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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第三章 「滅都編」

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episode2.5「白い都市」

 初めに異変を感じたのはバートンが生まれた時だった。

 僅かに空気が淀み、空が震えた。それを魔王は祝福と認識し、さほど気には留めなかった。

 そして二度目。リヴ誕生時の天変地異。

 二人の血族が育つにつれ、違和感は大きくなっていく。


 その違和感は魔族側だけではない。勇者の敗北によってさらに生息圏を縮めた人類側もまた、ある地点から発せられる違和感に苛まれていた。

 人類はそれを魔王軍の進軍だと結論づけ、着々と戦争の準備を進めている。




「なにか感じねぇか?」

「あぁ?何言ってんだ、ボケてんじゃねぇぞ」


 荒野を歩くスパーダも僅かながら邪悪な気配を感じ取る。横を歩くアモールは特に何も感じないようで、怪訝な顔をしながら石を蹴り飛ばしている。




「魔王様!見えました!」

「……うむ」


 魔王軍の尖兵がある山を指差す。近づくにつれて気配が大きくなっていく。

 魔王城は魔王の魔力によって空気が淀んでいるが、この場所はまるで魔力が腐っているような言い表せない不快感が漂っている。

 

 山の麓には小さな都市が形成されていた。禍々しい気配と反して、白く新しいその都市はこの場所の違和感を増幅させている。

 だというのに人の気配も魔族の気配もしない。まるでここだけ時間が止まっているようだ。



 去れ。近づくな。

 頭の中に声が流れ込んでくる気さえする。



「う、うがぁぁぁぁ!」


 先頭を歩く魔族が突如叫び声を上げる。そしていきなり振り返るとその後ろを歩く魔族にいきなり噛みついた。


「うぎゃぁぁ!」


 噛みつかれた魔族は悲鳴を上げ、その声を聞いた魔族たちも次々に正気を失う。所々で争いが発生し、魔王に噛みつく魔族すら現れる始末だ。


 魔王は体中に噛み付いてくる魔族には一切反応せず、腹に力を込めると大声で大地と空を揺らす。


「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 魔王の近くにいた魔族は一瞬で意識が絶たれ、遠くの魔族も自我を取り戻す。


「あ、あれ、俺何を……っ痛てて!」


 身に覚えのない傷に慌てふためく魔族たち。魔王はただただ目の前の都市を睨みつける。



 都市内部に侵入する魔王たち。下級魔族は何故かこの場所が心地良いようで、羽根を伸ばしながら走り回っている者もいる。一部の上級魔族たちは何かしらの違和感を抱えているようだが、居心地の良さが上回ってしまう。

 この中でただ魔王だけが険しい表情を浮かべている。


「どうされましたか魔王様。こんなに空気がおいしいの魔王城とここくらいですよ!ほら、なんだか魔力も高くなってる気がしますし」


 下級魔族が手を振ると、鋭い雷が天から振り注いだ。普段とは比べものにならない強力な魔術に、下級魔族ははしゃいでいる。


 確かに魔王自身も怖いほど魔力の高鳴りを感じていた。今ならこの程度の都市を滅ぼすのは造作もないだろう。魔王でなくともここにいる魔族が一斉に暴れ出せば同じ結果になると確信するほど、魔力の上昇は異常だった。



 いっそのことここに二つ目の魔王城を建設しないかと下級魔族が提案した頃、人類側の先鋭たちも都市の入り口に到達していた。


「間違いない、魔の気配だ……」


 隊長らしき男が、この都市の異常な気配を感じ取る。後ろに続く数十名の戦士たちも一様に気を引き締めている。


「人類をなめるなよ……いくぞ!今こそ我々の土地を取り戻すのだ!」

「おおぉぉぉ!!」


 隊長の掛け声で一気に都市に踏み込んでいく人間たち。その手にした剣には人類威信がかかっており、確固たる信念のもと突き進む。道中の下級魔族たちはその覚悟の差ゆえか手も足も出ず、人類は都市の中枢まで潜り込む。


 しかし、そこで人類の進撃も終わりを告げる。


「な、なんだあの魔族は……」


 ほかの魔族とは比べることすら愚かなほど、目の前に鎮座する魔族は圧倒的だった。睨まれただけで体が動かなくなり、息をするのも忘れてしまうほど恐怖に支配される。


「魔王様、この人間どもかなり多くの同胞を殺戮したようです」

「らしいな、思ったよりもやるようだ」


 上級魔族が人類側の隊長の頭を掴みながら魔王に進言する。魔王は足を組みながら、今にも倒れそうな人間たちを見下ろす。


「き、貴様が魔王……だと?勇者の……か、仇!」


 隊長は血がにじむほど握りしめた剣で、自らを掴む上級魔族の腕を斬りつける。魔族が手を離すと、震える足を気力で動かし、魔王に向かって剣を突き出す。


「勇者か、懐かしい響きだ」


 魔王は身動き一つしない。だが、隊長は近づけない。

 隊長の脳が全力で危険信号を発する。手が、足が、心が、立ち向かうことを拒否する。


「勇者どもはもう少し動けたぞ?」


 魔王が重たい腰を上げる。ただそれだけで隊長は限界を迎え、ぷつりと意識が途絶える。


 だが、途絶えたのは人間たちの意識だけではなかった。上級魔族たちも次々に意識を失っていく。

 魔王が後ろを振り向くと、それと同時に目の前のそびえ立つ山から影が吹き出す。

 魔王の背筋が凍る。


(な、なんだあれは)


 人間たちが恐れていたのは魔王の気配だけではない。


 影は形をなさないまま都市を駆け巡り、魔族と人間を通り過ぎていく。その度この世のものとは思えない悲鳴を上げ、まるで体が乗っ取られたように目つきを変えて立ち上がる。


 あっという間に影は魔王とその前に倒れている隊長を除いて全てを飲み込んでしまう。


 

「おい、起きろ」


 魔王は倒れる隊長の頭に手を乗せる。


「うっ……な、なんだ、お前たち……どうした!?」


 目を覚ました隊長と魔王は、自分たちの部下に取り囲まれる。皆、目はうつろで、ヨダレまで垂らしている。


「人間、部下を生かしたければ力を貸せ」

「貴様ら魔族と手を組めと?断る!」


 断固拒否する隊長だが、部下たちが同士討ちを始めると考えが変わる。


「手は組まん……お前は魔族を、俺は部下を止める」

「魔王に指図するか。命知らずな人間だ」


 歴史上、初めて人間と魔族が背中を合わせた瞬間だった。




 


 



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