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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第二章 「帝国編」

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第十一話 「交換条件」

 帝都の牢は、魔王城のそれとは比べ物にならないほど清潔だった。  

 湿気はなく、鉄格子も錆びていない。

 ネズミはおろか、虫すらいない。

 ベッドまで備え付けられており、シーツも定期的に交換されているようだ。


(ここなら二百年過ごすのも悪くないな)


 そう思ってしまう自分が妙に笑えてくる。

 ベッドに横になりながら天井のシミの数を数えていると、一つの足音が聞こえてくる。


「待たせたね、失礼するよ」


 軽装で現れたジークが鉄格子越しにアインに話しかける。

 アインはちらりと横目で見ると、寝返りを打ってジークに背を向ける。


「おや、嫌われてしまったかな」


 ジークは胡坐をかいて牢の前に座る。


「君の言いたいことはわかっている。いつまでここに閉じ込めているつもりだ、だろう」


 ある事件が記された一枚の紙が牢の隙間から差し込まれる。アインは目を通さないが、気にせずジークは話を進める。


 

「僕は今ある盗賊団を追っている。小規模だが殺人も起きている。それを何とかしたい」

「お仲間に頼めばいいだろう。あの目つきの悪い副官とかな」

「彼女は今君の連れの監視をしている。それに他の者も動いてはくれない」


 アインは体勢を変え、横目でジークを睨む。

 ジークの顔は悲しいようにも怒っているようにも見える。


「もちろん上にも掛け合った。でも軍はそんな小物に人員は割けないそうだ」


 拳を叩きつける音が牢に響く。

 ジークの顔は歪み、さわやかな兵士の表情は自分の力のなさを嘆く青年のものになっている。


「僕は人を救うために軍人になった。だけど軍は人では無く、国を救う場所だった」

「なんで俺にそんな話をする」


 その言葉にジークは鉄格子を掴み、激しく揺らし始める。


「あの時君は僕を殺せたはずだ!部下たちもだ!ここに着いてからもそうだ、君一人なら簡単に逃げ出せたはずだ!」

「人質を取っておいてよく言えるな」


 ベッドに座り直し、顎に手を置きながら呆れたように告げるアイン。それを聞いてジークの動きがピクリと止まる。

「そう、そうなんだ。君は他人のために自分を犠牲にした。それも魔族のためにだ」


 ジークの眼差しには期待の炎が宿っている。鉄格子を強く握りしめながら声のボリュームも上がっていく。


「君と彼女がどんな関係なのかは知らない、聞くつもりもない。だから頼む、力を貸してほしい……みんなを救いたいんだ」


 鉄格子から手を放し、深々と頭を下げるジーク。

 その姿を見ると嫌でもあの日の事を思い出す。




 二百と少し前のあの日。

 己の弱さを嘆き、罪を背負った男の顔。


「俺も連れて行ってくれ」


 そう言って地面に頭をこすりつける金髪の青年の姿と、目の前のジークが重なる。





「……条件がある」 


 アインのその言葉を待っていたかのようにジークは勢いよく頭をあげる。よほど強くこすり付けていたのか、オデコには床の模様が移っている。


「ああ!……ああ!何でも言ってくれ!」


 ポケットからメモを取り出し、アインの言葉を聞き逃すまいとペンを走らせるジーク。


「……あの女の開放」

「ああ、それと?」


 いつまでたってもそれ以上アインから言葉が返ってこないことに次第に表情が崩れていくジーク。


「それだけかい?」

「それだけだ。他は俺の問題だからな」


 ジークの口元が緩む。


「はは!そうかい。改めて名乗らせてもらうよ。僕はジーク。帝国軍大佐、ジーク・ヴァルキリアだ!」

「……アイン。そう呼ばれていた」

 にっこり笑いながら牢の中に手を差し入れるジーク。アインは少し考えたが、その手を取ると二人はがっちりと握手を交わす。


「よし、さっそく任務の説明をしたいところだが……」


 自らの手の匂いを嗅ぎ、鼻をひくひくさせるジーク。


「君、少し匂うね。一体何日風呂に入っていないんだい?」

「ふ、二百年だ」


 思わず口内から空気が漏れるアイン。ジークはそれ以上に大きな声で笑い始める。


「はは!その顔でそんな冗談を言うとは思わなかったよ。君って案外愉快なんだね」


 自分の目に狂いはなかったと、ジークは牢のカギを開ける。

 そしてアインを軍の浴場へと連れて行った。


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