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銀の皿・金の皿

作者: じゅラン椿

 商店街の一角にひっそりとした古道具店があった。


 木の札に『壱日古具店』と手書きで書かれている。

通りがかりの高校生五月はどこか懐かしい香りに惹かれその扉を押した。


 軋む音と共に中へ入ると、そこには埃っぽいけど静かで落ち着いた空気が漂っていた。

色褪せたポラロイドカメラ・レコードプレーヤー・陶器の置物・ステンドグラスが並ぶ中で、ふと目に留まったのは銀の皿。


 小さめの手のひらほどの円形と表面には古代文字のような文様が彫られてある。


 「なんだろう、これ・・・」

目が離せなくなっていた。店主らしき老人が奥から顔を出し「持っていけ」と言った。


慌てて、小銭入れから取り出したのは、五〇円玉一つ。

 「これでいいの?」と聞くと、老人は笑って頷いた。

外に出た瞬間、太陽の光が異様に強まり、視野が白く染まった・・・。



気が付けば世界が変わっていた。


そこは森、木々が集まっていて、隙間からは細い光や薄い影、太い光が様々に重なり合っている。青っぽく幻想的にも感じる。

鳥の声すら聞こえず、静まり返っている。


 腕を見ると銀の皿が腕時計のように手首にぴったりと密着していた。はずそうとしても外れない。


誰に見せても「何もついていない」と言われてしまう。


途方に暮れながら、さまよい歩くうちに小さな村にたどり着いた。

そこでは噂があった。


 "金の皿を持つ者がこの世界に、閉じ込められている"

 "銀の皿と金の皿を重ねれば、元の世界に帰れる"


けれど、『金の皿』を持つ者は誰とも交わらず、心を閉ざしたまま生きているのだと・・・・・。


数日後

 村の外れに住む少年リムと出会った。無表情で話しかけても、最初は返事もなかった。


 「君、金の皿もってるんでしょ」

 「・・・知ってるなら、近づくな」


彼の腕には確かに金色の皿のようなものが見えた。他人には見えないその皿。五月と同じだ。


 「なんで帰りたくないの」

 「帰る場所がないから 帰れないんだ」

その言葉に重みを受け止めた。



彼はこの世界に来る前、家族を事故で失い、一人ぼっちになった。誰かと交流することが怖くて金の皿に触れることすら避けていたのだった。


 五月は何度も彼に会いに行った。

 皿を重ねるための目的ではなく、彼の悲しみを自分の孤独が、なんとなく、重なっている気がしたからだ。


 「ねぇ、リム」とそっと名を呼び掛けた。

 「帰る場所が、なければ作る、という、方法もある 家族と一緒にいた時間、記憶、心、全部連れ帰ったらそれが、帰る場所」

長い沈黙の後、

 「変な事、言うね、君は・・・」

そして腕をそっと差し出した。金の皿はほのかに光っていた。

五月も銀の皿を差し出した。



カチンと音がして、世界が揺れ、皿同士が重なった瞬間光が弾けた。


 「君と出会えて、よかった」

それはリムの最後のメッセージだった。



気が付くと五月は商店街の道に立っていた。手首には皿は消えていた。

 だけど、どこか記憶の中、心の中に"ぬくもり"が刻まれている。


 (そら)は高く、風は心地よかった。



もう一度あの古道具店へ行こうと思い、向かったが、その場所に、"壱日古道具店"の姿は見当たらなかった。


 でも五月は、あの皿は偶然じゃない。きっと"勇気と心を重ねる"ためのカギ。

そして今も、どこかで誰かが、銀と金の皿を重ねる勇気を踏み出そうとしているのかもしれない・・・。












 「帰る場所」ってどこだろうそんな疑問からこの物語は生まれました。


 "重なる"とは、物理的な接触でもなく、心の交差点。誰かと心を通わせた記憶は、たとえ離れていても、歳月を経ても、私たちを元の自分に戻してくれる、"皿"のような存在なのかもしれません。


最後まで拝読まことにありがとうございます。


               じゅラン 椿


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