第十二話 「リヴとルル」
帝国軍本部の最奥、最も頑丈な部屋にリヴは軟禁されていた。
部屋は遥か高所に小窓が一つあるだけで照明も設置されていない。
「おい、魔族だってよ」
「案外人間と変わらないんだな」
「何なら好みかも」
「バカ!シャルルー少尉に聞かれたら殺されるぞ!」
ここに連れてこられる間、物珍しそうに兵士たちはリヴを見ながら口々に感想を言い合っていた。その度に兵士はルルに睨まれ、そのうち誰もリヴを気にするものはいなくなった。
「ここはもう使われていない軍の倉庫です。一応言っておきますが、妙な考えは起こさないでください。お前を生かしたのは大佐の一存です。責任も大佐一人が背負っています」
ルルはリヴの手錠を外し、硬いパンと僅かな水を与える。倉庫内には簡単な寝具なども用意されており、出られないこと以外は不自由はない。
「おとなしくしていれば命は保証します。ですが……」
眉と目を尖らせてルルはリヴを睨みつける。
その顔は兵士のものではなく、ルルの個人的な感情がこもっている。
「大佐の温情に泥を塗れば、私がお前を討伐します。肝に銘じておきなさい」
「はい……」
短い会話を終えると、ルルは足早に倉庫を後にする。一刻でも早くこの場を離れたいらしい。
重たいドアが閉まり、鍵がかかる音がする。
その後ルルが何かを叫び、兵士たちが慌ただしく行動し始める。倉庫の隣は兵士の訓練場になっているようで、ルルは新人兵に指南をしながらリヴの監視をするようだ。
地面にぺたんと座りながら天井を見上げる。
昨日の朝はまだ魔王城の自室にいた。
豪華な装飾、きらびやかな宝石、おいしそうな果物、たくさんの小間使い、姫の責任、ここには無いものがたくさんあった。
だがここにしかないものもある。
解放と安寧、そしてたくさんの人間。
かすかに聞こえてくる兵士たちの怒号も心地いい。
「どうして私は人間に生まれてこなかったんだろう」
思わず出てきたその言葉。
口にしたことを後悔する。
誰に問いかけてもその答えは返ってこないのだから。
私は魔族が嫌いだ。
奴らは凶暴で、凶悪で、人を襲う。
私の両親も殺した。何の理由もなく、ただ欲望のままに。
大佐が助けに来てくれなかったら、きっと私もここに居なかっただろう。だから私はここに居る。大佐と一緒に居たいから。
大佐が私に任せたあの魔族は危険だ。
大佐の話によると、知性のある魔族ほど人間に近い形をしているらしい。
きっと知能は人間と変わらない。今は大人しくても何を企んでいるか分からない。
魔族は魔族。
どこまで行っても本質は変わらない、悪だ。
「ル……シャルルー少尉!ジーク大佐が例の盗賊討伐に向かったそうです」
考え事をしていたルルに一人の兵士が伝令を持ってくる。渡された報告書にはジークだけでなく、アインも同行する趣旨が記されていた。
ルルはその紙を持つ手を強く握りしめる。
「なぜあの男がっ、私ではなくあの男が!」
怒りがこみ上げてくる。ルルにとってアインの存在はリヴと変わらないほど邪魔なものだった。
(アイツが大人しくやられていれば魔族もあの場で処理できた。卑怯な手を使って大佐に土を付け、大佐に取り入っている……何が目的だ!)
悔しさといかりで唇を噛みしめる。部下の前でなければ涙も流していたかもしれない。
部下に報告書をたたき返そうとしたその時、一番下の見覚えのある字が目にはいる。
ルル。ここは一番信頼する君に任せる。期待してるよ。
受け取ろうとした部下から再び報告書を奪い返すルル。困惑する部下だったが、ルルの表情を見ると何かを悟ったように帰っていく。
「どうしたんだろ少尉」
「さあ、何か良いことでもあったんじゃないか?」
兵士たちはルルを横目に見ながら素振りを続ける。
ルルは報告書を大事そうに胸に抱きしめ、今日も頑張ろうと前を向く。
ジークに期待されている、それだけでルルの不安も不満もすべて吹き飛んだ。




