AI取引
第三章 AI取引
AIのレミングス取引にかなりの損失をくらった俺は、AI取引で損失を取り戻すことを考えた。
最初に考えたのが、海外のAI取引をうたうトレード会社を使うことだ。
ネットで調べて、評判のいいところを選ぶ。
レバレッジ二百倍までOK、初回入金時プラス百パーセントの資金援助キャンペーン中。
セーシェル諸島に会社の籍があり、セーシェル金融庁が認可。
返金には素直に応じてトラブルは起きていない。
自分でのAIプログラミングが可能。
まあ、多少うさんくさくは感じたが、いざとなったら日本の金融庁に訴えると言えばなんとかなるだろうと高をくくり八万円を振り込んだ。
手数料で少しはかかったが、何、テストケースだ。元手の八万円くらい失っても大した額ではない。
で、トレード用プログラムをダウンロードして取引を始めようとした。
さっぱりわからなかった。
ドルを買うだけというのに、そのやり方が分からないのだ。
――どのボタンを押せば買えるんだ!?
「豊富なメニュー」があり、色んな国の通貨や貴金属までトレード出来るらしい。けど、そんなことはどうでもいい。
俺はドルを買いたいんだー!
基本動作がわからず、チャートも米側視点なので頭に入ってこなかった。
ネットにあがっている動画を見てやり方を勉強しようとした。が、用意されているのは色んなトレードパターンの紹介で、どこをどう操作したら本格的なトレードにかかれるのかがみつからなかった。少なくともレバレッジ百倍にすれば、最低取引単位には達するはずなのに。
日本の証券会社のソフトの方がよほど優秀だと感じた。ドル円のチャートが出てきて、建て玉の量と指し値を入れればそれだけで発注できるのだ。ただ、AIプログラミングはできない。
そこで、トレードに使われるプログラム言語を理解しようとした。
自分が思っていたようなAI取引とは全く無縁の、原始的なプログラム言語だった。外部情報を取ってくることなく、どうやってAIは取引タイミングを判断するんだ!?
結局、何もしないまま数ヶ月がたった。
するとある日、メールが届いた。
「来月から口座維持手数料をいただきます」
二千円以下のわずかな金額だが、払うのは無駄だ。
即日、全額返金の手続きを行った。
十六万円全額の返還は無理だろうと思ったが、それでも十四、五万円は帰ってきた。
その後、何かの名目で金を取られるかと思ったが、そういうこともなかった。
その会社はガチで自分でプログラムをしようという変人は最初から相手にしていなかったのだろう。。頭の悪そうな名前のトレードパターンに課金させて、それで儲けているようだった。毎月六千円ほどで有名トレーダーのトレード手法を真似出来る、と言われても、どこの誰かも知らない他人のトレードが信用できるわけもない。
そこで俺は、知り合いに「AI取引のプログラムを作ってみませんか」と声をかけた。しかし、誰も色よい返事をくれなかった。
いや、単純な仕組みなのだ。
getdata from
a1[https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release, recent, 「合計」]
a2[https://www.federal reserve.gov/releases/h41/, recent, 「Total factors supplying reserve funds」]
b1[https://jp.investing.com/rates-bonds/u.s.-10-year-bond-yield-streaming-chart, 「アメリカ 10年債券利回り」]
b2[https://jp.investing.com/rates-bonds/japan-10-year-bond-yield, 「日本 10年債券利回り」]
c["米国政府機関閉鎖の噂", yes, QQQ="buy $" elseQQQ="sell $"]
end get
use a1, a2 simulate for 1year, call Optimal_solution_for_selling_and buying
PPP=Optimal_solution_for_selling_and buying, result
bx=b1-b2
if bx > 0 then RRR="buy $" else RRR="sell $"
if QQQ, call alart
if PPP == RRR == QQQ then execute
```
……こんな感じのコーディングを考えていた。
ざっと言うと「日米両国のバランスシートの変化+金利差+米国政府機関閉鎖の噂」の3条件が揃ったときに、ドル買い」を自動実行するプログラムだ。もちろんこれは祖型で、これを元に改良を加えていく。たとえば「米国政府機関の再開」があればドル売り決済をする、など。
ここでAIには、一年間のシミュレーションとか「米国政府機関閉鎖の噂」の収集といった実務をさせる。そういう仕様にしたかったのだ。
さて、いろいろ考えている間にも生活費はどんどん出ていく。
やっかいなのは、「脳の霧」によっていつまでも資産二千万円プラス株があるように思い込んでいることだった。
「いざとなればドルかの建て玉か株を売ればいいや」という思考のままふらふらと生きている。思いついたら旅行に行き、珍しいワインを飲み、たまに家に帰ってくる。頭の中では毎日十万円が入ってくる、本気出したらいつでもそれくらいは稼げる、と思い込んでいたのだ。
それが幻影だと理解できる日が、やがてやって来た。




