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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第三章 「滅都編」

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episode2.8「影」

「さて、生物の頂点である魔王に対して行った貴様の所業……どう清算するつもりだ?」


 漂う影に魔王が視線を向ける。

 その敵意を孕んだ視線を真正面から受ければ、人間なら即死してもおかしくない。魔王のすぐ隣にいる隊長も思わず震え出してしまう。

 だが、隊長には魔王が何に対して怒りを向けているのかが分からない。

 魔王は確かに何かを見ているが、隊長にはそれが目視できない。


「居るのか……何かが」


 隊長もまた剣を握りしめ、魔王の視線の先を凝視する。目を凝らしても何も見えないが、数日前に感知した得体のしれない気配は魔族ではなく、そこにある何かから発せられたものだと理解する。


「下がっていろ人間。あれはおそらく人魔問わず精神を乗っ取る。貴様のような脆弱な精神では奴の格好の餌食だ」

「何を……!」


 不満ありげな隊長に構わず、魔王は大地を踏み砕く勢いで影に突っ込んでいく。

 影は布のようにひらひら揺れ、魔王の突進にも動じない。空をきり裂く魔王の爪で影は真っ二つにされるが、瞬時にくっつき何もなかったかのように再び揺れ始める。


「小賢しい。ならばこれはどうだ!」


 魔王は大きく息を吸い、怒号と共に吐き出す。隊長はとっさに耳を押さえるが、意識を乗っ取られた魔族と部下たちはもろにダメージを受けてしまう。だがそれによって影の支配から解放され、単純に意識を失う。


「なんて声出しやがる。戦車の砲撃のほうがマシだ」


 そんな音と衝撃をもろに受けた影は空中で四散し、霧のように散っていく。それでも回復しつつあるようで、徐々に元の形に戻っていく。


「今のうちに身を隠すぞ」


 そう言って魔王は魔術で気絶した魔族と隊長の部下を持ち上げ、都市の外へと走っていく。


「お、おい!」


 隊長はいまいち状況が理解できないが、今は魔王を追いかける以外選択肢はない。

 

「済まない、必ずお前たちの仇はとる!」


 無残に散る部下の死体を残し、隊長は魔王の背中を追う。




「はぁはぁはぁ。おい、少し休ませてくれ」

「寝言にしては目が開いているようだが」


 三十分ほど休まずに走り続ける二人。魔王は数人の魔族と隊長の部下を魔術で抱えながらだというのに息切れ一つない。一方隊長は度重なる疲労でもうこれ以上動けないといった様子だ。


「俺だってこれが夢の中ならどれだけ良かったか……」

「やはり脆いな」


 魔王が指先を少し動かすと、隊長の体が重力から解放されたように浮かぶ。


「うわっ!何すんだ!」

「これで少しはマシになっただろう」


 その言葉の通り、隊長の体は嘘のように軽くなる。一歩踏み出すだけで体は三歩先に進み、疲労感も感じない。


「最初からやってくれよ!」

「記憶力まで欠如しているのか?お前は共闘を断ったのだぞ?」


 

 魔王の助力もあり、二人は何とか都市の脱出に成功する。

 魔王が魔術を解くと隊長の体が重さを取り戻し、今までの分も合わせて疲労感も押し寄せる。


「もう動けん……」


 大の字で倒れる隊長。その横には魔王が運んできた部下たちも倒れている。気を失ってはいるが、息はあるようだ。数は七割ほど減ってしまったが、それでも隊長の心に僅かに温かさが残る。


「おい、これからどうする気だ?」


 隊長は都市の入り口上空を凝視する魔王に問いかける。


「同胞の回復を待つ。手加減できなかったのでな」


 魔王は都市の上空で旋回する影を睨みつける。どうやら影は都市から出られないらしい。





「便利な力だな。魔術って何でもできるのか?」


 都市から少し離れた場所で休息を取ることにした二人。

 魔王の魔術によって地面が掘り起こされ、空間が形成されていく。


「無論限界はある。魔王には無いがな」


 無骨ながらも空間は十分な広さがあり、強度も保たれている。魔王が指を鳴らすと火の玉が生成され、明るさや温度も調整される。


「やっと落ち着ける」


 隊長は装備を外し、ポケットから携帯食料を取り出す。それはもはや形を成さず粉になっているが、袋を開けて口に流し込む。


「お前も食うか?」


 もう一つ取り出し、魔王に投げる。


「人間は砂を食すというのか?」


 魔王はそれを指先でつまみ上げ、まじまじと観察する。


「仕方ないだろ。人類の生息圏はお前たちに奪われつつあるんだ。もうしばらくまともな食事なんかしてねーよ」


 魔王から携帯食料を奪い返し、口に運ぶ。



「お前、名は何という」


 落ち着いた視線で隊長に問いかける魔王。隊長は少し迷ったが名を告げる。


「ルシウスだ。ルシウス・ヴァルキリア」

「大層な名だな」


 すぐに名乗ったことを後悔する。


「で、お前は何て名だ?俺だけ教えたら不公平だろ」

「私に名は無い」


 冷たい声だった。ルシウスはそれ以上踏み入れなかったが、代わりに魔王が話を進める。


「私に親は存在しない。私は無から……いや正確には思念から生まれた」

「……どういうことだ?」


 人類の歴史上、まともに魔王と言葉を交わしたのは後にも先にもルシウスだけだった。

 魔王もまた、自分という存在を語るのは生まれてから初めてのことだった。

 なぜ語るに至ったのか魔王自身も理解していなかったが、あの影を見た時からここで話しておかなくてはならないと心が訴えかける。


「お前は千年以上昔に起きた厄災を知っているか?」

「厄災?魔女の話か?」


 悪いことをすると魔女がやって来て世界を滅ぼす。どこの家にもある絵本の内容だ。ルシウス自身も幼いころ母に読み聞かせてもらっていた。



「あれは事実だ」



 魔王の言葉には重みがあったが、いきなりそう告げられてもルシウスにはピンとこなかった。


「おいおい、お前自身が魔女とか言い出すんじゃないだろうな」

「私は魔女ではない。だが、まったく違うとも言えん」


 ルシウスが唾を飲み込む音と心臓の激しい鼓動だけが空洞に響く。


「魔女は十闘神に封印されたんだろ!?」


 もう魔王の言葉が、おとぎ話とは思えなくなっている。


「そうだ、それも事実。だが、全てが封印されたわけではない」

「もったいぶるな、心臓がもたないだろ!」


 声を荒げ、魔王に掴みかかるルシウス。


「私は魔女の封印から漏れた残留思念から生まれた。そしておそらくあの都市にも同種のものが存在する」


 魔王の言葉にルシウスは手を離し、尻もちをつく。体が震え、立ち上がれない。


「な……それじゃあ俺たちの仇は」

「そうだ。おそらく私と同等、もしくはそれ以上の力を持っている」


 暖かかった空洞の温度が一気に下がる。


 厄災が千年以上の時を超え、二人に襲いかかる。


 







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