試験
ヒカルは苦戦していた。模擬戦竜の攻撃を避けるのに必死で、全然攻撃できない。試験官という立場上、ボルトもいつものように指示できない。ヒカルは模擬戦竜の攻撃をなんとか避けていた。
「どうした?避けてばかりじゃないか」
ゴウが言った。
「やっぱガキには無理なんじゃねーの?」
リキが笑いながら言った。
(そんな……)
ヒカルは焦った。確かに避けているばかりで、何もできていない。焦りがどんどん募っていく。
「こんなノロマの相手もできないのかよ、お前は!」
リキが言った。
「こんなんじゃ、ドラゴン軍なんて夢のまた夢だぜ!」
ゴウが笑う。
「そんな……」
ヒカルが呟く。焦りと、悔しさがこみ上げてきた。
しかし、リキが言ったノロマという言葉が引っ掛かった。確かに訓練の時のボルトの方が圧倒的に速い。ヒカルはボルトの攻撃を、少しだが避けることもできていた。
ヒカルは一旦下がって呼吸を落ち着けた。そして模擬戦竜を見た。模擬戦竜は軋み、吼えながらヒカルに飛びかかった。
(遅い……!)
ヒカルは模擬戦竜の攻撃を最小限の動きで避けた。そして、模擬戦竜の腹を剣で斬った。
模擬戦竜は振り向き、今度はヒカルに噛み付こうとした。しかし、ヒカルはそれを避けた。模擬戦竜の口が閉じた瞬間、一瞬だけ模擬戦竜の動きが止まった。
ヒカルはその隙を狙って攻撃。模擬戦竜の左腕に傷を付けた。戦えてる。ヒカルはそう思った。
そのとき、突然模擬戦竜の首から火花が散った。金属が軋むような、折れるような音がする。模擬戦竜がヒカルを見る。そして咆哮を上げ、先ほどまでよりも2倍くらい速い速度で動き出した。
「なんだ?」
ボルトは異変に気付き、模擬戦竜を見た。模擬戦竜は今までよりも速い動きで攻撃している。ヒカルはなんとか避け反撃しているが、模擬戦竜の動きは明らかに普通じゃない。
(……修復できるとはいえ、限界がある。ゴウとリキのダメージが蓄積していたか)
ボルトは槍を構えた。模擬戦竜の首には太い配線がある。それを切れればシャットダウンできるはずだ。
ボルトは模擬戦竜の方に向かい、翼を広げて飛び立った。上空から模擬戦竜の首筋を狙う。
そのとき、ヒカルの目がボルトを捉えた。そして、ボルトが模擬戦竜の首を狙っていることに気付いた。
ヒカルは模擬戦竜の噛み付き攻撃を避け、横に回り込んだ。そして、模擬戦竜の首筋に剣先を刺した。
模擬戦竜の動きが完全に止まった。目の輝きが消え、その場に倒れた。
「やった」
ヒカルは呟いた。
「やった!倒した!倒せた!」
ヒカルは飛び跳ねた。ボルトが上空から降りてくる。
「よくやったな」
ボルトはヒカルに近付いて言った。
「合格だ」
ボルトはヒカルの頭を撫でた。
「よく気付いた」
「はい」
ヒカルは喜んだ。
「もう終わりかよ」
ゴウが舌打ちした。
「なんでアイツが合格できるんだ?あんなガキのくせに……」
リキは納得がいかないらしい。
「さて、我々は先に戻るぞ」
ボルトはそう言い、石突を地面に叩き付けた。雷鳴と閃光が辺りを包み、ヒカルたちはあっという間に襲撃受域まで戻ってきていた。
全員の試験が終わり、受験者たちは襲撃受域に集まっていた。
「皆、お疲れ様。これで試験は終わりだ。合格者は城に来てくれ。合格できなかった者は帰っていいぞ」
鷲が受験者たちに言った。受験者たちは落胆し、続々と帰って行った。
「合格者は俺たちに付いてこい」
ボルトがそう言い、城に向かって歩いていった。ヒカルも後を追う。その後ろにゴウとリキがいた。
「運が良いガキだな」
ゴウがヒカルに言った。
「いつ死んじまうんだろうな?」
リキが笑いながら言う。ヒカルは無視した。しかし、同じようなことを考えていた。
先ほどのは模擬戦だ。きっと本物はもっと強いだろう。本当に自分はやっていけるのだろうか。
ヒカルはそう考えながら城に入っていった。