ボルトの訓練
訓練は城から出て、城下町を通り抜け、雲を貫くほど高い城壁を越えた先の草原のような場所で行われた。ここは襲撃受域というエリアで、襲撃という現象が起きた時の最終防衛ラインらしい。
ボルトとの訓練は毎日あった。初日は基礎体力作りからだった。ランニング(たぶん50キロくらい走った)腕立て(1000回以上やったかも)腹筋(数える余裕無かった)……普通の人が付いていけるようなものではなかった。
「ヒカル君、体力無さすぎ」
ヒカリが言った。ヒカリもボルトの弟子なので一緒に訓練している。
「いや……あの……その……」
ヒカルは膝をつき、息も絶え絶えだった。ただ、一番ヤバイのが……
「オラ立て。まだ終わってねぇぞ!」
ボルトさんが怖い!
「すみません!」
ヒカルは立ち上がった。
一週間後から、少しずつ木刀を使った訓練が始まった。ボルトの攻撃をひたすら避けたり、いなしたりするのだ。
ヒカリは木刀を使い、ボルトと互角に渡り合っている。後半になると疲れが見え、ボルトの攻撃を避けきれなくなってくるが、それでも食らいついている。
一方、ヒカルは……
「遅い!そんなんじゃ実戦で死ぬぞ!」
ボルトが木刀を振った。ヒカルの顔面に直撃する。
「痛っ!」
ヒカルは顔を手で押さえた。しかし、ボルトはそんなヒカルに容赦なく木刀を振り下ろした。ヒカルはギリギリ避けた。ボルトの木刀が地面にあたり、地面に亀裂がはいる。
「こ、殺す気ですか?」
ヒカルは痛みに顔をしかめながら聞いた。ボルトが首を傾げる。
「実戦で相手に殺意が無いと思うか?」
……これ訓練ですよね?
1ヶ月も経つと本物の剣を使っての訓練になった。
「よし、じゃあ今日は実戦形式でやるぞ。本気で来い!」
木刀を持ったボルトが言った。ヒカルはボルトが城の武器庫から持ってきた、本物の剣を持っている。ヒカリはいつも戦いで使っている短剣だ。
「はい!」
ヒカルはそう返事すると、剣を鞘から抜いた。練習用とは違い、ズッシリとした重みが手にかかる。
ボルトに攻撃する。しかし、攻撃は全て避けられた。ヒカルは一旦距離をとり、剣を構えた。
「遅い!」
ボルトが言った。次の瞬間にはもう目の前にいた。速い!そう思った時にはすでに遅く、ヒカルの腹に衝撃が走った。そのまま吹き飛ばされる。
ボルトはすぐにヒカリの相手を始めた。ヒカリは短剣でボルトの攻撃を弾いている。しかし、押され気味だ。ヒカルは助けに行こうとした。しかし、すぐにボルトの攻撃に吹き飛ばされた。ヒカリも倒れてしまった。
「動きを追えていない。相手を見て、理解し、行動する。この動きが遅いと、実戦ではすぐに死ぬぞ」
ボルトが言った。
「は……はい……」
2人は返事した。
「さあ立て、続きだ。」
ボルトは倒れた2人に木刀を向けた。
「まだやるんですか……?」
2人は呻いた。しかし、訓練はまだ続いた。
3ヶ月後……
この日はヒカリが任務に出かけており、ヒカルだけで訓練を受けていた。
「今日はもういいだろう」
ボルトが言った。
「え、今日はもう終わりですか……?」
ヒカルが聞いた。まだお昼だ。いつもは夕暮れまでやるのに。
「ああ。もうお前は大丈夫だ。後は明日の入隊試験だけだ」
ボルトが言った。
「明日……ですか……」
ヒカルは呟いた。入隊試験……つまり、兵士として採用されるかどうかが決まるのだ。緊張するに決まっている。
「試験に向けて、よく休んでおけ」
ボルトはそう言い、城に戻ろうとした。
「……僕、ボルトさんに一回も勝てて無いです」
ヒカルは呟いた。ボルトが振り返る。
「攻撃はかすりもしないし、ボルトさんの攻撃も全部は避けられない。こんなんじゃ、兵士になんて……」
「当然だ」
ボルトが言った。
「俺とお前は、生きてきた年数も、種族も違う。お前が俺に勝つのは無理だ」
「でも、それじゃ……!」
ヒカルが言いかける。
「だが」
ボルトが遮る。
「お前は強くなっている」
ボルトは言った。
「初めの頃より、反応が速くなっているし、動きも良くなってる。少しずつだがお前は強くなっている」
ボルトはヒカルに近付き、頭に手をのせた。
「お前は俺の訓練をここまで受け続けた。俺の指導を受けて、兵士になれなかったやつはいない。自信を持て。どっちにしろ、やってみないと分からないぞ?」
ボルトはそう言うと、城に戻っていった。
「自信……」
ヒカルは呟いた。
ドラゴン城のある街の構造
外側から
城壁1→襲撃受域→城壁2→街→城壁3→人蜥蜴林→城壁4→ドラゴン城