招待状がきちゃいました。そして、恋人の家族を紹介されちゃいました。
イーサンの昔話を聞いた翌日、普段通りに仕事場に着くと
「イヴさ〜ん。朝早くからお手紙が来てるよ~」
席に着いていたタッカーの隣で何か打ち合わせをしていただろうダニエルの2人が微妙な表情をしながらこちらを見ていた。
「おはようございます?ってどうしたんですか?」
イヴは不思議に思いながらタッカーの席に近づくと普段警邏では見られない上質な封筒を差し出された。そこには流ちょうな文字で『イヴ・カーウェル様』と書かれていた。
タッカーのダニエルの視線が気になる。
「えっここで手紙を見るんですか?」
プライベートなので嫌ですよ?とイヴが拒否すると
「気になるじゃないか、まさか浮気か?」
タッカーが楽しそうにからかうと隣でダニエルが少し震えていた。
どうやらダニエルからすると笑えない冗談だったらしい。
「はいはい、浮気疑惑を否定する為にここで手紙を開封すればいいんですよね」
イヴは少し切れながらタッカーからペーパーナイフを借りて開封した。
手紙を黙読した後、タッカーに渡した。
「どうやら楽しい晩餐会にいざなわれたみたいです」
イヴは溜息をつきながらタッカーとダニエルが読み終わるまでその場で待った。
「ケインズ夫人からの招待状か…。これ、イーサンも知ってんの?」
ピラピラと手紙を揺らしながらイヴに確認してくる。
それ、多分よその人に見られると怒られる態度ですよ。
「ん〜どうなんでしょ?一応昨日ケインズ夫人との内容は話したのですが。これって私しか宛名がないですよね?昨日の話の流れ的にはマーシャル隊長を呼ぶために私を招待するって思っていました」
イヴの意見にタッカーとダニエルも頷いた。
「…。まあ気を付けて行けよ。そしてイーサンも連れていけ」
「多分、そうなると思いますよ。服どうしよう~。」
イヴが涙目になりながら自分の席についた。
仕事帰りに貴族街の洋服を軽く見回ったがどうしてもオーダー品になってしまうため時間がかかると説明を受けた。
イヴは諦めて夕食の食材を購入した後、トボトボと落ち込みながら自宅に着いた。
家について夕食を作っているとイーサンが帰ってきた。
昨夜色々自分の事を話せたので気がかなり楽になったようだった。
イヴが台所から「おかえり~」と声をかけている姿を見て微笑みながら
「ただいま」と答えていた。
いつものように夕食を二人で食べた後、イヴは今朝もらった招待状をイーサンに見せる。
「早いよね~。昨日の今日の招待状だよ!」
イーサンが落ち込まないようにイヴは明るく声をかけた。
招待状を確認したイーサンがイヴの方を見ながら
「実は、今朝家のタウンハウスから職場に使いが来てね。手紙を預かっているから取りに来るようにと伝言をもらったんだ」
「そうなの?だったら同じ内容の招待状かな?」
イヴは高級な紙質の封筒を何度も触りながら「貴族スゲー」と興奮していると
「ちょうど、今俺の両親もこっちに仕事があるみたいで滞在しているんだ。この機会にイヴを紹介したいのだけど」
イーサンは不安な表情でイヴを見つめて
「一緒に来てくれないかな?」
震える声で尋ねてきた。
イヴは、少し離れて座っていたリビングのソファーを移動し膝の上に乗ると耳元で
「せっかくの彼氏のご招待なので喜んで行かせていただきます」
と言った。
イーサンは嬉しくてそのままイヴを抱きしめた。
「ありがとう、父さんと母さんに会って欲しい!」
イヴはうんうんとイーサンに分かる様にたくさん頷いた。
イーサンの手紙を取りに行くついでにイヴを両親に紹介する日がついに来た。
イヴは持っている中で一番いい服をきてイーサンに見せると。
「うん。イヴの気持ちが痛いほどよくわかる。だから警邏の式典用の制服を脱いでいつものお洋服を来てください」
あれっ?確か、グレッグに会う時イーサンも似たような行動をしていたかも。
「でも、イヴもかっこいいよね。似合ってるよその制服」
「ありがと~。でも確かに考えてみるとこの服で行くと召喚命令でも来たのかと思うよね」
イヴの言葉にイーサンも深くうなずいた。時々上位の貴族を呼び出すときに着る服でもあったからだ。警邏なので王命とかまではいかないが、宰相殿の召喚などなら警邏でも十分ありえるからだ。
イーサンがフムフムと考えているとイヴの支度も仕上がったみたいだった。
「こんな感じでどうでしょうか?」
今着ている服は、シンプルなワンピースだがスタイルと体幹を鍛えているイヴが着ていると品が上乗せされているように思えた。
「こんな服ってあったかな?」
イーサンの問いかけにイヴは頬を掻きながら
「実は実家に行ったときに、お母さんがもしもの為に持っていきなさいって。私の服を何着か用意してくれていたの」
母親の愛情をまだ素直に受け取ることができないのか恥ずかしそうにケモ耳をピクピクさせていた。
「うん。とっても素敵だよ。じゃあ行こうか?馬車を予約しているから早めに家を出たいな」
「うん、分かった」
二人はそのまま家を出て馬車を予約している店へ向かった。
自分達がいつも使っている馬車よりグレードが高かった。
「さすがにね、貴族街に入るからあまり安価な馬車を借りるわけには行かなくて」
「そうだよね~。色々あるよね」
本来なら歩いていける距離だがわざわざ馬車を借りるくらいだ。初めて会うしあまりイヴへの印象を悪くさせたくないイーサンの気遣いだろうなと思った。
数十分もしないうちにイーサンのタウンハウスに着いた。
多分、今タウンハウスに滞在しているであろう家族全員で出迎えてもらった。
イーサンのご両親はさっそくイヴとイーサンを応接室に通した。
一通り挨拶した後
「君がカーウェル家のイヴさんか」
「イーサン、素敵な方ね!」
イヴはイーサンの両親に拒絶されたらどうしようと考えていたので暖かい対応に内心安心した。
「イーサンお坊ちゃま、お手紙は執務室にありますのでそちらにとりにきてもらえませんか?」
イーサンのお父さんの家令の人が声をかけると、一瞬不安そうにイヴの方を見たが
「私は、ここで待っているから行っておいでよ」
と声をかけた。
「ごめん。すぐに戻るから」と言うとそのまま部屋を出た。
イーサンがいなくなった部屋がどうなるのだろうとイヴは思って両親が話すのを待っていると
「イーサンから、シンシア夫人の話は聞いたかい?」
優しい口調でイーサンのお父さんに尋ねられた。
「はい。元婚約者の方なんですよね?」
イヴは頷きながら話した。
「イーサンとシンシア夫人はもう何年も連絡を取っていない。私達がそれを阻止したからね。だから今回夫人からイーサンへ手紙が届いた時は驚いたよ」
「だから、イーサンの事を誤解しないでやって欲しいの。あの子はイヴさんに出会って以前のイーサンに戻ったの。本当にありがとう」
イーサンのお母さんは涙ぐみながらお礼をいった。
「イーサンにも幸せになって欲しいんだ。兄として何もしてあげれなかったからね」
イーサンの一番上の兄も苦しい表情で話した。
イヴは言葉を選びながら
「いつもイーサンには大切にしてもらっています。そして守ってもらっています。私もイーサン以上に大切にしたいし、守りたいです」
真剣な表情で気持ちを伝えると
「おやおや、これはイーサンも頼もしい恋人ができたもんだなっ」
と笑いながら言った。
「だから」
イヴはまだ話しの続きがあった。
「マケイン夫人には絶対譲りませんが、大丈夫でしょうか?」
イヴの言葉に、母親は再び涙を流しながら何度も頷き父親はありがとうと呟き
「これからもイーサンをよろしく頼むよ」
とイーサンの長兄に目を見ながらしっかり言われた。
イヴも「はい」といいながら視線を返した。
「手紙ももらったし、そろそろ戻ろう」
とイーサンがノックもなしに入ってきたので目にした光景は
イヴと長兄が見つめあっている姿だった。
イーサンは慌てて長兄とイヴの前に立ちはだかり
「兄さん!イヴを見つめるのをやめてください。イヴ、駄目じゃないか私の兄だぞ!既婚者だぞ!」
イーサンの勘違いっぷりにその場が大爆笑に包まれた。
帰りの馬車はマーシャル家から出してもらえた。
イーサンは恥ずかしかったのかずっと外を見ている。
そんな拗ねているイーサンを見ているのが楽しいイヴはクスクスと笑いながら
「イーサンは意外とかわいいんだね~」
と少し親父臭いセリフを言い出した。
「仕方ないだろ。兄さんもかっこいいからな」
イーサンはイヴの方を皆がら不貞腐れていると。
「でも、晩餐会の衣装をマーシャル家で用意してもらって良かったの?」
イーサンの大誤爆の後、彼の母親が今度は笑い泣きをしながら「ドレスはこちらで用意するから晩餐会の前によりなさい」と言ってくれた。
「うん。俺もちょうどイヴのドレスを選びたかったし母親と二人で相談しながら決めるよ」
イヴはファッションセンスはあまり宜しくないので素直に頭を下げながら
「よろしくお願いします」と言った。
「それにしても、採寸大変だった~。警邏に入る時も採寸あったけどあんなに大変じゃなかったよね?」
とイーサンに同意を求めたが
「ん?あれぐらい普通だよ?花嫁衣裳だともっと細かな採寸になるよ?」
イーサンは兄の結婚式の準備でぐったりしている様子を見ていたのであっけらかんと話した。
「じゃあ、結婚はイイヤ」
と言いながらイヴは外の風景を楽しみだした。
イヴの背後で盛大に落ち込んでいるイーサンを想像しながら見る景色は少しだけ楽しかった。
イヴさん、想いを言う相手を間違えているかもしれないの回
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