合格者
試験終了後、合格した受験者たちは兵士たちの案内で城に入っていった。
城に入ってすぐのところは大広間になっている。壁も床もレンガでできており、床には赤いカーペットが敷かれており、いくつものテーブルと椅子が並んでいる。奥には階段があり、2階に上がることが出来る。
2階は二手に分かれた通路があり、左側は医務室に繋がっている。右側は兵士たちが住んでいる部屋に繋がっている。階段の両脇にはドアがあるが、中に何があるのか、ヒカルは知らなかった。
兵士は大広間に入ってすぐ、右に曲がった。向かう先には大きな扉があった。金色のドラゴンの装飾がされた豪華な扉だ。その扉の前に着くと兵士は受験者たちに座るよう言った。
「合格者を連れてきました」
バスが言った。すると、扉の内側から大きな足音が近付いてきて、扉の前で止まった。
「受験者諸君、ご苦労だった。我はこの城の王だ。『ボス』と呼んでくれ」
扉の奥から低い男の声が聞こえた。
「さて、早速だが、この城で働くなら、少し覚悟してもらう」
「覚悟?」
リキが言った。
「何の覚悟だよ。死ぬかもしんねーから気を付けろってか?」
ゴウが言った。
「それもある。だがもっと大きな覚悟だ」
「は?」
ボスが咳払いをした。
「いいか?ここは仕事がキツくて、給料が安くて、休みは無い!」
受験者たちにどよめきが起きる。
「家に帰れると思うなよ?お前たちの家は今日からこの城だ!帰りたくても帰れない、アットホームな職場、それがドラゴン城だ!」
「マジかよ」
リキが言った。他の受験者にも動揺が走っているようだ。しかしボスは続ける。
「労災だのなんだのあるが、そんなもんは知らん!残業万歳!サービス残業万歳!」
「コイツ正気か!?」
1人の受験者が叫んだ。他の受験者たちにも動揺が走る。
「それでも」
ボスが続ける。
「それでもこの城で働きたいと言うのなら、我は止めん。働きたくないのであれば帰ってよろしい。さあ、どうする?働きたい者だけ残れ」
沈黙が辺りを包む。
(皆どうするんだろう)
ヒカルは周りの様子を窺った。……合格者ってこれしかいなかったっけ?
「お前たちは残るんだな?」
ボスは確認した。そこにいたのはヒカル、ゴウ、リキの3人だけだった。
「今回の新人は3人か。いつもよりは多いな、いいことだ!」
ボスが笑いながら言った。
「新人ども!歓迎する。今日は部屋で休むといい。明日からバリバリ働いてもらうぞ!アーッハッハッハ!」
ボスは笑い声を上げながら、部屋の奥に去っていった。
「なんだ今の」
ゴウが言った。
「あんなヤツの下につくのか、俺たちは」
リキが不満そうに言う。
「立て、付いてこい。部屋に案内する」
ボルトが言った。ゴウとリキは立ち上がった。
「ヒカルは今までと同じ所だ。明日から、また訓練だからな?」
ボルトがヒカルに言った。
「はい、分かりました」
ヒカルは頷いた。
「あん?どういうことだ?このガキ、新人じゃないのか?」
ゴウが問う。
「ん?ああ、そうか。コイツは城で保護してたからな。まあ、案内しながら話してやる」
ボルトが言った。ゴウとリキはボルトに付いて、2階に去っていった。
ヒカルは1人で大広間を出た。階段を上り、2階に行く。そして、自分の部屋に向かい、部屋に入った。ヒカルは窓から外を眺めた。
「明日から、ここの兵士なんだ」
ヒカルは呟いた。そして、窓から見える景色をしばらく眺めていた。始めて来たときと同じ、西洋の街並みが広がっている。その街を、雲を貫くほど高い壁が囲んでいる。なんでこんなに高いのかは知らない。こんな街に住んでいた覚えもない。
ただひとつ、覚えているのはあの竜のことだけ。
「絶対に見付ける」
ヒカルは窓から空を見上げた。