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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第三章 「滅都編」

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episode2.6「アイン」

 俺が勇者でなくなった日からどれだけ時間が経ったのだろう。

 三年、五年、それ以上かもしれない。

 毎日繰り返される非人道的な行為の数々。相手が人間ではないのだからそれも仕方がないのだろう。奴らは俺の尊厳を破壊することを楽しんでいるのだから。


 目を覚ますと同時に奴らの遊びが始まる。今が朝なのか夜なのかも分からず、奴らが飽きると眠りにつく。

 死なない俺に食事は必要なく、たまに奴らが気まぐれに差し出す得体のしれない生物を口に運ぶくらいだ。

 

 永遠に続く地獄。死が解放にならない絶望。

 助けは来ない。

 終わりも来ない。


 だが、その日は何かが違った。

 ここに捕らえられた日以来初めて一人でに目を覚ます。

 奴らが来ない。だが、気配がないわけではない。

 それでも抜け出すなら今しかない。


 俺は手錠の様子を確かめる。

 ろくに整備されていないそれは所々錆びており、やせ細った俺の腕でも破壊するのは難しくなさそうだ。

 問題は鉄格子だ。鉄格子も手錠同様に錆びているから体当りすれば突破できるかもしれない。だがその保証はなく、仮に突破できたとしても音で奴らを呼び寄せてしまうだろう。

 武器はなく、体力も衰えている。遊びではなく本気で俺を止めに来たら太刀打ちできないだろう。


 そんな困難はこれまで何度もあった。

 ザックが権力者を殴りつけた時も、ニーナの魔術が使えなくなった時も、ヨミが不治の病にかかった時も、もう駄目だと思った。

 その度に俺たちは乗り越えてきた。一人になってしまったが、今の俺は何度でもやり直せる。


 俺は手錠を引きちぎり、力任せに鉄格子にぶつかった。




 勇者の抵抗は、金属音となって魔王城に響き渡る。

 魔王が空けた椅子に腰掛けていたバートンはその音を聞き、直ぐに腰を上げる。


(あの音はまさか地下牢か?勇者め……)


 ここで万が一勇者を逃がすような事があれば城を任されたバートンの責任は重大だ。たとえ既に魔王が勇者に興味がなかったとしても、間違いなく魔王の信頼は失われる。四天王の任を解かれるかもしれない。


 慌てて魔王の間から出るバートンだったが、リヴが前方で走っているのを目視すると、更にうろたえる。


「貴様!そこで何をしている!」

「兄様、今の音は何でしょうか?私、確認いたします」


 久々の兄との会合に笑顔を見せながらも、歩みは止めないリヴ。


「止まれ!この先は王が管理する部屋だ!貴様の侵入は許されない」


 地下牢の入り口に手を掛けるリヴを制止するバートンだが、リヴは止まらない。


「下級魔族たちがここに出入りしているのは知っています。その理屈は通りません」

「待て!」



 リヴと勇者は合わせてはならない。

 誰に告げられたわけではないが、バートンは本能的にそれが良くないことの前触れだと感じる。


 兄の制止を振り切り、扉を開けるリヴ。風が吹き、同時に地下から血なま臭さと獣臭さを煮詰めたような激臭が漂ってくる。


「うっ……」


 思わず鼻に手を当てるリヴ。だがそれと同時に確信する。この奥に母の言っていた男が捕らえられていると。


「兄様は知っていたのですか?」

「貴様の知ることではない」

「答えになっていません!」


 一気に階段を駆け下りるリヴ。心がどんどん先に行き、何度も転びそうになる。後ろからバートンも追いかけるが、転がりそうに落ちていくリヴに追いつけない。

 バートンが追いついた頃には、リヴはもう鉄格子の前に立っていた。もぬけの殻の鉄格子の前に。


 血で血を洗うように何重にも塗り重ねられた血痕が所々に残されている。何かしらの臓器が干からび、転がっている。その光景が目に入るたびにリヴは嗚咽し、とうとうその場に座り込んでしまう。


「兄様、もう一度聞きます。知っていたのですか?」


 消え入りそうな声で尋ねるリヴ。バートンは答えない。


「……よく分かりました」


 リヴはよろめきながら立ち上がり、ゆっくりと階段を上がっていく。バートンは無言のままその背中を見送り、完全に見えなくなると暗闇に向かって声をかける。


「居るのだろう」


 その呼びかけに応えるように暗闇からアインが姿を現す。


「まさかお前のようなガキに気取られるとはな」


 アインは牢から脱出した後、直ぐに逃走しようとはしなかった。そのまま地下に隠れ、追っ手を撒いた後城を出ていくつもりだった。だがその計画もバートンによって阻まれる。


「お前、ここに来ていたカスどもとは違うな。何者だ?」


 どことなく魔王の面影があるバートンに向かって問いかけるアイン。相手は小さな子供だというのに体の芯が震える。


「なぜ所有物に身分を明かさねばならない?」


 バートンはアインを再び捕らえると、手錠をより強固なものに変える。そして鉄格子に魔術をかけ、アインの僅かな自由は終わりを告げる。



「貴様は死ぬまでそうしていろ。もっとも、貴様にそれは許されんがな」


 バートンは内心胸をなで下ろしながら勇者の前を去り、再び魔王の間へと戻る。

 アインはその背中を睨みつけながらも、頭の中は先ほどまでここで泣いていたもう一人の魔族の事を考えていた。


(あのガキ……どこかで会ったか……?)


 その答えは今はまだ、分からない。


 


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