前、まさか俺に毒味をさせるきか?」
「よく分かりましたね。お願いします!」
ルルの行動がアインをさらに不機嫌にさせたのは言うまでもない。
「これはだめ、これは大丈夫、これはだめ、これもだめ、これは……大丈夫ですね」
アインが口に運んだ反応を見てルルはキノコを仕分けていく。その様子を見たジークはずっと笑いっぱなしだ。
「くくく、もっとやってやれ。笑いキノコでもあればその男も楽しくなるだろう」
オルドまでもが腹を抱えながら涙を流している。
リヴはどうしたらいいか分からず、とりあえずルルが仕分けたキノコを焼き始める。
腹が膨れたからなのか笑い疲れたからなのか、ジークとルルは眠りにつき、オルドもうとうとしている。
相変わらず一人離れたところに座りながら剣を抱えているアインに、リヴはキノコのスープを持ちながら近づいていく。
「あの、私もうお腹いっぱいで、これ食べませんか?」
手にしたスープをアイン差し出すが、アインは受け取ろうとはしない。
「もうキノコはいらない」
「そう……ですよね」
気を落としながら帰ろうとするリヴだったが、アインが呼びとめる。
「だが、捨てるよりはマシだな」
「は、はい!」
リヴから受け取ったスープを口に流し込み、星を見上げるアイン。
「なんだ、座らないのか」
「え、いいんですか?」
「自分で決めろ」
アインがスープを飲む姿を立って見ていたリヴだが、アインの思わぬ言葉に少し躊躇しながらも隣に腰掛ける。
「城を抜け出した日を思い出すな」
「そうですね」
二人の会話はそれだけだった。
スープを飲み干すのにもさほど時間はかからず、リヴは空いた食器を片付けるためにこの場を離れる。
たったそれだけだったが、不思議とアインの心にゆとりが生まれる。
気がつくとアインは眠りに落ちており、目を覚ました時には勝ち誇った顔のオルドが目の前に立っていた。
「ずいぶんと可愛らしい寝顔だったじゃないか。安心したまえ、見張りは私が寝ずにやっておいた」
「……ッチ」
本当は途中でジークと見張りを交代していたのだが、面白そうなのでジークも本当のことは言わない。
心身ともにすっかり回復した五人は再び滅都を目指して進み始めた。




