姉ちゃんのおっぱいが揉みたいから、幼なじみに教えてもらう
10年も喋っていないのだから当然みゆちゃんのLINEなど知らない。インスタのアカウントも知らない。となると連絡を取れる手段は家電、つまりは固定電話にかけるしかないというわけである。
一階に降りると、台所で母ちゃんが洗い物をしていた。
「母ちゃん」
「何や」
「みゆちゃん家の電話番号教えて」
「はっ?」
母ちゃんは首だけで振り向いた。
「みゆ「ちゃん」って……。みゆママんとこのみゆちゃん? 増谷美優ちゃん?」
「そうだね」
「LINEで話せばいいがいね」
「LINEは知らないやつとは喋れないんだぜ母ちゃん」
「知っとる仲やん。保育園から同じなんやで。LINEくらい知っとるやろ流石に」
「おいおい……これ以上息子に悲しいコト言わせんじゃねーよ」
「なっ……いや、なんでみゆちゃん? あんたら別に仲良くないやろ? あんま息子にこんなん言いたくないけどいきなり電話したら流石に不審者やで」
「今日中に聞かなきゃいけねーことがあんだよ。緊急の用事」
「756の5659」
「ありがとう」
母ちゃんは怪訝な表情で俺の顔を見たが、3秒後には洗い物に戻っていた。
俺は廊下に設置してある固定電話に母ちゃんから言われた番号を打ち込んだ。
手が震えてきた。
母ちゃんの言わんとする事は分かる。いくら幼なじみとは言え、10年以上もまともに喋ってない男から急に電話しかも家電にかかってきたら誰でもビビる。でも仕方がないのだ。俺は姉ちゃんのおっぱいが揉みたいのだから。
『はい。増谷です』
受話器から妙齢の女性の声が聞こえた。多分、これがみゆママ。まぁ親同士が知り合いだし、みゆママが俺を警戒することはないだろう。
「あっ、も、あの、もしもし、フルタシュウです。あの、みゆちゃんいますか?」
『へっ?』
妙な沈黙。1秒の気まずさ。
『あっ、フルタ、えっシュウちゃん? ど、どしてん? ママ元気か? あっみゆ? みゆおるけど、どしてん?』
予想の3倍は警戒されてた。
「あの、ちょっと、用事で、みゆちゃんに」
『あっ、みゆな、ちょっと待ってな、呼んでくるな』
ごとりと受話器を置く音。保留もせずみゆママはみゆちゃんを呼びに行く。そのせいでやりとりが全部聞こえる。『みゆー!』階段を降りてくる音。『なにー?』『電話……』『えっ? 家に?』『しゅ、シュウちゃんから』『はっ!? 何で?』『ママ知らんわいね! でもかかってきてん』『なんで!? おらんって言って!』『もうおるいってしもてん』『えー!』歩く音。深呼吸する音。受話器を持ち上げたときのノイズ。
『も、もしもし? シュウちゃ、フルタくん……? 久しぶり……みゆやけど……』
「あっ、みゆちゃん、ごめんこんな夜遅くに……」
流石に十年振りの会話ということで、お互い声が震えていた。
『あっいや、それは全然いいんだけど……。ど、どしたの急に? 何か用……?』
「うん、みゆちゃんって女だよな」
『えっ逆に何だと思ってたの』
「ごめん違くて。あの、ちょっと変なこと聞いていいか? あんま引かないで聞いてほしんだけど……」
『えっ、今? うん、まぁいいけど、な、何?』
そう言ってみゆちゃんは声を潜める。俺はスーハーと深呼吸した。
「俺、姉ちゃんのおっぱいが揉みてえんだけど、どうすれば揉ませてくれると思う……?」
沈黙。たっぷり10秒くらい。流石にまずいこと聞いたかなと背中に汗が滲んできた。
みゆちゃんは言った。
『…………えっ? ごめん、ちょっとあの、思考がまとまらなくて』
「うん、ゆっくりでいいから」
『え? 姉ちゃん? あかねちゃんの、何?』
「おっぱい」
『を?』
「揉みたくて、どうしたら姉ちゃんが俺におっぱい揉ませてくれるようになるか、女のみゆちゃんに教えて貰おうと思い……」
『し…………』
「ん? みゆちゃん?」
『知らないよ!!!!!!!!!!!!!』
電話越しにダン!!!! と何かを叩きつける音が聞こえた。
「そっ、そうだよな。やっぱ、姉ちゃんの心なんて分かんないよな……」
『そこじゃないよ!! 意味不明なのはシュウちゃんだよ!! 何でその流れで私に電話かけてきたの!? 何で私なら実姉のおっぱい揉む方法を知ってると思ったの!? そもそも何で姉ちゃんのおっぱい揉みたくなったの!? 実のお姉ちゃんでしょう!?』
「えっ、いやそれは、リビングでおっぱい丸出しで寝てる姉ちゃんのおっぱいがすげぇプリンみたいで」
『聞いてないよ!!!! 聞いたけど! 聞いてないんだよ!!!!!』
みゆちゃんが受話器を握りしめるギチギチという音が聞こえる。
『えっ……くっ……えぇえええ!? 怖い怖い何この状況怖い!』
「お、落ち着いてみゆちゃん、様子が変だよ」
『私が変なの!?』
「と、とにかく大声をやめるんだみゆちゃん。今リビングで電話してるんだろ? そんな場所でおっぱいおっぱい言ってたら流石にみゆママの俺に対する印象が悪くなる」
『はっ!』
沈黙、そしてノイズ。みゆちゃんが何をしているのか手を取るように分かる。
みゆちゃんは声を潜めて言った。
『と、とにかく。私は何も分かんないよ。き、切るね? ママが凄い顔でこっち見てるし』
「ま、待って! 緊急事態なんだよ! 俺みゆちゃん以外に頼れる人いないんだよ!」
『その状況で頼れる人はこの世に一人もいないと思うんだけど……』
「頼む! 一生のお願いだ! 俺がここまで頼むなんてこれまでなかっただろう!?」
『知らないよ! 「うわーシュウちゃんがここまで頼むなら仕方ないかー」ってなるほど仲良くないよ私達!! なんならシュウちゃんが声変わりしてたの今知ったもん!』
「マジでみゆちゃんしかいないんだよ! 頼むよ!」
『えっ、えぇ……。う、うーん……』
みゆちゃんはえーとかうーとか唸り声を上げて、その数秒後に言った。
『わ、分かったよ。私にできること多分何もないけど、絶対何もないけど、……え? 私ホントにシュウちゃんのこと何も知らないけど、え? マジでシュウちゃんとは親が知り合いってだけでホントに何の関係もないけど、シュウちゃんがそこまで言うなら……まぁ、うん、力になるよ…………』
「ホントか!? ありがとう!」
『じゃあ、明日七時に教室来てくれる? とりあえずそこで話聞くから……』
「え? いや朝はギリギリまで寝たいから放課後でもいいか?」
『緊急事態なんじゃなかったの!? まぁいいよ! じゃあ明日の放課後ね!!!!』
そう言って、お互いおやすみと言って電話を切った。
ふう、とりあえず一歩前進か。
明日の夜には姉ちゃんの胸揉めるようになってるかな……。