ヒカリ
ヒカリは城中を走り回り、とある物を探していた。
「ない!どこにもない!」
ヒカリは焦っていた。城のあちこちを探しても見当たらない。訓練場、武器庫、物置、ありそうな所はだいたい探した。しかし無かった。
「どうしよう、見つからない!」
ヒカリが呟いた。ありそうな所はだいたい探したのに。いつも訓練で使うから訓練場。武器庫に置いておくときが多いから武器庫。たまに物置に置いているから物置。他の場所に置くことなんてほとんど無い。
「こうなったら、片っ端から探すしかない」
ヒカリは城中を走り回った。玄関、大広間、風呂場、トイレ、キッチン……そして医務室に来た。
「ウェイン、私の短剣知らない?どこかに置いてきちゃったみたいで……」
ヒカリは医務室の扉を開き、ウェインに言った。そのとき、森で見つけたあの少年が起きていることに気が付いた。
「意識が戻ったのね!」
ヒカリは少年を見て言った。
「え、あ、はい。えっと……どちら様で?」
少年は言った。
「私はヒカリ!あなたは?」
「僕は……ヒカルです」
「よろしくね!」
ヒカリは笑顔で言った。
「3日くらい寝たきりになってたの。大丈夫?」
「え、そうなんですか?」
ヒカルが聞いた。ヒカリがウェインをチラッと見る。
「そういや言ってなかったな。竜の説明に夢中だった」
ウェインが呟いた。
「竜の説明?」
ヒカリが聞いた。ウェインはヒカルが竜を知らないこと、ヒカルの故郷はシティのような場所だということを説明した。
「じゃあ、竜を見たこと無いの?」
ヒカリが聞いた。
「はい」
ヒカルが答えた。
「聞いたこともない?」
「創作物でしか」
「そんなことあるんだ……」
ヒカリは驚いた。この世界にはどこにでも竜がいる。シティにもウェインのようなヒト型の竜が暮らしている。陸、海、空、そして地中。竜のいない場所などあり得ない。
「で、短剣がどうしたんだ?」
ウェインが言った。
「あ、そうだった……」
ヒカリは言った。
「どこかに置いてきちゃったみたいで……見かけてない?」
「いや、医務室にはさすがに無いだろ」
「ですよねー」
ヒカリはがっかりしたように言った。
「短剣?」
ヒカルが言った。
「そう。訓練とか討伐任務とかで使うから必要なんだけど、どこかに置いてきちゃったみたいで」
「訓練?任務?」
ヒカルは聞いた。
「言っただろう?ここはドラゴン城。ドラゴン軍の本拠地だ。ドラゴン軍は暴れている竜を討伐して、街の安全を守っている。そのためには日々の訓練が必要なんだ」
ウェインが言った。
「それをするために、いつも使っている短剣が必要なの。使い慣れてる武器が一番使いやすいから」
ヒカリが言った。
「ドラゴン城……ドラゴン軍……」
ヒカルは呟いた。
「おいおい、まさか知らないなんて言わないだろうな?」
ウェインが言った。
「えっと……すみません」
ヒカルは謝った。
「マジかよ……結構有名なはずなんだが」
ウェインは呟いた。
「まあ、世界は広いし、そういうこともあるんじゃない?」
ヒカリが言った。
「まあ、それもそうだな」
ウェインが言った。
「まあ、何にせよ、君はしばらくここで暮らすんだ。分からないことは聞いてくれればいい」
ウェインが言った。
「見つけたとき、傷だらけだったもん。休んでいって」
ヒカリが言った。
「ありがとうございます」
ヒカルが答えた。
「さて、とりあえずはゆっくり休むといい。体が痛んだら言ってくれ。今は鎮静剤が効いているから痛みは無いだろうが、致命傷になりかけてる傷もあったからな。おとなしくしておけ」
ウェインはそう言ってヒカリを見た。
「お前の短剣はたぶん自室にあるんじゃないか?昨日持っていく所見かけたぞ」
「え、マジ?」
「マジ」
ウェインは頷いた。
「あー、じゃあ私はこれで。失礼しました~」
ヒカリはヒカルに手を振り、医務室を出た。
「自室にあるって、さすがにそんなわけないでしょ」
ヒカリは城の長い廊下を進んでいった。廊下の両脇には兵士たちの部屋につながるドアがずらりと並んでいる。ヒカリはそのうちの1つを開け、中に入った。
「自分の部屋にあったら、気付くに決まって……」
ヒカリの目が机に置かれた短剣を捉えた。
「……訓練いってこよ」