第二十二話「崩壊」
帝都はもはや都と呼べる姿を保っていなかった。
かつての秩序と繁栄の象徴であるその街は、立ち込める硝煙と燃え盛る炎によって破壊し尽くされている。
バートン、そしてルクス。
たった二人の侵入者によって帝都は崩壊した。
彼らが去った直後、複数の馬が崩れた帝都の城門を駆け抜ける。馬には兵士がまたがっており、全員が女性だ。
彼女らは帝都に入るなり状況を大方把握し、四方に散らばって生き残りの探索を始める。
「ジーク、説明してくれ。ここで何があった」
彼女らの先頭を走る女性がジークを発見し、駆け寄ってくる。
その女性は全身を鎧で固め、甲冑の隙間から長い金髪を垂らしている。凛々しい表情の中に力強い情熱を宿したような真っ赤な瞳で、ジークを見つめている。
「オルド……ずいぶん遅かったね」
満身創痍のジークはルルに支えられながらその女性のもとに歩いていく。
「質問に答えよ」
「相変わらずだね。済まないがそこに倒れているアインをどこか休めるところに運びたい。それと……」
ジークは彼らを救った勇者、アインに視線を向ける。アインはバートンの攻撃を受けた後気絶し、目を覚さない。
そしてもう一人の英雄、リヴ。
彼女にも視線を向けるが、ジークはそこであることに気が付く。
「そう言えば君の名前は?」
瓦礫に座り込むリヴに名前を尋ねるジーク。すべての視線がリヴに集まっていく。
オルドはリヴのフードから突き出た角を凝視し、眉をつり上げる。
「ジーク、彼女は何者だ?」
「ああ、彼女は魔……」
「大佐!」
ジークの言葉を遮るように叫び声を上げるルル。それと同時にリヴは何処かへ走り去ってしまう。
「やっちゃったかな?」
「はい、やっちゃいました」
申し訳なさそうにうつむくジークに、頭を抱えるルル。
オルドは去っていくリヴの背中を穴が空くほど睨みつけ、剣に手をかける。
「うっ!」
リヴを追おうとしたオルドの様子を見ると、ルルが大げさに苦しみ出す。
「オルド、みんな疲れてるんだ。いいね?」
「致し方あるまい」
オルドはジークの言葉に剣から手を離し、部下の女性を呼び寄せるとアインを馬に乗せて運ぶ。
「ジーク、シャルルー少尉。君たちも乗り給え」
「ああ、助かるよ。ルルも……」
馬に乗り込むジーク。ルルに手を貸そうとするが、ルルは下を向いたまま動かない。
「大佐……私」
「先に行ってるよ」
ジークの言葉に前を向き、深く頭を下げるルル。直後体の向きを変えると、リヴが走り去った方へ駆けていく。
「説明が長くなりそうだな」
「そうだね」
オルドとジークの二人はその背中を見送りながら帝国軍本部に向けて馬を走らせる。
「はぁはぁ……やっと見つけました。手間を取らせないでください」
息を切らしながら、ルルは帝都のはずれでうずくまるリヴを発見する。
リヴは小刻みに震えながら頭を抱え、顔を見せようともしない。
自分の兄がしてしまったこと。
取り返しがつかないこと。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
独り言のように何度も繰り返される贖罪の言葉。涙交じりのその言葉は彼女の口からあふれ続ける。
「あなた、自分が何をしたか分かってますか?」
ルルの言葉に、リヴは息が詰まる。
「ごめん……なさい」
絞り出した小さな言葉。涙が止まらない。
リヴはフードの裾を握りながら、消えてしまいたいと体を縮める。
「あなたは私たちを助けてくれたんです」
その言葉と、ルルの手のひらの温かさがリヴに触れる。
「え……」
震えは止まる。
恐る恐る振り返ると、ルルはリヴに見せたことのない柔らかい笑顔を向けていた。
「助けてくれてありがとうございます。改めて自己紹介です。私はルル。あなたの名前はなんですか?」
太陽のようなルルの笑顔に、リヴは涙が止まらない。
頬に当てられたルルの手に自分の手を重ねながら、精一杯の笑顔で答える。
「リヴ。リヴです。よろしく……お願いします」
「はい。よろしくお願いします」
この瞬間、二人の間に種族の隔たりは存在しなかった。




