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ワンディ

朝靄が立ち込める中、レイとエステルはメリッサの塔を後にしていた。二人の背中には、長旅に必要な荷物が背負われている。

メリッサは塔の入り口に立ち、二人を見送っていた。「気をつけて行くのよ。ワンダラスト卿の気まぐれには要注意よ」


レイは振り返り、にっこりと笑う。「はい、気をつけます。メリッサさん、三日間の訓練ありがとうございました」

エステルも静かに頭を下げた。

メリッサは手を振りながら、「そうそう、忘れちゃいけないわ」と言って、小さな袋をレイに渡した。

レイが受け取ると、中には光る石が入っていた。

「これは?」

「通信用の魔石よ。何かあったら連絡してね」とメリッサがウインクする。


レイとエステルは感謝の言葉を述べ、再び歩き出した。朝日が徐々に霧を晴らし、前方の道を照らし始める。

「さて、どこへ向かえばいいんだ?」レイは地図を広げた。

エステルが地図を覗き込む。「メリッサさんの話では、ワンダラスト卿の屋敷は北西の森の奥にあるそうです」


二人は森に向かって歩き始めた。道中、レイは時折エステルを見つめては、ため息をつく。

「どうかしましたか?」エステルが首を傾げる。

「いや…」レイは少し言葉を濁す。「本当に大丈夫なのかなって。お前の正体をバラすような事して」


エステルは静かに微笑む。

「私は大丈夫です。それに、この旅で私自身のことも、もっと知ることができるかもしれません」

レイは頷き、少し安心したように肩の力を抜く。


森に入ると、木々の間から漏れる木漏れ日が二人を包み込んだ。鳥のさえずりと、風に揺れる葉の音が心地よい。

すると突然、道の先に人影が見えた。

「あれは……」レイが目を凝らす。

派手な服を着た、金髪の男が、大きな虫取り網を持って蝶を追いかけている。


男は二人に気づき、急に立ち止まった。そして、にっこりと笑顔を向ける。

「おや、こんな森を歩いているなんて!」男の声は意外にも朗らかだ。「君たち、虫取りをしに来たのかい?」

レイとエステルは困惑した表情で顔を見合わせる。

二人の返答も聞かず、男は大きく手を振る。「さあ、一緒に蝶を追いかけよう!」


レイは呆然としたまま、再びエステルを見る。エステルは静かに肩をすくめ、戸惑うような笑みを浮かべる。

「一緒に蝶を追いかけるって?」レイは困惑した表情で男に尋ねた。

金髪の男は大きく頷くと元気一杯に答えた。

「そうさ!この森には珍しい蝶がいるんだ。綺麗な青い羽を持つ『エーテルウィング』という種類がね」


男の熱意に圧倒されながらも、エステルが静かに口を開けた。「私たち実は、用事があるのですが……」

「いいじゃないか、いいじゃないか。今は蝶が大事!さあ、君たちも手伝ってくれ」

「いや、あんたには大事かもしれないが……」レイは困惑しながらも、エステルと顔を見合わせた。この奇妙な状況にどう対応すべきかと。


「あの…」レイが恐る恐る言う。「一応お名前を伺ってもいいですか?」

男は大きな虫取り網を振りながら答えた。「僕?ああ、ワンディって呼んでくれ。みんなそう呼んでるからね」

レイとエステルは再び顔を見合わせた。

まさか、この男はワンダラスト卿なのか?という疑問がレイの頭をよぎった。


「さあ、行くぞ!」ワンディは勢いよく森の奥へと歩き始めた。

レイとエステルは、どうすべきか迷いながらも、この奇妙な男についていくことにした。

森の中を歩きながら、ワンディは熱心に蝶や植物について語り続けた。その博識ぶりに、レイとエステルは次第に引き込まれていく。


エステルが静かに尋ねた。「そのエーテルウィングは、そんなに珍しいのですか?」

「ああ、とてもね」ワンディの目が輝いた。「伝説では、エーテルウィングの粉は強力な魔法の触媒になるんだ。でも、滅多に姿を現さない」

レイは興味深そうに聞いていたが、突然立ち止まった。


「あれは…」指を差した方角の木の枝に、青く輝く羽を持つ蝶が止まっている。

「エーテルウィングだ!」ワンディが興奮して叫んだ。

しかし、彼が網を振り上げた瞬間、蝶は飛び立った。

「あっ!」ワンディは蝶を追いかけて走り出す。


レイとエステルは、予想外の展開に驚きながらもワンディを追いかけた。森の奥へと入っていくにつれ、木々が徐々に開け、そこに大きな屋敷が姿を現す。

するとワンディは蝶を追いかけたまま、屋敷の敷地へと駆け込んでいく。

レイとエステルは立ち止まった。


「おいおい。大丈夫か?」レイが呟く。

エステルも静かに頷いた。「あの方、普通に敷地に入っていきましたね」

そのとき、屋敷の扉が開いた。そして何故かワンディが顔を出す。


「おや?なぜ外で立ち尽くしているんだい?君達のおかげで蝶はつかまえたよ。さあ、中へ入りたまえ!」

「うそだろ?」

レイは開いた口が塞がらない。

さすがに、これで屋敷の人間じゃない事はないだろう、やはり彼がワンダラスト卿なのだろうと、二人は招かれるまま屋敷の中へと足を踏み入れた。


豪華な屋敷で玄関ホールは予想以上に広く、天井まで届きそうな巨大な柱が立ち並んでいる。

壁には見たこともないような生き物の剥製や、奇妙な形の美術品が所狭しと飾られていた。


「さあ、こっちだよ!」ワンディの声が廊下の奥から聞こえてくる。

二人は声の方へと進んだ。通り過ぎる部屋ごとに、さらに奇妙な収集品が目に入る。光る石、動く植物、見たこともない機械……。

「すごい...」レイが息を呑む。「これが全部、ワンダラスト卿のコレクション?」

エステルは静かに頷いた。「膨大な量ですね」


そのとき、ワンディの声が再び響いた。「ここだよ、早く来たまえ!」

二人が声のする部屋に入ると、そこは広大な書斎だった。壁一面が本棚で埋め尽くされ、中央には大きな机が置かれている。机の上には、先ほど捕まえたらしい青い蝶が、ガラスの容器に入れられていた。


ワンディは興奮した様子で蝶を覗き込んでいる。「見たまえ!エーテルウィングだよ。本当に美しいだろう?」

レイとエステルは、蝶の神秘的な輝きに見入ってしまう。

「さて」ワンディが突然振り返った。

「私がここの主、ワンダラスト。君たちは私に用事があるのだろ?珍しいものでも持ってきたのかい?」


全てお見通しとばかりのワンディの言葉に、レイは一瞬たじろぐ。その後、深呼吸をして決意を固めた。「はい、お見せします。エステル……」

エステルが静かに頷く。レイは魔力を操作し始め、エステルの体が光に包まれた。

ワンディは目を見開いて見つめている。「おや?これは……」


光が収まると、エステルの姿は消え、代わりに美しい銀の剣がレイの手の中に現れた。

「なんと!」ワンディが声を上げる。「これは…人が剣に?いや、剣が人に?」

レイは緊張しながらも、説明を始める。「はい、実はさっきまでそこにいた銀髪の少女は剣だったのです」


ワンディは興奮した様子で剣に近づいてきた。「信じられない!こんなものは見たことがない!」

彼は剣をじっと見つめ、そっと手を伸ばす。「触っても大丈夫かな?」

レイは少し躊躇したが、「はい…大丈夫です」と答えた。


ワンディが剣に触れる「おお!確かに剣だ」

彼は目を輝かせながら、レイを見つめた。「ところで君たち、どこから来たんだい?そして、これは何処で手に入れた?」

レイは頷き答える。「実は、私たちはメリッサという女性に紹介されて……」


「メリッサ?」ワンディの表情が変わった。

「あの魔女か……」一瞬、怪訝な顔を見せた彼だが、にっこりと笑うと大きな椅子に腰掛け、続ける。

「まぁいい。さあ、話をしよう。君たちの話を、すべて聞かせてくれないか?」

レイは剣のエステルを抱え、彼女との出会いについて話始めた。



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