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そうだ、発掘に行こう!

 ボケボケから少し回復してきた俺は、積極的に仕事を探すようになった。

 といっても、IT世代なのでネットの求人広告を中心に、だ。

 そこで流れてきたのが遺跡発掘の仕事だ。

 高齢者中心の職場だとのこと。ここなら行けると思った。


 面接場所は大和西大寺の駅のすぐ近く。これは好都合だった。

 何せ、大和西大寺のエキナカの立ち飲みバーの常連だったからだ。

……仕事を終えた後に一杯飲める!

 理想的な職場だった。

 というわけで、近鉄電車で大和西大寺に向かった。

 駅を出て北へ数分、地図アプリを見ながら面接場所へと向かう。

 そこは、トタン板に囲まれた発掘現場だった。

 巨大な土の山が塀の向こうに見られる。ショベルカーもある。

 けど、入り口がどこにも見当たらない。

 ぐるっと回ると何とか入れそうな場所があった。そこを開いて中に入る。

 俺は、性格としてこういう時にはどんどん中に入っていくタイプだ。ものおじしない。

 何、叱られたら外に出ればいい。こちとら言われた場所に来たんだ。問題はなかろう。

 プレハブの事務所に入って面接に来た旨を伝える。

 すると、現場監督らしい人が現れて仕事内容の説明をしてくれた。

 なかなか丁寧な説明だった。

「ほとんどが肉体労働です。ショベルカーで掘った土をスコップで運び、そこから出土品を探します」

「泥水につかりながら泥水を汲み上げて、それをふるいにかけるのが主な仕事です」

……思っていたのと違った。

 俺が思っていたのは、正方形に糸を張って、その中をハケで払うタイプの発掘だ。土器片や木簡が出てきたら方眼紙に記録して取り上げる。一日一センチずつ掘っていくヤツだ。あるいは、土器片をパズルのように組み立てていく。木簡を洗って保存液にひたす。

 こんなにワイルドな発掘じゃない。

 さて、俺には肉体労働に対して致命的な欠陥があった。

 体が弱いのだ。

 よく風邪をひく。というか、感染症全般に弱い。コロナには四度ほどかかっている。

 そして持病を抱えている。梅雨の時期である六月はほぼ寝込んでいるくらいだ。十一月から三月にかけても寝込むことが多い。寒さは腰痛の大敵だ。これは医者にもどうしようもない。そして、暑さにも弱い。

 このワイルドな現場にいたら確実に殺られる!

 とくに八月の炎天下では確実に死ぬ!

 というわけで、俺はこの仕事をパスすることにした。


 一週間後、電話がかかってきた。

「いつから来れます?」

「申し訳ないです。体力的に無理そうなので、この話はお断りしようと思っていたのです」

 申し訳ないことをした。けど、まだ死ぬわけには行かない。他にも仕事はあるだろう。そう思ってパスした。

 余談になるが、この面接場所は応募者の資質を見分けるふるいになっていたのではないかと思う。

 入りにくい場所に入っていく度胸と判断力の有無を試していたのではないだろうか。


 次に応募したのは警備員の仕事だった。

 実を言うと俺は、居合、空手、柔道、中国拳法を一通り経験している。車の免許は持っていないが、固定施設内の巡回警備なら何とかなるだろう、そう考えていた。昼食も、施設内で売られている弁当を買ってきて詰め所で食べるのは大丈夫だという。

 問題は定年だった。六十歳。今年五十九なのであと一年。その後の保証はない。

 まあそれでも生活費が稼げればそれでいい。

 そういうつもりで応募した。

 おそらくは若い応募を求めていたのだろう、警備員系は定年を理由にことわられることが多かった。

 一件だけ面接まで行けた会社があった。高槻市の会社だ。

 実はそこは知り合いのバーの目と鼻の先だった。仕事終りに一杯やりに行けるのならこれほどありがたいことはない。

 ここがくせ者だった。

 警備員と言いつつ「実は」と別の仕事を紹介してきた。

 さすがにやりたくない仕事だったのでおことわりした。


 占い師の募集にも応募してみた。昔、占い師をしていたことがあったからだ。

 筮竹と筮筒、ケロク、周易の文庫本を入れた占いセットを持って、デパートの一角にある占いコーナーで面接を受けた。ちなみに、算木は出がけに探したが見つからなかった。

 出来高払いの半払い。ただし、振り込みは翌々月。登録には住民票がいる。前月に出勤日と出勤場所を申告、基本的に毎週固定曜日固定時間。

 昔の占い師のように、ふらっと現れて取っ払い(日払い)、ではないのだ。これはがっかりだった。登録用紙はもらったが、あまりにも煩雑なので投げてしまった。

 占ってみても、幸先のいい卦ではなかった。


 塾の先生も応募してみた。

 面接と試験を受けに行ったのだが、そこは地図アプリに住所を入れるとかなり離れた場所に案内されてえらい目にあった。

 英語の試験で「swim」の過去形が答えられなかったのは痛恨のミスだと思う。

 遅刻と合わせての不合格だったようだ。


 居酒屋チェーンのマネージャーも応募してみた。

 大阪市の食品衛生管理責任者の資格はある。

 元バーのオーナーなので、シフトを組んだり、飲食材の発注や管理をしたり、ビールサーバーの洗浄といったこともできる。

 が、実際に求めていたのはただの労働者だった。

 開店前に掃除をして、いつも厨房にいる。

 面接をしたエリアマネージャーも疲れ果てた様子だった。


 食品工場の求人にも応募してみた。

 ここは九時から五時の求人だったが、午前五時から十二時までのシフトに入ってくれないかと言われた。そこしか空きがないというのだ。さすがに始発の電車が動く前というのは不可能だった。


 ネットでの求人で不思議なのは、自分が不合格になった求人がいつまでも出ていることだ。

 たとえば、あるマンションの管理人。立地もいいので応募は多いはずだ。

 マンションにはずっと住んでいたし、管理人の仕事はよく知っている。ゴミ庫の中身を分別したり、廊下や窓を掃除したり、郵便受けからあふれたチラシをまとめたり、電球を交換したり。俺よりも年上の人が機嫌良く仕事をしていた。基本的に担当する建物の掛け持ちはしない。

 求人が埋まったのなら何ヶ月も同じ求人を出し続けているのはおかしいし、そんなに人が入れ替わるような過酷な仕事でもない。

 わざわざ交通費を使って面接に行く身には、何とも納得が行かない。

 ひょっとしたら、面接をしたら一件につきいくらか補助金が入る仕組みでもあるのじゃないだろうか。知らんけど。


 スーパーマーケットの精肉コーナーとかも応募してみた。行ってみると、青果コーナーや惣菜コーナーなども選べると言う。

 簡単な計算問題のテストをこなして面接はおわった。

 不合格の理由はおそらく年齢だろう。ぱっと見、中年までの人が働く職場だった。


 とまあ、あちこち応募しては落ち続ける日々に心は疲弊してくる。

 一番つらいのが、合格通知は一から二週間で出ます、というヤツだ。

 その間、他の応募は出来ない。いや、してもいいのだが、もし複数の合格が出たらどうしたらいいのかという不安があった。

 丁寧なところは封書で不合格の通知が来る。そんなにコストをかけなくてもいいのに、と思う。

 求職者としてはむしろ、メール一本の方がありがたい。すぐに次の応募にかかれるからだ。

 そんなある日、近所の方が四月からの就職口の話を持って来てくれた。

 給料もいいし、ほぼ確実な話だと言う。

 渡りに船、とこの話に飛びついた。

 これが落とし穴だった。

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