第十五話「妹」
魔王城。
かつて勇者アインが終わり、また始まった場所。
その跡地では下級魔族たちが瓦礫を片付け、城を破壊した一人である魔王軍四天王スパーダは、退屈そうに瓦礫に寝そべりながら空を見上げていた。
「しかし意外じゃな。お主はあの勇者と戦いたかったのじゃろう?」
彼の傍らにはもう一人の四天王、アモールが下級魔族を椅子代わりにして腰掛けている。そして手にしたムチを振り、下級魔族たちに指示を出している。
「仕方ねぇだろ。バートンは立場上行かなきゃなんねぇ。それにルクスが自分から付いていきたいって言ってんだ」
瓦礫を掴み、力任せに握り潰すスパーダ。瓦礫はチリとなり、風に飛ばされていく。
「別にここは妾一人で構わんぞ?大丈夫じゃ、バートンには黙っておいてやろう」
「ふん、お前は目を離すと何をするかわかんねぇからな。それに俺はバートンにここを任されたんだ。たまにはアイツの顔を立ててやらねぇとな」
口角を上げながら横目でスパーダを誘惑するも、鋼の身体と意志を持つスパーダは意見を変えない。
「お主は真面目過ぎてつまらん」
アモールは腹いせに近くにいた下級魔族をムチで攻撃する。そののたうち回る姿を見ながらニヤニヤと笑みを浮かべる。
「悪趣味も大概にしろ。ただでさえ人手が足りねぇんだ」
「そうじゃなあ。どこかの誰かが城を破壊し、たくさんの兵が下敷きになってしまったからのう」
アモールの煽りに対し、スパーダは拳を思い切り地面に叩きつけようとするが、寸前でとめる。行き場のない衝撃が波となって発生するが、アモールはムチをくるくると高速回転させ、その衝撃を吸収する。が、作業中の下級魔族はその衝撃で空中に巻き上げられてしまう。
「おやめくださいスパーダ様!これではいつになっても城が復旧できません!」
飛ばされた下級魔族たちの声でスパーダは何とか怒りを収め、アモールを睨みつけたあと不貞寝を始める。
アモールは満足そうに笑いながら近くにいた下級魔族にムチを打った。
彼らの城が元通りになるのはまだまだ時間がかかりそうだ。
「バートンさん、聞いてもいいですか?」
「愚妹のことなら話さんぞ」
帝都への道を歩きながら質問するルクス。その質問の内容が分かっているかのようにバートンは返答を拒む。
「姫様って僕の前任だったんですよね?そんなに強そうには見えないんですけど」
気にせずに質問を続けるルクス。バートンは不機嫌そうに眉をつり上げる。
ルクスは何気ない仕草で石を拾い上げ、木陰に向かって凄まじい速さで投げる。
「うっ!」とうめき声が聞こえたあとに木陰から帝国軍の兵士が血を流しながら倒れる。二人を観察していたようだ。
「答えぬと言っているだろう」
バートンもまた髪をかきあげるような自然な仕草で雷の魔術を行使し、倒れた兵士の後方にいた数人の兵士を葬り去る。
「これから戦うかもしれないんですから教えてくださいよ」
兵士たちは敵の強さを理解し、次々と木々の隙間から姿を現す。しかしバートンもルクスも全く気にせずに歩き続ける。
「戦うことになったとしても、お前の出番はない」
「僕が殺してもいいですか?」
ルクスのその言葉と共に、突如雷雲が発生する。その雷雲は辺り一面に雷を呼び、二人を取り囲んだ兵士たちは一掃される。
「おごるなよ、ルクス。あれとて我が妹だ。貴様ごとき敵ではない」
「ちょっ!ビリビリしないでくださいよ!冗談ですって!」
ギロリとルクスを睨むバートン。バートンの体中からはバチバチと電気が走っている。
ルクスは両手を合わせながら慌てて謝罪し、二人は黒焦げになった兵士たちの間を通り過ぎていく。
「でもバートンさん、姫様のこと嫌ってると思ってましたけど、案外好きなんですね」
「それも冗談か?」
黒頭巾にビリリと電流が走り、全身に針が刺されたような鋭い痛みがルクスを襲う。
「も、もちろんですよ!さあ行きましょう!」
バートンに、リヴの話は禁句。
下級魔族が最初に教わる教訓を身をもって知るルクスだった。




