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実家で過ごしちゃいました(後編)

 翌朝少し早めに目が冷めたイヴは顔を洗った後身支度をした。

普段鍛錬場で着ている服に着替えると邸の中にある整備された場所へ移動し体を軽く温めた。しばらくすると父親が木刀を二本携えながらこちらに向かってくる。


「おはようございます。お父さん」


「おはよう」


少し前からイヴのウォーミングアップを見ていたのか表情には出ていながソワソワしているようだった。獣人化していたらしっぽが左右に揺れていたと思う。


父親も体を少し動かした後


「体術とこれ(木刀)、どちらからする?」


と尋ねてきた。

イヴは少し悩んでから


「では、体術からお願いします」


と言うと二人で向かい合い、イヴが一礼をし終わった後すぐさま父親に向かって飛び込んでいった。

遠慮なく思いっきり殴りかかってくるイヴに父親は「えっ」と漏らしながら綺麗に受け流していく。イヴは思わず「チッ」と舌打ちしながら続けざまに攻撃していく。

手だけでは足りないと思ったイヴは蹴りも追加していくと


「足も出ちゃうタイプ?」


と父親の威厳が無くなりそうな独り言を漏らしながらイヴの攻撃を躱していく。

そんな余裕の父親にイヴは余計にイライラしながら最後は魔力で身体強化した拳をぶつけようとした時、父親の雰囲気が一瞬で替わり強化した腕を握って無力化すると


「あれ?いつの間にイヴのお父さんは討伐対象になったのかな?」


と言いながら、頭に一発拳骨を頂いた。


「イデェッ」ちょうどケモ耳の間を狙ってくれたらしいが、やっぱり痛かった。

拳骨の場所はきっとたんこぶができてると思うと父親を少し睨みながら自分で頭部を確認(ナデナデ)していると。


「そんなにお嫁に行けなくなるほど強く入れていません!」

と逆に怒られた。

「それよりも」と父親もイヴをギロリと睨みながら


「どこの世界に父親に対して本気でヤリ(殺す)に来る娘がいるのですか」


父親は腕を組みながら呆れていた。

でも、内心楽しかったみたいで本気で怒っているわけではないようだ。


「『やる時は、やらないと!』と言うのが上司の指導方法です」


「脳筋か!イヴの上司は脳筋か!作戦とか立てる立場だよね?」


とツッコみながら今度は木刀を一本イヴの方に投げた。

パシッと聞こえそうな音を立てながらそれをイヴは受け取る。


「じゃあ、次はこれで」


父親はニヤリと笑うと今度は飛び込んできた。


「うわっ」とイヴは驚きながらもそれを受け止めると


「うん、反射速度は申し分ないね」


と父親が誉めると二人は小気味よくカンカンカンと木刀をぶつけていく

イヴは再度父親の隙を見ながら打ち込んでいく。

何度か打ち合っていると、どうやら父親は長得物は得意ではないみたいだった。

時々隙が生まれる、と言ってもイヴがそこに入り込めるほどの余裕はくれない。

ただ、あと少しで切り込めそうという時に弾かれてしまうのだった。


しばらく打ち合うと、イヴが油断した一瞬に首元に木刀の先がそっと触れた。


「参りました」


いつもの訓練の癖で負けを体が理解するとすぐ言葉になる。


「はい、ご苦労さんでした。」


父親は、宣言するときに片膝をついたイヴを立ち上がらせるために手を出すとイヴは少し恥ずかしそうにその手をとった。


すると、グイっと引き上げてイヴを立ち上げてくれた。

その力強さにイヴは改めて父親のすごさを実感した。

しばらくお互いがその手を離さないでいると


「父上、イヴ、すごかったね!声をかけられなかったよ。ほら飲み物とこれで汗を拭いて」


二人の鍛錬が終了したタイミングでグレッグが声をかけてきた。

二人はグレッグの方を見るとそこには母親、グレッグ、イアン、そして


「イヴ姉さま?」


自分達に似ているがまだ少年の方を見ると


「ゲイリー?」


「はい、ゲイリーです。イアン兄様からグレッグ兄様とイヴ姉様が帰ってきているって連絡を受けて特別に邸に戻ってきました!」


とゲイリーが嬉しそうに話しかけてきた。


「もう、ゲイリーったら二人の打ち合いを見て『自分も入っていいかな?』ってずっと言ってるんですもの」


と母親は苦笑いをしながら教えてくれた。

ゲイリーは頬を少し赤くしながら


「ちょっと、母様言わないでよ!でも、父様とあんな風に打ち合うなんてすごいですよ!」


ゲイリーが興奮気味に伝えると


「ゲイリーは騎士科を専攻しているんだよ。イヴとは違う貴族寄りの学院だけどね。どうしても騎士の剣っていうのは綺麗すぎて私には対応しきれないんだ」


父親はイヴにだけ聞こえるように声をかける。


その言葉にイヴも納得する。確かに戦争がない今の王宮では形式的な剣技を追及してしまうのだろう。自分はまだ下町で荒事に対応する場合の方が多いのでどうしても実践向きになってしまう。もちろん軍学校だったので騎士の基本としての型は習っているが正直記憶に自信がなかった。


「イヴ姉様、私も一戦お願いしたいです!」


ゲイリーのキラキラした視線にイヴは少し悩んだが…。


「私の剣技はあまり綺麗でないからゲイリーに変な癖がつく可能性がある。」


とイヴが答えると、ゲイリーは明らかに悲しい表情になる。


「でも、一戦だけだよ?そして、私の真似はしない。この約束が守れる?」


ゲイリーは何度も頷いた。その言葉を聞いた父親は自分の持っていた木刀をゲイリーに向かって投げる。

ゲイリーは危なげなく受け取るとイヴの方に向かってやってきた。


「じゃあ、私が見てあげよう」


父親はイヴとゲイリーの間に立ち準備ができたのを確認すると


「用意」と声をかける


二人が木刀で始めの型をとると、父親は手を上げた。

その合図を皮切りに二人は剣を打ち合わせた。

父親と戦っている時とは違う剣技で対応するイヴにグレッグ達は舌を巻いた。


「イヴってもしかするとすごいのかな?」

グレッグが母親に尋ねると母親は少し考えてから


「そうね、この一族って感じに成長しちゃったわね。」

困ったわね。とぼやきながら母親も二人の打ち合いを眺めていた。


「私は、体術だけは才能がなかったな」

イアンは悔しそうに呟いた。


「えっ、もういいんじゃない?これ以上仕事増えても困ると思うんだけど」

グレッグは思わず本音を漏らすと


「確かに、これ以上仕事を増やされると逃亡するかもしれません」

イアンは苦笑いをしながらグレッグに答えた。


「止め」

グレッグとイアンが会話している間に2人の決着がついたようだった。

ゲイリーが頭を下げて「参りました」と言っているようだった。

そして、イヴがゲイリーに近づき頭を撫でながら一言二言話すと、そのタイミングでウンウンと頷いているゲイリーがいた。


グレッグはそんな姉弟を眺め、その傍で嬉しそうに見つめている父親を確認し、横を向くと満足げに2人を見ているもう一人の弟を確認し、侍女に朝食の用意をお願いしている母親を見つける。


朝特有の澄んだ空気を感じながら少しだけ目をつぶり


「幸せってこんな所にあったんだな」と呟いた。




 朝食後、イヴと父親とゲイリーはすっかり打ち解けたのか三人で楽しくお茶を飲みながら会話をしていた。主にゲイリーの卒業後の話だった。


「私も卒業後は王宮の近衛に行こうと思っています」


嬉しそうにイヴと父親に話すゲイリー


「そうなんだ。じゃあいつか合同調査とかで会えるかもしれないわね」


イヴが楽しそうに話すと


「合同調査とかあるんですか?」


「うん。まあ規模によるけどね~」


さすがに調査内容までは話せないので誤魔化していると


「さすがに見習いの近衛に合同捜査とかは回ってこないんじゃないかな?」


父親の至極当たり前の内容に二人は驚きそして落ち込んだ。


 ゲイリーは寮へ戻る準備をすると言って一旦部屋に戻ると、イヴと父親の2人になった。

父親は懐から書類を一枚イヴに渡した。

それは、タッカーから渡された書類だった。確認すると、父親の署名が入っている。


「急に呼びつけてすまなかったな」


父親は照れくさそうにイヴと目を合わせずに謝った。


「イヴ達が幼い頃は私自身もまだまだ未熟で、何もかもが上手くいってなかった。やっと余裕ができた思い2人に会いに行ったら拒絶されて…。自業自得だと思っているが」


「胸が張り裂けそうだったよ」


悲しい笑顔をイヴに向ける父親


「でも、今日一緒に体を動かして少しはイヴとの距離が近くなったと思いたい」


「そう願ってもいいかい?」


父親は願うようにイヴの方を見ると


「はい、私もお父さんと一戦交えて良かったです」


イヴは微笑みながら答えた。

父親は目頭を押さえながら小さく「すまない」と言うと


「そして、お父さんは長剣が苦手という弱点も分かって良かったです」


とおどけたように伝えると、父親は肩をビクリと動かしイヴの方を見る


「諜報活動にあんな邪魔な武器いらんだろ?私の得意な得物はこっちだよ」


と言いながら父親は胸元に隠している投げナイフを見せてくれた。


「ってすごい数ですね」


「足りなくなったら不安だもん」

と少し目を潤ませながら笑顔で言った。

その表情が少し幼く見えてイヴは父親を身近に感じることができた。

父親の胸元のナイフを見ていると精巧な細工がされている1本のナイフを渡してきた。


「これをイヴにあげるよ。これは、私が大切にしているナイフでね。一番最後に使おうと決めているやつなんだ。」


イヴは父親から受け取ったナイフを観察した。綺麗な模様が刃先に広がる様に彫られている。


「ありがとうございます。これを私の懐刀にしようと思います」


イヴは帰ったらこのナイフにあう鞘を武器屋に注文しにいこうと思った。


父親との会話を終えると、グレッグが母親と何かを話していたのだろうか違う部屋から出てきていた。


「あっ、イヴも話が終わったのかい?じゃあ、そろそろ行こうか?」


グレッグはイヴに確認するとイヴは頷いた。


「じゃあ、支度を終えたら玄関で終了だよ」


イヴは「了解」と言うとそれぞれの部屋に戻り荷造りを始めた。

もともと1日しか宿泊する予定がなかったのですぐにそれを終えるとイヴはすぐに玄関に向かった。ちょうどグレッグも同じだったのか廊下で出会った。


玄関には、行きと違い父親、母親、イアン、ゲイリーそして、数人の使用人が待機していた。


「これからは、もう少し会える機会を作ってもらえると嬉しい」

父親の言葉にグレッグとイヴは頷いた。


「グレッグ兄様、イヴ姉さま、僕も王都に遊びに行ってもいいですか」

ゲイリーの言葉に


「いつでもおいで」とグレッグが言ったのでイヴも頷いた。


「グレッグ様、イヴ様 またのおかえりを使用人一同お待ちしております」


家令が頭を下げると数人の使用人たちも頭を下げる。


「ああ、時々遊びに行かせてもらうよ」


「また、お父さんと手合わせにきます」


2人がそれぞれ家令に言葉をかけると邸を出た。

すると、馬車と共にイアンが待機しており


「帰りも途中まで私が送らせてもらいます」


と言いながら迎えに来てくれた場所まで一緒に向かった。



グレッグとイヴにとって短いが有意義に過ごせた実家での時間だった。

<<おまけ>>

 帰りの馬車の中でイアンがどうしてもイヴに聞きたいことがあった。

 「ねえねえ、イヴ、どうすればそんなに強くなれるの?」

 イヴは少し考えてから

 「鍛錬あるのみ?ですかね」

 「イヴはオールマイティーだから座学もすごかったよ」

 グレッグは謙遜気味に答えるイヴの補足をするために付け加えた。

 グレッグの言葉にイアンはすごんだ。

 「えっ座学もできんの?だったらもう、イヴが当主になればいいじゃん~」

 イアンが不貞腐れながらイヴに訴えた。

 「でも、社交性はゼロですよ。貴族的なマナーは幼少期しか受けてませんし」

 「そんなに夜会とかないよ?」

 「イアン兄さんは当主を降りたらどうするのですか?」

 イヴの疑問にイアンは

 「えっそんなのイヴの手伝いに決まってるじゃん」

 「じゃあ、書類担当で…。」

 「そんなの今の全然変化ないじゃん!」

 イアンが思いのほか我儘を言うので

 「だったらイヴの何の手伝いをしたいの?」

 グレッグが呆れながら聞くと

 「そんなの決まってるでしょ!一緒に戦いたい!男の子だったら誰しも夢見るでしょ?」

 兄姉妹弟の中では唯一の頭脳はと思っていたイアンは実は夢見る少年だった事がこの馬車で判明したの だった。



最後までお読みいただきありがとうございました。


カーウェル家の絆は結局拳で解決しましたとさ。

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