傷だらけの少年
ここは、人と竜が共存する世界。これは、この世界のとある城の軍隊の物語だ。
「親玉が逃げたぞ!」
1人の兵士がそう言い、城壁に背を向けて逃げる1頭の赤い龍を指さした。
「逃がさない」
1人の黄色い髪の少女が短剣を握りしめ、兵士たちと共に龍を追った。彼女の名前はヒカリ。ドラゴン軍の兵士の1人だ。
龍はしばらく走っていたが、森林の入り口まで追い詰められると振り返り、咆哮を上げた。
兵士たちは武器を構えて突撃する。龍は口を開け、火の玉を吐き出した。火の玉は地面にあたると爆発し、兵士たちを吹き飛ばした。煙が上がり、辺りが見えなくなる。
しかしヒカリは煙の中から飛び出し、龍に向かっていった。龍が再び火の玉を吐く。ヒカリは体の前に短剣を構えた。
火の玉がヒカリの短剣にあたった瞬間、短剣が火の玉を反射し、火の玉は龍に向かって飛んでいった。龍の顔面で火の玉が爆発し、龍はよろめいた。
ヒカリは次の攻撃に備えて短剣を構えた。しかし龍は火を吐かず、吼えながらヒカリに向かって走り出した。そして前足を振り上げ、鉤爪で攻撃しようとした。
空が暗くなった。風が止み、静かになる。いつの間にか龍の頭上に黒い雲が集まっていた。雲の中で雷が光る。
次の瞬間、龍に雷が落ちた。龍の体が硬直する。さらに雷と一緒に黄色い竜が急降下し、龍の頭を槍で貫いた。龍は地面に倒れ、絶命した。黄色い竜は槍の先で龍の額をつついた。
「親玉の死亡を確認。襲撃は終わった」
黄色い竜が言った。男の声だ。兵士たちは安堵し、勝利の雄叫びを上げた。
「先生、お疲れさま」
ヒカリは黄色い竜に話しかけた。
「ああ……怪我は無いか?」
竜が言った。
「大丈夫。かすり傷1つも無いよ」
「そうか」
竜はヒカリに背を向け、兵士たちに城に戻るよう言った。
「処理班が来るまで、少し待つか」
竜はヒカリにそう言った。
ヒカリは近くの倒木に腰掛けた。竜はその近くに生えている木の太い枝に座って、槍の刃をいじっている。
龍の死骸には様々な虫や小動物が集まり始めていた。鱗を噛み砕けず苦戦している。
ヒカリは短剣を見た。鏡のように周りの景色を映している。もちろんヒカリ自身の姿も。ヒカリはしばらく短剣に映った景色を見ていた。
すると、短剣に映った自分の後ろの木の根本に、何かがあった。ヒカリは振り向いてそれを確認した。それは靴だった。ズボンも見えた。どちらもボロボロだった。間違いなく、誰かが倒れている。
「先生、あれ!」
ヒカリは頭上にいる竜に呼び掛けた。竜がヒカリが指差す方を見る。
「……人か?」
竜が言った。ヒカリはすぐに駆け寄った。倒れていたのはヒカリのように黄色い髪の少年だった。全身傷だらけだ。ヒカリは脈を測った。
「意識は無い……けど、息はあるみたい」
ヒカリは竜に言った。
「ひとまず、城に連れていこう」
竜が言った。