第二十話「帝都攻防戦その二」
体中からエネルギーがほとばしるルクスを、両腕を負傷したバートンより脅威と認定するアイン。ルクスの頭巾の中から覗かせるその真っ白な瞳が赤く染まっていく
一瞬、ほんの一瞬瞬きをする間にルクスはアインとの距離を詰め、アインの腹に風穴を空ける。
「ゴフッ!」
アインの体は悲鳴を上げ、損傷した内臓が穴からこぼれ落ちそうになる。
「アイン!」
「大佐後ろ!」
アインに気を取られるジークにもたれかかるルルが、バートンの接近に気が付きジークの服を引っ張る。
負傷した左腕に雷をまとわせながら振り下ろされるその一撃を寸前でかわすジークだったが、直接当たらなくても痺れが全身を襲う。
「済まないルル。助かったよ。なるほど、まだ戦えるらしい」
ジークはルルから手を離し、バートンに改めて向かい合う。アインのことを気にしていられるほど余裕はないらしい。
体の穴を手で押さえ、膝をつくアイン。
(奴の動きが全く目で追えなかった)
痛みは徐々に引いていくが、体に刻まれたルクスへの恐怖心は消えない。
ルクスは再び姿を消し、彼の地面を蹴る音だけがアインの耳に届く。
少しずつ移動し、建物を背にするアイン。前方からの攻撃だけに集中するための作戦だったが、ルクスの攻撃はそこからではなく頭上からやってきた。
「ガッ!」
岩をも砕くかかと落としがアインの脳天に炸裂し、頭蓋骨にひびが入る。吹き出した血が顔面を覆い、意識が朦朧とする。
「二回も殺したのにまだ息をしている、不死というのは本当らしい。まったく魔王様も余計なことをしてくれましたね」
ようなく姿を現したルクスがアインの髪を掴んで体を持ち上げる。
「でもただそれだけ。貴様は死なないだけのただの人間」
意識が飛びそうになるアインのみぞおちに膝蹴りをするルクス。アインは嗚咽とともに意識を呼び起こし、終わることのない苦しみに顔をゆがめる。
だが、その目は死ぬことなくルクスを睨みつける。
体は何度殺せても、アインの心は殺せない。
(まただ、またあの時の目だ。お母さんとお父さんに対して向けていた、あの冷たい目だ)
爪が食い込み、血が出るほど握りしめられた拳がアインの顔面に叩きつけられる。壁を破壊しながらアインの体は吹き飛ばされ、数メートル先でようやく停止する。
体中の骨がバキバキに粉砕され、立ち上がることができない。ルクスはゆっくりとアインに近づき、二百年分の恨みを叩き込み続ける。
ジークの剣戟を、バートンはいとも簡単に避け続ける。それでいてルルへの警戒も怠らず、少しでも彼女が動けば視線をそちらへと向ける。
不意打ちとはいえ傷を与えた事で戦えると判断したジークだったが、バートンのうちに秘められた底しれない戦闘能力に恐怖せずにはいられない。右腕が焼かれていなければもう決着がついていただろうと思わずにはいられない。
「まいったね。さっきの魔族とは比べものにならない。君、何者だい?」
「死にゆく貴様に名乗る名は持ち合わせていない」
バートンは攻撃を避けながら傷つけられた左腕の治療に集中していた。
魔族の中でも治癒術を扱える個体は非常に珍しく、バートンの知る限り自分と魔王、そしてリヴだけだった。
「大佐!その魔族、何やら左腕を気にしています!何か企んでいるようです!」
「いいね、ルル。君がいてよかったよ」
ルルの指摘を受け、ジークは攻撃をバートンの左腕に集中する。
「おや、傷がだいぶ回復しているね。アインといい君といい、一体どんな体の作りをしているんだい?」
「小娘が、余計な口を」
バートンは治癒を途中で切り上げ、左手の指を鳴らす。放たれた雷撃がルルを襲い、悲鳴を上げることすらできずに命を奪う……リヴさえ立ち上がらなければ。
「申し訳ありません。少し寝ていました」
ルルの前に立ち、リヴはバートンの雷を払いのける。
「またしても我に仇なすというのか……」
「最高だよ君!後で名前を教えてくれ!」
顔をゆがめるバートンと、爽やかに笑うジーク。
リヴは再び兄に立ち向かう。
「あれ、バートンさん。まだ戦ってたんですか?」
張り詰めた空気を裂くようにルクスが姿を現す。ボロ雑巾のように痛めつけられたアインが引きずられており、地面には血の線ができている。
「さあ、終わりです。君たちのなかで一番強い勇者がこうなってしまったら勝ち目はもう無い。楽に殺してあげますから抵抗しないでください」
勝ち誇ったルクスがアインの上に腰掛けながら三人に降伏を提案するが、誰一人としてルクスの方を向こうともしない。
「聞こえてます?恐怖でおかしくなっちゃいましたか?それとも勇者が死なないからって無視してるんですか?」
手刀をアインの背中に刺すルクス。アインは叫び声を上げ、吐血する。だがそれでも誰も振り向かない。
次第に苛立ちがこみ上げてくるルクス。
「お前は何か……勘違いをしている」
「あぁ!?」
決して離さなかった剣で、ルクスを斬りつけるアイン。
「俺が勇者だったのは、決して諦めなかったからだ。そしてあいつらがお前を無視するのは、俺が勝つと信じているからだ」
「殺す」
斬られた腹を抑えながらただ一言だけ返すルクス。
もうバートンも他の人間も関係ない。目の前の勇者を殺すことだけがルクスのたった一つの目的となる。
「受けて立つ。お前が俺を殺す理由があるように、俺はお前を倒さなきゃならない理由がある」
「勇者ぁぁぁ!」
両者は互いの譲れない想いを、再びぶつけ合う。




