【アーカイブ番号:MLT-009-LNS】
> SYSTEM_ACCESS: START_SESSION...
> LOGIN: USER_A [LEVEL_MAX_ADMIN]
> [LOG]: FILE_MODIFIED_BY_USER_A
> [LOG]: OVERWRITING_COMPLETED.
> LOGOUT: USER_A
ACCESS_GRANTED: CLEARANCE_LEVEL_4
[WARNING] UNIDENTIFIED INCOMPATIBLE CODE DETECTED IN DESCRIPTION.
[STATUS]: UNRESOLVED / EVIDENCE_REJECTED / PROTECTED
分類: [資産毀損 / 心理的虚無 / 行政不受理 / 彩りの予兆]
記録内容:【栄誉の損壊と、不受理の密告】
証拠: 軍紀監察官(匿名)による音声データおよび現場写真
■ 概要(System Log):
* 第四戦域本陣にて、ランスロット侯爵による「帝国至高勲章」を含む支給備品12点の物理的損壊を確認。
* 監察官による「軍紀違反」としての密告、および証拠音声データの提出が行われた。
* しかし、軍事省トップ(アレス公爵)の直接介入により、当該記録は「存在しないもの」として処理。
* 本件は「戦時における精神的負荷の調整」と定義され、不受理が確定。提出された証拠は即座に[削除済]。
■ 内部独白 / 遺棄ログ:
(……軍靴の下で、金細工がひしゃげる感触だけが心地よい。
この勲章を授与される際、父上は私の瞳に何を見た?
英雄の輝きか? それとも、すべてを食い尽くす[削除済]の胎動か。
兄様なら、この勲章を『帝国の平和の証』として大切にアーカイブしただろう。
その潔癖さが、私には[削除済]。
あの日、天幕の鏡に映っていた獣は、今も私の内側で[削除済]を求めて鳴いている。
いつか、このひしゃげた金細工ではなく、兄様の[削除済]を私のコレクションに。
その時、ようやく私の『アーカイブ』は完成する。
許してください、兄様。あなたの正義が眩しすぎるから、私は[削除済]。)
[WARNING]UNAUTHORIZED DATA RECOVERY DETECTED
[削除されたはずの現場音声・生ログの復元]
【未検閲データ:戦地・泥濘の天幕にて】
目の前には、血と硝煙にまみれた「勝利」が積み上がっている。
「……また、増えたのか」
ランスロットは、軍から届けられたばかりの豪華な木箱を、泥のついた軍靴で無造作に蹴飛ばした。
中からこぼれ落ちたのは、帝国の栄誉を象徴する最高位の勲章だ。金銀の細工が施されたそれは、死臭の漂うこの戦場では、吐き気を催すほどに場違いな光を放っている。
山ほどある。
引き出しの中にも、瓦礫の隅にも、血に汚れたままの勲章が。
帝国は僕を「戦神」と呼び、この光り輝く金属の欠片を投げ与えてくる。だが、こんなものは、僕にとっては戦場の土塊となんら変わりはない。
「ゴミだ……。どれもこれも、ゴミだ」
僕が欲しかったのは、こんな死んだ金属じゃない。
僕が求めているのは、もっと……僕自身のこの、空っぽな胃の腑を焼き尽くすような、剥き出しの「生」の震えだ。
父上のように、他者の人生を根底から破壊し、その絶望を栄養にして笑えるほどの傲慢さも。
あるいは、兄上のように、完璧な論理の鎧を纏って、自分を律し、高潔な光を放ち続けるその美学も。
僕には、何もない。
ただ、効率的に敵を殺し、効率的に陣地を奪う。
僕の演算能力は、僕を「勝者」にはするが、僕を「満たす」ことは一度もなかった。
「……ああ、あはははは! おかしいな」
誰もいない天幕で、ランスロットは乾いた笑い声を漏らした。
鏡の中の自分を見る。そこには、勲章で飾られた英雄などではなく、ただ、何か「狂おしいほどに自分を壊してくれるもの」に飢えている、一匹の飢えた獣が映っていた。
いつになったら、僕の鎖に繋ぐ価値のある「獲物」に出会えるのか。
いつになったら、この退屈な勝利の味を、上書きしてくれる「絶望」を味わえるのか。
「……兄上。あなたのあの、眩しいほどの正義。その裏側に、僕と同じような『虚無』が眠っているなら……」
ランスロットは、足元の勲章を今度は思い切り踏みつけた。
パキリ、と安っぽい音を立てて砕ける栄誉。
「その時こそ、僕はこのゴミの山を捨てて、本当の『味』を知ることができるんでしょうね。……ね?」
[SUBJECT_L / SUBJECT_L]
* VITAL: [STABLE / LETHARGIC]
* DATA_INTEGRITY: [AUTHENTICATED / BYPASSED]




