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緑のトンネルへ

 敦賀駅からの周遊バスに揺られて約10分、金崎宮前のバス停で俺たちは降車した。


 バス停のあるロータリーのすぐ側には、錆びたレールや鉄道用の信号機、貨物コンテナがある。


「この辺にも線路が通っているんですね」

「上に道路が舗装されて、今はもう使われてないみたいだけど」


 この一帯はかつて海外との玄関口として栄えていた歴史がある。ウラジオストクまでの航路を経てユーラシア大陸を横断し、東京からヨーロッパまでを鉄路で結ぶ国際列車の重要な中継地点だった。

 時代の流れによって線路が分断されても、赤レンガ倉庫の建物など、当時の繁栄していた面影は現代にも残されている。


「石和さんが敦賀に来た目的って、こういう昔の痕跡を巡ることですか?」

「まあ、そういう感じかな。こんなの一緒に見てもつまらないでしょ?」

「そんなことないです!日本の成長に貢献した大事な遺産なんですよね?むしろ、じっくり見て回りたいです!」


 美佳が真剣な眼差しで返答する。そう言ってもらえるだけでも、俺はとても嬉しくなった。

 とはいえ、彼女がさっき話してた望みを叶えるところから始めよう。


「まずは美佳ちゃんがお参りしたい、って話してた神社に行こうよ。あの山の上にあるのかな?」

「そうみたいですね」


 山の向こうを見上げると、美佳は一転して自信なさげに答える。そして、俺の顔を伺って恐る恐る問いかけてきた。


「あの、私はゆっくり上っていいですか?お参りしたい気持ちは強いですけど、階段はちょっと自信なくて・・・・・・石和さんは先に行ってもらって構わないです」

「わかった。焦らないで来てね」


 境内へ続く参道は、緑のトンネルに囲まれた石階段が奥まで続いている。一段の幅は広く、それほど急ではないので、木漏れ日を気持ちよく浴びながら足を進める。

 時折振り返りながら美佳の様子を伺うが、彼女は手すりに掴まりながら一段一段をゆっくり上っている。



 美佳ちゃん、坂や段差を上るのは苦手なのかな?



 そう思っていると、中間地点あたりの踊り場で足を止めてしまった。苦しそうな姿に放っておけず、慌てて彼女の元へ駆け降りる。


「大丈夫?ゆっくり休んでいいよ」


 美佳は大きく肩で息をしており、こちらまで心配になってしまう。


「ありがとう、ございます・・・・・・私が、お参りしたいと言ったのに、ご迷惑をおかけして、すみません・・・・・・」


 残り半分くらいの階段も、この調子では一人でのぼりきれるか不安だ。

 俺は覚悟を決めてその場でしゃがみ、彼女へ声をかけた。


「後ろに乗って。上まで連れて行くよ」

「えっ、そんな!私、けっこう重いですし、石和さんのほうが危ないですよ!?」

「これ以上、美佳ちゃんに辛い想いをさせたくないからさ」


 高校時代は帰宅部だったものの、中学時代は陸上部に所属しており、練習の一環で部員をおんぶしてダッシュをしていた。

 もう十年前の話だし、何せ階段でおんぶしたことないので自信はない。それでも、美佳をこのまま放っておく訳にはいかなかった。


 彼女は迷っている様子だったが、悩んだ末に申し訳なさそうに引き受けてくれた。


「じゃあ、お願いします。転ばないように気をつけてください」

「わかった。俺のカメラ持ってて」


 俺の荷物を美佳へ預けて背中に担ぎ、一段ずつ前へと進む。

 やはり、人をおんぶして階段を上るのはかなりキツい・・・・・・ゆっくりだとかえって疲労が溜まりそうなので、ペースをやや早くして一気に駆け上がった。


 それにしても、こんなところを誰かに見られたら恥ずかしい思いをするところだった。他に参拝客がいない時間で、本当によかった。

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