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金ヶ崎の退き口

 麓のバス停から100段ほど登っただろうか、ようやく金崎宮の境内の入口に辿り着いた。途中で休憩することなく、美佳を頂上まで運んでこれた。


「はぁ、はぁ・・・・・・やっと着いたね!」

「ありがとうございました。凄い体力ですね!」

「けっこうギリギリだったよ・・・・・・」


 美佳を降ろすと、俺も息を大きく切らしてその場で蹲った。滝のように汗が吹き出し、背中をびっしょりと濡らす。


「大丈夫ですか?そこのベンチで休みましょう」


 最初の鳥居をくぐった先の広場に、石のベンチが設けられていた。美佳の体調のこともあるし、お参りはそこで一緒に休憩してからにしよう。


 軽く一礼して鳥居をくぐると、境内の神聖な空気に身が引き締まる想いがした。海風が木々を大きく揺らし、まるで俺たちを歓迎しているかのようだ。


 境内のベンチに腰を下ろして手持ちのペットボトルを飲み干すと、目の前に港全体の風景が広がっていた。


「綺麗!けっこう高いところまで来たんですね!」

「そうだね。街を見下せるところに神社を造るって凄いよね」


 昔の人は富士山のように、山自体を神聖な場所として崇めている、というのを聞いた事がある。きっと同じ理由でこの神社も建立されたのだろう。

 すると、美佳が口を開く。


「この山にはかつて、金ヶ崎城というお城がありました。『金ヶ崎の退き口』っていう戦いの舞台で、織田信長が浅井長政に裏切られた際に、難を逃れて無事に京へ戻れたんです。あと、金崎宮は『恋の宮』とも呼ばれているので、難関突破や縁結びのご利益があるみたいですよ」

「へぇ、信長のエピソードがこんなところにあるとは知らなかった。美佳ちゃん、すごく詳しいね」

「ありがとうございます。戦国時代は特に好きなので、よく勉強しました」

「そう考えると、この辺って歴史的なエピソードが盛りだくさんだね」

「確かに!私も知らなかったことがありましたし、実際に巡ってみるとこんなに面白いんですね。連れてきてくださって、ありがとうございます」


 美佳に楽しそうに話してくれるのを受けて、俺も思わず顔が綻びる。


 誰かと旅することって、こんなに楽しかったんだな。付いてきてくれた美佳には、感謝の気持ちでいっぱいだ。


 お喋りしながら休んでいるうちに、お互いだいぶ呼吸が整ってきた。


「体調はもう平気?」

「はい、私は大丈夫です。気遣ってくださってありがとうございます」

「それならよかった。じゃあ、そろそろお参りに行こうか」


 手水舎ちょうずやで清め、社殿のある鳥居へと進む。

 社殿には手前の舞殿と奥の御本殿があり、お賽銭を入れてお参りをした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 参拝を終えて社務所でお守りを買うと、社殿の左に『花換の小道』と書かれた看板が立っているのを見つけた。この先も山に沿って遊歩道が整備されているらしい。


「どうする?こっちは行かなくても良さそう?」


 少し迷っていたみたいだが、美佳はゆっくりと頷く。


「そうですね。ちょっと疲れちゃいましたし、他の場所も回りたいので大丈夫です」

「わかった。それじゃ、下に戻ろうか」


 最初の鳥居から続く階段を降りようとしたところ、美佳が足を止めて呼びかける。


「あの、すみません。石和さんのカメラで私のこと撮ってもらえますか?」


 思い出は目に焼き付ける、という方針の彼女から撮影を頼まれるとは予想外だった。念のため確認で聞き返す。


「別にいいけど、どうして?」

「背負って連れてきてくれなければ、たぶん諦めて引き返してたと思います。ここの景色、とても綺麗で二度と来ることもなさそうなので、撮るのが上手そうな石和さんに残して貰いたくなりました」


 もちろん断る理由などなく、快く引き受ける。


「わかった。ちょっと待ってて」


 カメラを取り出し、太陽光の当たり方を確認する。敦賀港を見下ろす背景が理想だったが、逆光となってしまう。

 そこで、社殿の鳥居と周囲の緑を囲んだ構図に変更して美佳を立たせる。


 そして、焦点を合わせて2、3枚シャッターを切った。


「OK。ばっちり撮れたよ。後でスマホに取り込んで送るね」

「ありがとうございます。楽しみにしてますね」

「帰りは階段降りれそう?」

「はい。行きよりは楽ですけど、またゆっくり降りますね」


 帰りにも鳥居に向かって別れの一礼をすると、海風がまた強く吹き込んだ。

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