午前3時
これは私が地方の工場で働いていた時の話です。
工場で働き始めてもうすぐ一年になろうとしていた時のことです。
3交代制で、3日働いて2日休みというサイクルでシフトが組まれていました。
昼勤は専属の従業員がいたため、交代勤務者は朝勤、夜勤が変わるという仕組みです。
時間帯が変わる時は休みの間に生活リズムを変えないといけないので、なかなか大変だったのを覚えています。
さて、季節は暑さも和らいできた10月の中頃。
夜勤が終わり、生活リズムを朝方に向けるため、一日起き続ける必要があった日のこと。
勤務中に少々トラブルがあり、バタバタと忙しかったその日は、かなり疲れていた。
それでも起き続けないと支障が出るので、帰り道にある喫茶店でモーニングを食べて帰ろうと思った。
喫茶店がオープンするまであと15分。早朝のため、少し冷える。
半年も週に2回ほど通っていますと、店員さんも顔を覚えてくれており、
「朝は冷えますね~。ちょっと早いですけど他にお客さんもいないですし、入ってください」
「すみません、ありがとうございます。」
と、少し優遇してくれたりしてました。
席に案内してくれ、モーニングセットを頼んだ私は先にコーヒーを持ってきてとお願いし、一息ついた。
ほどなくして「お疲れですね」とコーヒーを持ってきてくれる。
2,3他愛ない雑談をし、店員さんが仕事に戻るのを見送り、ふと外を見た。
ちょうど、自分の自転車が見える位置で、ぼんやりと眺めながらコーヒーを飲む。
すると、自転車の後ろの荷台に子供が乗っているように見えた。
「ん?子供?」と思ったが荷台には何もなかった。
「疲れてんなぁ」ともらし、席に置かれたモーニングを食べる。
ゆっくりとさせてもらい、かれこれ1時間近くいたので、そろそろ帰ろう、と会計を済ます。
自転車を見たが特におかしなことはない。気のせいだったのだろうと思い、家路につく。
少し自転車が重く感じたが、それも疲れのせいだろうと気にしなかった。
帰宅し、風呂に入り、洗濯をし、と家事を進める。
翌日の夕飯の買い物まで済ませてここから楽しい引きこもり時間だ。
昼になり昼食を終え一息ついていると、ベランダの方からコンコンという音が聞こえてきた。
なんの音だ?と思い、ベランダに目をやる。
すると、何かが隠れるように壁の向こうに移動した気がした。
私が住んでいる部屋は1階で、塀などはないためベランダは駐車場から簡単に入ることができてしまう。
窓に近づきさっと周囲を見るが何もいない。
自然が多いので、野良猫か何かが通り過ぎたのだと思うことにした。
部屋にいると布団に潜りたくなってしまうため、外へ散歩にでかけた。
適当にぶらつき、喫茶店でコーヒーとケーキを食べ、帰ってきた。
夕方5時過ぎだったか。もう、あたりはすっかり暗くなっている。
夕飯を適当に作り、食べ、早めの風呂をすまし、オンラインゲームを始める。
壁が薄いため、ゲームをするときはヘッドホンをするようにしている。
8時ぐらいだったか、突然ヘッドホンからノイズが混じるようになった。
ザザッ ザザザッ
その頻度が増えていき、ヘッドホンを付けてられなくなり、その日はゲームをやめた。
テレビに切り替え、酒を飲みながらダラダラと過ごす。
時計を見ると11時に近くなってきた。さすがに酒も入り眠くなってきたので寝ることにした。
寝ていないこともあり、すぐに寝付いた。
ふと、目が覚める。時間を確認すると午前3時。
なんでこんな時間に目が覚めるかな・・・とがっかりしながら寝なおす。
何か気配がする。
部屋は1Kで扉を開けてすぐ左手にベッドがあるのだが、部屋の奥から何やら気配がある。
暗いまま目を凝らすも何も見えないが、確かに窓の方から気配がする。
気持ち悪いと思いながら窓に背を向け、眠りについた。
翌朝、気配はなく、疲れすぎていたからだろうと一人納得した。
その日は一日オンラインゲームをし、家から出ることなく過ごした。
夜は軽くお酒を飲み、眠りについた。
また、夜中に目が覚めた。時刻は午前3時。
またか。
窓の方から気配がする。気持ち悪いので、その日はそちらを見ることなく必死に寝ることを優先した。
翌日からは朝から仕事である。眠さをこらえて準備をし、仕事に行く。
職場で、この休みの二日とも3時に一度目が覚めて眠いと愚痴をこぼしながら作業をしていた。
仕事が終わり、帰って飯を食い、ゲームをして寝るというルーティーンで基本的に過ごしている。
そして、12時には布団に入る。この日から地獄のような日が続くことになる。
寝ている時は毎夜3時に目が覚め、窓からの気配にうんざりし、
働いている時は3時になると突然耳鳴りや頭痛に襲われる。
そんな毎日が1月ほど続き、私は体調を崩し始めた。
寝不足による頭痛や吐き気、イライラ、食欲不振。
11月の半ばになってくると、仕事も休みがちになり布団から出れない日もあった。
夜中に目を覚ますと必ず午前3時なのも気になっていた。
そして、私は目が覚めた時に窓の気配を確かめることにした。
気配が気になりしばらくカーテンも開けていない。
ある日、3時に目が覚めた夜、私は意を決してカーテンを開けてみた。
そこには無数の小さな手形があった。
そして、暗闇の向こうにこちらを見る複数の目があることに気づいた。
こういう時、人は声が出せなくなるらしい。
息をのみ、すぐにカーテンを閉めた。
そして、翌日、会社に仕事を辞める旨を告げ、1週間以内に部屋を空けることにした。
こうして、私の地方赴任は終わりを告げた。
その後、私は抑うつ状態になり、薬のお世話になることになる。
実家に戻り、お寺と神社を数か所巡り、お祓いをしてもらった。
今でもたまにその日のことを夢に見る。そして飛び起きた時刻は。。
いかがでしたでしょうか。
そこに何かいたのか、はたまた夢か精神状態の悪化による幻覚だったかはわかりません。
しかし私は、その土地には何かいて、私は憑かれたのだと、そう考えてしまうのです。
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