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交換殺人って難しい  作者: 流々
序章
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ブラック上司、パワハラ、闇サイト。『犯人』は誰だ。

 小高い丘の上に建つ神社の境内けいだいには人影もない。

 年月を感じさせる社殿には賽銭箱の両脇に提灯型の明かりが掲げられていた。

 うっそうとした木々に囲まれ、夜の闇のなか石畳だけをほのかに照らしている。


 もうすぐ九時になる。


 そう言えば明後日はブルームーンだとか。昨日のニュースで見た気がする。

 ということは今日は十三夜か。

 見上げた夜空は雲に覆われていて、星どころか月がどこにいるのかさえもわからない。

 近くには外灯もないし、これなら万が一の時も顔を見られる心配はないだろう。

 こんなに曇っているのに天気予報では市の西部に雨が降る確率はゼロパーセントだった。


 ここまでいい条件がそろったんだ。今夜やるしかない。

 そろそろあのお爺さんがやって来る時間だ。

 大丈夫、僕にでもできる。

 きっとうまくいく。



 石畳に沿って植えられた茂みに隠れながら、五十三段もある石段を上ってくるはずのお爺さんを待っていた。

 相手は僕の顔なんか知らない。

 近づいて行ったって警戒なんかしないだろう。いや、待てよ、知らないやつだからこそ身構えるかもしれない。

 思い切って声を掛けた方が良いかもしれないな。

 道に迷ったふりをして駅へ行く道を尋ねれば、きっと立ち止まって階段の方を向いてくれる。

 そこを――。

 頭の中でシミュレーションを重ねているうちに、石段を上ってくる足音が聞こえてきた。


 でも、この時になって重大なミスに気がついた。 

 ここからだと上ってくるのが誰なのか確認できない。

 わざわざ出て行って石段の上から覗き込むのも不自然だし。

 どうやって相手を確かめるか。そこまで考えていなかった自分を責めた。

 どうしよう。早く考えないとここまで上がって来ちゃうよ。


 水曜日、この時間。

 あれだけお爺さんの行動を下調べしたんだから間違いない――はずなんだけれど。

 こうなってみると月明かりでもあれば、顔を確かめられたのに。

 でももしも人違いだったら……だめだめ、そんなことは絶対ダメ。ありえない。

 それじゃ、通り魔殺人と同じになってしまう。

 おまけにあの男を殺してもらうこともできない。


 そうこうしている間に、ざっ、ざっと石段を踏む足音が大きくなってきた。

 どうすればいいんだ、僕は。


 暗がりの中に頭が見えてきた。

 ゆっくりとこちらへ上ってくる。

 お宮の明かりにおぼろげながら浮かび上がった人物は背が高く痩せた感じ。

 やっぱりお爺さんっぽいけどなぁ。

 顔がかげになっていてここからではよく見えない。

 僕がうだうだ迷っているあいだにお爺さんらしき人はお宮へと続く石畳まで上りきってしまった。

 手摺につかまり立ち止まって一息ついている。


 もう時間がない。決断しなきゃ。

 お爺さんに恨みはないけれど、これもミキとの約束だから。

 ここから飛び出して体当たりで突き落とす。

 行くなら今しかないっ!

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他サイトですが「第4回ホラー・ミステリー小説大賞」にて最終選考に残り、奨励賞を受賞しました
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