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孤軍のジャンヌダルク  作者: 勝見 純
第一章 魔に誘われた田舎娘
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七幕 最厄の日

  終わりが、やってきた。

 



 最悪な目覚めから、また一日が始まった。ただ今日の一日は始まりから何もかも違う。


 アタシは木に縛られた状態から…ママによって解放された。


 「ヒスイ、大丈夫…パパ達はいないわ」 


 ママは優しく、そう言ってくれた。


 アタシが起きた時間は、普段より遅かった。


 寝違える…どころではない体の痛みをやわらげるために家でしばらく倒れた状態で…学校へは、お昼から行くことにした。


 


 亀車に、一人で乗る。


 学校へ向かう人はアタシしかおらず、中ではずっと一人だった。


 降りても…正門まで一人で行く。今日は浮浪者おじさんはいなかった。


 ()()()()真っ黒なカラスが…アタシのことを待っていたかのように空に浮かび飛んでいた。


 建物にとまらず…そこに羽ばたいて留まり、空からアタシを見ているよう。


 なんだろう、あの烏。


 あたしのことを見てる気がする。


 「……………………………………」


 嫌だな、怖い。


 目も見えない、そんな高さからだけど…あいつはきっとアタシを見てる。


 気のせいかな…


 段々と近づいて見えるのは。


 「………………」


 嫌だ、あっちに行ってよ!


 …アタシから行こう。


 大丈夫、背中を向けたって…襲われたり、食べられたりなんてしない。


 相手は烏なんだから。()()()()とは違う。




 ふと、ちょっとだけ気になって…


 最後に後ろを振り向いた。


 「いやああああああああああああああッ!!!!」


 目の前に…真っ黒な()()()()いた!


 烏じゃない。


 もっと大きくて…アタシより大きな、ワシ!?


 赤い目の、純黒の大鷲はアタシの目の前で大きなくちばしを開いた。


 ―――――声が聞こえる。



 死ぬなよ、と。


 それだけ言いたかったかのように、純黒の大鷲は空へと旅立つ。


 雲一つない晴天の空で、黒鷲は枯れ葉が砕け散るように無くなってしまった。ただ枯れ葉が散るのとは違う。

 

 まるでそこに、最初からいなかったかのように…気づけば何も残ってない。


 昨日の三頭の、巨大な魔物のように、消えて無くなった。


 確か名前は………




 駄目だ、思い出せない。夢で会ったはずなのに。



 

 最後に…


 最後にもう一度だけ、振りかえる…




 いない。よし、忘れる! もう忘れよう!


 忘れる! 忘れる! 忘れる!


 あんなやつ…明日になったら忘れてるッ!


 ―――だけど、村の誰かが言ってた。


 純黒の大鷲が訪れた時、災厄な死が起こるって。


 必ず、誰かが死んでるって、言ってた。


 でも大鷲は確かに…アタシに「死ぬなよ」と、そう言った気がした。




 (知らせに来てやったぞ、地獄の瞬間ときを。我が相方の…無知なる犠牲者よ)




 学校へ着くと、中では大騒ぎになってた。


 昨日捜していた、魔術士マレシスタの人が見つかったそうだ。


 ただ見つかったのは、半分……だけ。


 腰から下は、無かったそうだ。


 アタシはそれを聴いて、膝から崩れ落ちた。


 さらに―――――…


 アルトの妹の、ソフィーちゃんの…靴だけは見つかった。


 魔術士の人達はまた学校へ来ていて、村の大人達と言い争ってた。


 「冗談じゃねぇよ、皇都から調査隊を派遣するに決まってるだろッ! 魔物イーパーが出たんだぞ、それも雑魚じゃねぇ! きっと大型の魔物だ!」


 「冗談ではないのはこちらだ。そんな言いがかりをつけるなら…君達をここから出すわけにはいかん!」


 「はぁッ!? ふざけんなよッ! お前らなんか隠してんだろッ!」


 「言いがかりはやめろと言っているんだ。大型の魔物など…いるわけがないだろう。いればすぐに分かる!」


 ―――――あいつだ。


 昨晩、アタシとアルトの前に現れた…そして夢に出てきた、三頭の巨大な犬型の魔物だッ!


 あいつに食べられたんだ、きっと…


 「…村長さん、アタシ見たよ」 


 血溜まりの目を光らせた、狂ったような声を上げる犬…狂犬型の巨大な魔物。


 その話をすると…大人達の顔もまた、狂ったように怖くなった。


 魔術士の人達はそれがどんなやつだったかアタシに聞くけど……それ以上は何も分からない。


 ただ思うことは、ある。


 あいつはアタシ達の目の前にいた小さな魔物を食べて……アタシ達のことは、食べなかった。食べようともしなかった……多分。


 でもきっと、あいつに喰われたんだ。魔術士の人は。


 もしかしたら、ソフィーちゃんも…


 


 アルトは、また外に出て昨日の森へ行こうとしていた。


 「アルトッ!」


 「嘘だ。まだどこかにいる、まだどこかにいる、まだ絶対どこかにいる!」


 ソフィーちゃんは…


 靴だけ残ってるということは、ソフィーちゃんは…


 「無駄なことだ、小僧。お前の妹は十中八九、丸呑みにされて死んだ」


 学校の玄関から外へ出ようとするアルトに、サファイスさんはそう言った。…そんな。


 「それと村長、自警団がまた総力をあげて森へ魔物を狩りに行こうとしているようだが、やめさせろ。大型であれば森にいても遠くから確認できる。それより村の内側…市街地を中心に固めておくことだ。あとはやぐらから監視をつけておけば充分」


 それからサファイスさんは、魔術士の生徒達へも言った。


 「お前らは早々にこの村を出て皇都に戻れ。死んだ魔術士せいとは、そのへんの魔物にやられたとでも報告すれば通る。憶測での報告は一切不要だ」


 淡々と述べるサファイスさんに、髪の長い男の魔術士は反発する。


 「勝手なこと言ってんじゃねぇよ! あんた…このおかしな村のグルかよ」


 「貴様らが勝手な行動をしてこの村に来たのが事の原因だろう。もし不要なことを報告するのであれば、俺からも皇都学園へ憶測の報告を行う。そうだな…外地遠征の最中に山賊の真似事でもして村を襲おうと目論んだ、というのはどうだ」


 「……!」


 魔術士の生徒達はそれを聞くと何も言い返せず…だけどサファイスさんへの不審感は大きくしたまま、村からまた逃げるように帰っていった。


 それに村の大人達は…サファイスさんが言ったことに、納得していない様子だった。


 


 クラスでは、アルトの件で話が持ち切りになる。


 正確にはアルトの妹…ソフィーちゃん。


 ―――本当に、魔物に喰われてしまったのかな。


 アルトはまだ信じてなくて、今にも教室を飛び出してしまいそう。


 他の皆も、落ち着かない様子だ。


 村のすぐそばの森に、人を丸呑みにするような大きな魔物が現れたのが、本当かどうか。皆で騒いでる。


 先生は、絶対にそんなことはないから。ソフィーちゃんもいずれ見つかるからと言って、なだめようとしていた。


 ただルミィは…みんなと様子が違った。


 酷く青ざめた様子で…


 「亡霊狂飆ゴーベルトだよ」


 ――――そう、言った。教室のど真ん中で。


 「亡霊狂飆がまた…現れたんだよ。帰ってきたんだよ!」


 その話を、クラスの皆は素っ頓狂な顔で聴いてた。


 突然どうしたの、ルミィ? と、話半分に聞く。


 でもアタシには…その名前は深く刻まれた。


 亡霊狂飆ゴーベルトだ。夢で会った化け物の名前は…確か、確かに亡霊狂飆だ!


 そして先生にも、その名前は深く深く刻まれてた。


 「ルミィ…亡霊狂飆って」


 「ルミィッ!!!」


 先生は突然、ルミィを捕まえようと荒々しく手を伸ばす。


 ルミィは我に返って逃げるように、教室を出ていった。


 先生は我を忘れて追いかける、逃げるルミィを。


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