自ら巻き込まれにいっちゃいました。
イヴ達がいるにも関わらず侍女が話し出した。
「マーシャル様への取次はご当主様を通して再度お願いいたしましょう。今日は朝市が見たいとおっしゃったので旦那様も許可をお出しになったのですよ。今後このような事が起こりますと…。」
と言った後、イヴ達の存在に気づく。
「これは警邏の方ではございませんか。もしかして奥様が何か…。」
さすがに自分の主人に対しご迷惑をとは言えなかった侍女は、一旦夫人を場所に戻そうと考えたらしい。護衛に目配せをすると、「さあ、奥様馬車に戻りましょう」と言いながらそっと立たせた。
シンシアは部屋を出る前に振り向くと
「イーサン様の件は大丈夫よ!さきほどその警邏の方と約束することができたの!」
とだけ伝えると退出した。
侍女は事情が把握できず困惑していると、店主が今までの事をかいつまんで説明してくれた。
説明が進んでいくたびに侍女の顔色が少しずつ悪くなっていった。
全て聞き終わると、店主とイヴ達に謝罪をする。
「今回は誠に申し訳ございませんでした。当主のケインズ伯にはこちらから報告しておきます。警邏の方々にも改めてお礼をさせていただきます」
というとシンシアを馬車で待たせることが不安だったのか、侍女は失礼しますと言うとそのまま部屋を出ていった。
嵐のような侍女を店主とイヴたちが見送ると
「もしよろしければ、お茶でもいかがでしょうか?警邏の詰所にはこちらから使いを出させますので」
と店主が提案してきたので、イヴたちは了承した。
「店主すまないが、この子にはコーヒーを出してもらえないか?」
事情を知っているニコラスがイヴにはコーヒーを出すようにお願いした。
店主は目礼した後「かしこまりました」と伝えると一度部屋を出ていった。
しばらくすると店主と使用人が一緒に入室してきた
店主はそのままイヴ達の向かいにすわると、使用人がお茶の準備をし始める
手慣れているのかすぐに準備を終えるとドアの前で一礼してから退出した。
「さあ、どうぞ暖かいうちに」
と店主に言われたのでイヴとニコラスがお言葉に甘えてと言いながら口をつける。
2人が落ち着いた頃合いに店主が
「今日は、本当にありがとうございました。無下に断るわけにもいかず正直困っておりました」
前回あった時とは違い苦笑いをしながら自分も紅茶に口をつける。
「この頃はあのようなご自分の立場を利用して無理を言うという方は少なくなってきていたので久しぶりの対応に四苦八苦です」
店主は余程シンシアの対応に疲れたのか小さく溜息をついた。
そして、悩まし気な表情でイヴを見ると
「それにしても、マーシャル様の件は大丈夫でしょうか?」
店主が困っていたとはいえ、自分から取り次ぐ必要など無かったイヴに申し訳なかったのだろう。
しかし、イヴは首を横に振ると
「いいんですよ。このままでは解決できませんでしたしね。マーシャル隊長の事を名前で呼んでいるくらいなのですから何かご縁のある方なんでしょう」
近頃のイーサンはとても素敵になっていたので熱狂的な信者がいるのかもしれないとイヴは考えた。
その言葉に店主は少し動揺しながら
「カーウェル様はシンシア・ケインズ様の事はご存じないのですか?」
と確認してきたので
「はい、私は貴族籍ではありますが、警邏に所属しています。どちらかというと平民よりですよ?」
と貴族に知り合いはあまりいないことを話した。
「そうですか…。」
店主の表情は冴えなかったがそれ以上は何も言わなかった。
それから三人は近頃の治安の話や店主おすすめのお酒の話を軽くした後、店を出た。
イヴとニコラスが警邏棟に付くと、予定時刻よりかなり遅くなっていたのでとりあえずタッカーの所へ戻る旨をニコラスに伝えると
「ああ、そうしたほうがいいだろ。俺は報告書にまとめてから後でそちらに持っていく」
と言うとそれぞれの持ち場に戻った。
「失礼します。ただいま戻りました」
イヴは隊長室に戻ると、タッカーとダニエルが心配そうにこちらを見る。
「おい、使いの小僧がやって来たが何があったんだ?」
タッカーが早速聞いてきたので、見回り中に起こった事件を説明した。
「詳しくは、ニコラス先輩が報告書に上げてくれるそうです」
貴族がらみと身内の名前が出たのでタッカーはうへぇ~と悪態を付いてから
「んで、イーサンをご所望のご婦人は一体誰だっただよ」
未婚者、既婚者かんけーねぇな。と笑いながらタッカーがからかっていると
「え~と、シンシア・ケインズ様とおっしゃってました」
イヴがさきほどのご婦人を思い出しながらタッカーに名を告げるとタッカーが珍しく固まった。
そういえば、あの店主も様子がおかしかったけど有名な方なのかな?とイヴが考えていると
「イヴ、お前はイーサンから何か聞いてねぇのか?」
と確認してくる。
「はい、マーシャル隊長からは聞いたことのない名前ですが…」
イヴが不思議そうな表情になりタッカーを見ていると。
「隊長、すみません。少し席を外してもいいですか?」
ダニエルがタッカーに離席の許可を取った。
「おう、いいぜ。」
タッカーも思うところがあるらしくすぐに許可を出す。
イヴも特に重大案件ではないので副隊長がいなくても大丈夫かと思いながら
「この頃冷えますからね」
とだけ言っておいた。
ダニエルはイヴを睨むと
「お花を摘みに行くわけではない」
と断ってから部屋を出ていった。
「トイレじゃないのかぁ~」
イヴは思わず呟くと
「どっちが女子か分かんね~な!」
と言った後、
「本人から何も聞いてないんじゃ俺からは何も言えねぇ~な。イヴとりあえず、本来の作業に戻ってくれ」
との指示がでたのでイヴは了解と言った後自分の席に戻った。
午後になると、店主からとケインズ家から警邏へお詫びの品が届いた。
やっぱり接客業と貴族は仕事が早いなと思いながら各隊へ配っていった。
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