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「……来やがった!」


 回廊に歩を進める“ゾンビ”。

 アタルは長剣を構える。


「ロシャン、援護を頼む!」

「お……おう」


 ロシャンも腰ベルトのナイフを数本引き抜く。

 そして二人は視線を交わした。

 そして、


「おりゃーッ!」


 アタルは自らを鼓舞する様に叫ぶと、大上段から斬りかかった。

 一方、ロシャンは横に飛び、ナイフを投げつける。

 ナイフは“ゾンビ”の脇腹に命中。そこにアタルの長剣が襲いかかる。

 が、


「!」


 突然“ゾンビ”の左腕から大型のノコギリが生え、その剣を受け止めていた。

 そして今度は右腕から生えてくるハンマー。

 “ゾンビ”はそれを振りかざし……


「危ない!」

「おっと!」


 ロシャンの声にアタルは慌てて飛び退いた。

 その顔の直前で空を切るハンマー。


「クッ……ソッ! 意外と素早い。それに、体内に武器を隠し持っているとはな」


 アタルはギリ、と歯を噛み締める。


「それなら、今度はオレが!」

「待て!」


 アタルが止めるのも聞かず、ロシャンが襲いかかる。

 突っかかると見せかけてサイドステップ。そしてナイフ投擲。さらに壁で三角飛びをし、斬りかかる。

 しかし、それも肩から出現したナイフ状の刃によって阻まれてしまう。


「! チィッ……」


 ロシャンの舌打ち。

 だがその間に、アタルの長剣が“ゾンビ”の腹を斬り裂いていた。


「……何だ、この手応え⁉︎」


 しかしアタルは戸惑った様な声を上げる。

 柔らかく、ネバついたモノを斬った様な感覚。

 初の実戦、しかも“ゾンビ”相手ではあるが、それでもこの相手が異常なモノであるのは理解できた。

 そして、引き戻した剣先には、緑色の粘液。


「ナンだ、コイツは……?」

「逃げて!」

「!」


 剣に気を取られたアタルに、“ゾンビ”がノコギリで斬りかかる。


「クソッ!」


 大振りの一撃は、辛うじて剣で受け流すことができた。

 すぐさまロシャンのナイフが“ゾンビ”の肩口に命中。一瞬、その動きが止まった。


「……ッシ! もらった!」


 すぐさまアタルは袈裟掛けの一撃を放つ。

 その斬撃は左腕を切断。そこから生えていたノコギリごと宙に舞う。だがその直後、剣は右腕のハンマーで受け止められた。

 そして、


「⁉︎」


 長剣の先端は、脆くも折れてしまう。


「な……に⁉︎」


 飛び退き、再び刀身に目をやる。

 見ると、折損部付近がドス黒く変色してしまっている。そしてその部分に付着する緑色の“何か”。


「しまった! まさか……スライムだと⁉︎ 鉄を腐食させるヤツか!」

「ア……アタル、アレ」


 ロシャンの指差す先。

 “ゾンビ”の後方に、脇腹に刺さっていたはずのナイフの柄だけが落ちていた。刀身は、ない。

 そして、肩口からもナイフの柄が、ボトリと落ちた。


「攻撃が効いてない? いやしかし、このままじゃ二人ともやられる! このヤロウ……せめて行動不能にしてやる!」


 アタルは破れかぶれて“ゾンビ”の脚を狙って斬りつける。

 しかし、


「……ッ! クソッ、踏み込みが浅いか! ……ッ!」


 アタル自身よりも頭ひとつ以上大きな相手。そして4分の1を失った刀身から放たれた一撃は大腿部を浅く斬り裂いただけであった。そして反撃のハンマーを肩口に喰らってしまった。更に前蹴りによる追撃を喰らって壁に叩きつけられる。


「ぐあっ!」

「よくも!」


 ロシャンの投擲。

 ナイフは“ゾンビ”の顔面に突き立った。

 しかし、その動きは止まらない。

 そしてそれは、ロシャンの持つ最後のナイフであった。


「ロシャン、逃げろ!」

「ダメだよ。アタルを巻き込んだのはオレだ」


 二人は互いに庇いあおうとし……

 “ゾンビ”はゆっくりとハンマーを振り上げる。

 と、その時。


「“光弾”!」

「⁉︎」

『!』


 どこからともなく飛来した光の矢が“ゾンビ”の顔面と両肩に突き立つ。

 と、“ゾンビ”は動きを止め、声にならない呻きを漏らす。そしてその腕はだらりと垂れた。


「……えっ?」

「大丈夫か? 二人とも」

「その声……アーミルさん⁉︎」


 現れたのは、アーミルであった。


「嫌な予感がしたんだ。念のために鍵を借りておいて良かったよ。レヴァンさんは留守役だからなかなか動けないしね」

「助かりました」

「お陰で命拾いしました」


 アタルとロシャンがそれぞれ感謝の言葉を述べる。


「いいよ、そんなことは。予めソースケから頼まれていたしね。それより、ヤツを何とかしないとな。アレは……彼が倒したはずの“ゾンビ”……フレッシュゴーレムだよな」

「ええ……。でも、それだけじゃないみたいです。俺の剣もこの有様で……」


 アタルはアーミルに折れた長剣を示した。


「! そうか、スライム! マズいな……」


 アーミルの腰にあるのは高品質とはいえ魔剣でもない鋼の細剣(レイピア)。細いが故にアタルの長剣以上に脆い。


「ならば……“光弾”!」


 アーミルの左掌から幾つもの光の矢が放たれる。その大半はフレッシュゴーレムの頭部に命中した。頭部の大半がそれにより吹き飛ぶ。

 しかし、


「……やはり、この程度では駄目か」


 フレッシュゴーレムの歩みは止まらない。おそらく制御中枢は頭部にはないのであろう。

 それにアーミル自身、一応魔法は使えるとはいえ元々剣士である。攻撃力不足は否まない。


「それなら、オレがやります! すみませんが援護を!」

「待て、アタル!」


 アタルはアーミルの制止を聞かず、折れた長剣を手に走り出す。

 アーミルは制止しようと追いすがるが、間に合わない。


「そんな……アタル!」


 ロシャンの悲鳴 アーミルは掌に残り少ない魔力を集中し……

 その直後、


「うるさいなー。“大凍”」


 スィランの声。そして吹き荒れる氷の嵐。


「……へっ? 寒ッ!」

「スィラン⁉︎ ちょっとォ⁉︎」

「ッ! これほどの魔力とは……!」


 思わずその寒波に身を縮める三人。

 アーミルはとっさにて障壁を展開し、遅いくる寒気を和らげる。

 振り返ると、その先の廊下に寝間着のスィランが目を擦りつつ立っていた。

 そして“ゾンビ”は……


「凍った……?」


 彼らの目の前で、“ゾンビ”は凍りついていた。

 次いで、頭部、肩、胸、脇腹と、攻撃が命中していた部位からヒビが走った。


「それなら……喰らえ!」


 アタルは一気に踏み込むと、折れた長剣を思い切り振り抜く。

 まずは、一撃。

 “ゾンビ”の右腕が、肩口ごと吹き飛んだ。


「……ッ!」


 同時に刀身は限界を迎え、折れ飛ぶ。


「ハッ!」


 直後、アーミルのレイピアがその腹を突き通した。そこから大きく広がるヒビ。


「……もう一丁! でりゃあッ!」


 その間に回り込んだアタルが踏み込む。そしてその背中の中央、心臓のある辺りに残った柄をたたき込んだ。


「どう……だ?」

「ゴ……オォ……アァ……」


 直後、“ゾンビ”の全身に大きなヒビが走った。そして……


「オ゛ア゛アァ……ッ!」


 断末魔の声を残し、“ゾンビ”は砕け散った。


「へ……へへっ、やったぜ」

「やったな、アタル!」


 アタルの首に抱きつくロシャン。

 そして戸惑いつつもアタルは彼女を抱き返した。


「うむ。若いねぇ……」

「あー、こんな所で何やってんのさ、三人とも」


 アーミルとスィランの声。

 アタルとロシャンは慌てて離れる。


「ああ、スマンなスィラン。おかげで助かった」

「まさかお前があんな高度な呪文使えたなんてな……」

「呪文? 何のこと? っていうかこの……散らばってるの、何?」

「……へ?」

「覚えていないのか?」

「寝ぼけていてあの威力とは……」


 スィランの言葉に、三人は顔を見合わせた。


「とりあえず、だ。凍っているうちにコイツを片付けよう。溶けたら高そうな絨毯が台無しになる」

「そうだな。スィランも手伝ってくれ」

「あいよ〜」


 そうして四人は“ゾンビ”の残骸を片付け始めた。

 箒で破片をかき集め、それをバケツに詰めていく。


「……ン? 何だろ、コレ。変な“力”を感じる」


 と、スィランが豆粒程の大きさの“何か”を拾い上げた。

 翠色の多面体(トラペゾヘドロン)


「魔導石、ってヤツだな」


 と、アタル。


「魔力の結晶体みたいなモノさ。魔法を使う時に補助として使うこともある」

「そっかー。貰っても良い?」

「いや……どうだろう? とりあえず大家さんに相談してみた方が良いと思うよ」

「はーい。コレ、大家さんに渡しといて」

「え? お……おう」


 アーミルの言に、スィランは少し残念そうに姉に魔導石を手渡す。


「宝石みたい。綺麗……」


 彼女はその石に見惚れる。

 それを見、アタルはおずおずと口を開く。


「ああそうだ、ロシャン。あのさ、お前の刑期が終わったらさ。その、俺と……」

「……えっ」


 頬を染めるロシャン。


「一緒にパーティー組んで冒険しないか? スィランも一緒にさ」

「……は?」

「えっ……」


 表情を硬らせたロシャンに当惑するアタル。


「俺は賛成だよ〜。……姉ちゃんは先走りすぎだね」


 冷やかすスィラン。


「ちょっと〜! スィラン⁉︎」

「あ〜、眠くなったから先に部屋に戻るね。おやすみ〜。あ、多分何してても起きないから大丈夫だよ〜」

「アあァアンタ! 何言ってるのさ! オレはそんなんじゃ……」


 走って逃げるスィランと顔を真っ赤にしてそれを追うロシャン。


「えっと、その……俺、マズいこと言った?」

「……まぁ、がんばれ」


 アーミルは当惑顔のアタルの肩を叩いた。

 そうして旧ベルガント邸での怪事件は幕を閉じた……。

これにて一旦、「異世界転移で成り上がれ!」外伝は完結です。

が、これ以降も外伝的な話をアップロードするつもりです。その際は、よろしくお願いします。

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