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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第三章 「滅都編」

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episode 2.3「スパーダ」

 魔王を除いた全魔族のなかで最強は誰か。その質問に対しほぼ全ての魔族はスパーダの名前を挙げるだろう。


 魔王を上回る巨体。その体にそぐわない怪力。強さに対する向上心。それでいて弱者をいたぶらない高潔さ。本人は否定するだろうが、魔族には珍しく優しい心も持ち合わせている。


 そんな彼は今、魔王の手が届かない辺境の地を目指していて歩き始めていた。


 魔王が勇者を退けてから十三年。

 魔族は人類にとって畏怖の対象でしかない。たとえ子供の魔族であっても、大の大人が逃げ出すほどだ。

 相手がスパーダともなればそれはより顕著となる。スパーダが町に立ち寄るだけでその町はもぬけの殻となり、もう二度と誰も近づかない。それがスパーダにとっては何よりの怒りの種となる。


「腰抜けどもが。何故誰も立ち向かって来ない?」


 勝利は終わりではない。むしろスパーダにとってはそこが始まりだった。

 抵抗、反乱、仇討ち、自棄。

 それら全てが戦いの火蓋となる。だが、ここには何もない。

 

 旅の途中でもしかしたら勇者に匹敵する逸材と出会えるかもしれない。武者修行のつもりのスパーダの旅は実につまらないものになってしまった。



 空虚な旅が中盤に差し掛かった頃、スパーダは一人の若い魔族と出会う。

 その魔族は全てが鋭い。

 角も、牙も、爪も、瞳も。

 そして真っ赤な髪を風になびかせ、全身を赤黒い血でコーティングしていた。


「おい、そこのお前」


 スパーダの問いかけに魔族は答えない。そのかわりその鋭い爪をスパーダに向けて突きだしてきた。

 スパーダはその攻撃をあえて避けず、体で受け止める。爪はスパーダの鎧に阻まれるかと思われたが鎧を貫通し、スパーダの肉体に到達する。しかしスパーダの肉体は鎧以上に強固であり、逆に魔族の爪をへし折ってしまう。


「ッ!」


 魔族は一歩引き、すぐさま攻撃手段を牙に変更する。が、スパーダに首を掴まれ、地面に叩きつけられてしまう。


「かはっ!」


 全身に逃れようのないダメージが襲いかかり、魔族は意識を失う。



 日が傾きかけた頃魔族は目を覚まし、すぐに飛び起き戦闘態勢にはいる。が、何かがおかしい。


「ッ!?」


 違和感の正体は衣服だった。

 身につけていた血まみれのローブはどこかへと消え去り、代わりに人間の衣服が不格好に着せられていた。


「お、やっと目を覚ましたか。殺しちまったかと思ったぜ。しかしお前女だったんだな」


 魔族はこれまで以上にスパーダから距離を取り、自分の体を手で覆う。

 

「テメェ、何しやがった!このゴミクズやろう!」


 足もとの石を手当たり次第に投げつける魔族。ほこりが当たる程度のダメージではスパーダは顔色一つ変えない。


「弱い奴はよく吠えるって魔王が言ってたが、本当だったらしい」

「弱いだと!?それにマオウって何だ!ごまかすんじゃねぇ!」


 魔族の王である魔王の存在を知らない魔族は一定数存在する。


 そもそも魔族という呼び名は人類側自分たちと違う存在をそう呼び始めただけに過ぎない。

 魔王の存在どころか自分が魔族と呼ばれていることすら知らないことも珍しくはない。


 スパーダの前で吠えるこの女魔族もそうだ。

 自分が何者かもわからず、誰も教えてくれない。


「お前、一人か?」


 スパーダのその言葉に女魔族の手が止まる。


「テメェには関係ねぇだろ!」


 強い言葉を使うが、彼女の目には涙が浮かんでくる。

 

 彼女の衣服に付着していた血。

 それは彼女のものでも人間のものでもない。きっと彼女と一緒に行動していた他の魔族のものなのだろう。そうスパーダは考える。


「お前、俺について来い」


 そういうとスパーダは涙を拭う女魔族の手を引っ張る。


「ハァ!?わけわかんねぇ!」


 もう片方の手でガンガンとスパーダを殴りつける女魔族。全くダメージはないが、スパーダは煩わしそうな顔をして女魔族を軽々と抱きかかえる。


「殺す!降ろせ!」

「お前、名は?」

「そんなもんねぇよ!」

「そうか、俺はスパーダ。魔王軍四天王だ」

「聞いてねぇ!」


 激しく抵抗し、スパーダの腕から飛び降りた女魔族は再び戦闘態勢をとる。


「お前は今日からアモールだ」


 予想だにしないスパーダの言葉に、女魔族は硬直する。小さな脳みそをフル回転させるが、彼女の頭ではその言葉に対する回答が見つからない。


「名前だ、名前」


 ボサボサの赤い髪を掴み、かき回すスパーダ。


「名前?オレの?」


 ようやく言葉の意味は理解するが、感情が追いつかない。


「オレって……最初から思ってたが、お前口が悪いな。もう少し丁寧な言葉を使え」

「うるせぇ!なめられるだろうが!」


 スパーダの腕から逃れようとするが、女魔族がいくら掴んでもその腕はびくともしない。


「言葉じゃなくて実力で黙らせろ。強さこそがすべてを解決する」


 その言葉の意味を身をもって知る女魔族。

 抵抗は次第に羨望へと変わる。


「オレも……」


 女魔族は抵抗をやめ、スパーダの瞳を見つめる。


「オレもテメェみたいに強くなれんのか?」

「知るか。だが少なくとも俺と来ればお前はこれ以上仲間を失わん」


 いつの間にか流れていた涙を、女魔族は拭おうとはしない。目の前の巨大な男に釘付けになってしまう。



 二人は誰もいない町を歩き始める。


「なあ、アモールってどういう意味だ?」


 口から牙を覗かせ、無邪気な顔でスパーダを見上げるアモール。


「さあな、忘れた」

「強いって意味か?なあ強いって意味だろ!」


 ぴょんぴょん跳ね回るアモール。

 この旅も少しはましになるかもな、そう考えを改めるスパーダだった。







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