【アーカイブ番号:CIV-DETH-882-L】
ACCESS_GRANTED: CLEARANCE_LEVEL_2
[STATUS]:STANDARD_PROCEDURE/MODIFIED
[SOURCE]:Emotions Ministry Family Register Auditor
(注意書きが書いてある。)
(「※本アーカイブは、帝国市民および公務員への「死の標準化」周知のため、LEVEL 2として一般公開される」)
分類: [戸籍管理/終末処理]
記録内容:【重要】継承死申請に関する窓口対応指針
■ 概要(System Log):
生存意欲の完全喪失に伴う絶望死を合法化し、行政的に受理するための「継承死」の申請が増加。これに対し、情動省戸籍監査官は「資産の不当な毀損」を防ぐため、厳格な審査基準を策定した。申請者が「継承死による資産の有益性」を証明できない場合、申請は即時却下(受理不可)となる。
■ 内部独白 / 遺棄ログ:
(……削除済……)
窓口の向こう側で、一人の男が「もう、消えさせてくれ」と泣きながら書類を差し出している。
その書類には、継承の有益性、数百年の不採算証明、親族の承認書類、および[削除済]の内容が、細かい神経質な筆跡でびっしりと書き込まれていた。
けれど、僕はそれを見もしないで、事務的な笑顔でこう告げるんだ。
「兄様、この『有益証明』、 1bit 足りませんよ? 貴方にはまだ、僕という執着が残っている。これは純粋な「継承死案件」とは認められません。不備(生存義務)により、返却します」
(……削除済……)
「死」すらも行政に管理される地獄。
窓口で「死ねません」と宣告された時の兄様の、あの空っぽの瞳……。
あはっ、最高に「お行儀がいい」じゃないですか。
【参考資料:継承死申請却下理由 10 選】
* 「執着残存」:家族(特に弟)からの愛が 1bit 以上観測されるため。
* 「資産価値保持」:肉体が「ピカピカ」であり、まだパッキング([削除済])に耐えうるため。
* 「公務未完了」:次代への公務(絶望)の受け渡しが完了していないため。
* 「印影不鮮明」:絶望で手が震え、申請書の印影が 1bit ズレているため。
* 「窓口誤認」:死ぬのは「情動省」ではなく、僕の「ラボ」で受理すべき案件であるため。
...(以下、 1bit 単位での却下理由が続く)
(記憶媒体が添付されてる。)
(再生しますか?)
[YES]/ NO
(ジジ.......ジジジ.....)
【叔父と甥と爵位】
「……叔父様。今四半期の『個体U-001』の維持費、および調整スケジュールです。ご確認を」
深夜の執務室。シリルは、自分の父親が叔父に壊されていく記録を、まるで「備品の検品」でもするように淡々と差し出した。
「……ああ。お疲れ様、シリル」
僕は皮手袋を脱ぐことさえせず、書類を受け取る。その際、シリルの指先が微かに触れた。若々しく、硬質な紅の輝きを放つ赤鱗。
「……君は、兄様に似てないね」
思わず呟く。顔立ちも、その冷徹な合理性も、自分の方に似ている。
「似なくてよかったです」
シリルは、感情の欠片もない微笑みを浮かべて答えた。
「父のように……『情動』というノイズに振り回される個体であったなら、私は叔父様の隣で、これほど効率的に帝国の未来を編むことはできなかったでしょう」
「…………そっか」
(――似ていたら、きっと。僕は君を、[削除済]。
シリルが、「あの頃の兄様」に似ていたなら。
自分は、君を「本物の残影」として、その精神を、その未来を、[削除済]を、兄様と同じように徹底的にパージしていただろう)
「叔父様。……父の家督、正式に叔父様が継承される手続きを進めましょうか? 父は、もはや印章を捺すだけの『機能』ですし」
「あは。まだ、いいかな……。君がそう判断したなら、それが最適解かもしれないけど」
シリルは静かに一礼し、部屋を出る。その背中には、父を壊した男への恨みなど微塵もなく、ただ「次世代の支配者」としての冷徹な自負だけが宿っていた。
「真面目すぎてほんと、笑っちゃいますよ。君は君が思うよりはずっと、兄様似だ。……ね?」
[SUBJECT_L]
* VITAL: [PERSISTENT_LOW_PULSE]
* DATA_INTEGRITY: [LOCKED_BY_ADMIN]
[TASK: ADS_SYNC] SUBJECT:L-REJECTED. [REASON: INSUFFICIENT_DESPAIR]
[DATA: REVENUE] CONVERTING_DEATH_WISH_TO_LIFE_WORK... [SUCCESS]
[STATUS: GLOBAL] THE_EMPIRE_DOES_NOT_ALLOW_YOUR_EXIT. [SIG: L]




