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孤軍のジャンヌダルク  作者: 勝見 純
第一章 魔に誘われた田舎娘
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五幕 消えた人間と現れた魔物

  突如として現れ、訪れる。




 キーン♪ コーン♪ カーン♪ コーン♪


 授業が終わった。


 家へ帰る、その時間になった途端に…ルミィは今度は超高速で走り出した。昼休みとは比べ物にならないほど。


 帰る間際、アタシ達に知らせが入ったからだ。


 閑静漁村の英雄であり、魔滅士と呼ばれる剣聖。そしてルミィのお兄ちゃんであるサファイスさんが、村に帰ってきている。


 その知らせを聞いたルミィは居ても立っても居られないようで、学校が終わるや即座に走り出したのだった。


 「ちょっとルミィ、亀車は時間通りにしか来ないってばぁ!」


 そう言ってもルミィは止まらない。というか聞こえてない、多分。

 

 走って追いかけても…追いつけない。足の速さならアタシ自信あるのに。


 「おい待てよッ!」


 アルトが後からアタシに追いついてきた。さすが体力お馬鹿、怪我してるはずなのに早いなぁ。


 それでもルミィには全然追いつけない。ルミィは走るの、苦手なはずなんだけどなぁ…


 「…おいおいルミィのやつ、あんなに足速かったっけ?」


 「本当、速すぎ…全然追いつけない」  


 大好きな、大好きなお兄ちゃんが帰ってくる。


 どうしてそんなにお兄ちゃんが大好きなんだろう?


 アタシもお兄ちゃんが三人いるけど…三人()()()()()()しれないけど、帰ってくるとわかった途端、居ても立っても居られず走り出すほど大好きかと聞かれると素直に頷けない。


 サファイスさんだから、なのかな。強くて、偉くて、憧れのお兄ちゃん。


 ルミィのやつは一体どんな顔して走っているのやら…



 

 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんはああああああああああお兄ちゅああああああああああああああああああああああああああん!!?♡♡




 すぐにルミィには追いついた。


 どんなにルミィが速く走っても、亀車は時間通りにしか来ない。最悪家までそのまま走って帰るつもりじゃないかと焦ったけど、ちゃんといつも通りの場所にルミィはいた。


 そしていつも通りの時間に、亀車はやってきた。


 「クェェェェェェェェアァァァァァァァッ!!!」


 いつもの道を、いつもの速さで帰る。至っていつも通りだ。


 ただここまでだった。


 アタシ達が住んでいる辺りで亀車から降りると…そこはもういつもの村の様子ではなかった。


 村の大人達がざわついてる。


 そして自分の家に帰ると…ふたりの姿がなかった。


 「ママ…オルク兄。()()()()()()は?」


 「村と外の境にある森に行ったわ。人がいなくなったみたい」


 ママは心配そうに言った。ラグマ兄は怪我してるはずなのに…それにコウまで。


 誰がいなくなったんだろう?


 それを聞く前に、我が家に人が来た。


 「おい! …あの、妹、来てないです、か」


 アルトだ。血相を変えて、アルトがうちにやってきた。


 「いいえ、来てないわ」


 「そう……すか」


 ママの言葉に、アルトは肩を落とした。


 しかしすぐに上げて、うちを後にする。


 「アルト、待ってアタシも行くッ!」


 アルトの妹さん…ソフィーちゃんがいなくなってたなんて。


 「だめよヒスイッ!」


 ママが止めた…けど、それをオルク兄が止める。


 「ラグマ兄やコウもいるし、追い返されるならそこで返されるよ」


 そう優しく言った。心配はいらないという風に。


 ありがとう、オルク兄。




 途中、ルミィとも合流した。


 「お兄ちゃんが……いないのぉ!」


 多分、ラグマ兄達と一緒だ。


 「心当たりある。こっちについてきて!」




 森へ行ってみると、そこで()()()()()いなくなっていることが分かった。皆が捜してたのは、そっちみたいだ。


 人がいなくなったと助けを求めてきたのは、今朝アタシ達といざこざを起こした魔術士マレシスタの人達だった。


 髪の長い男の人が言う。


 「いなくなったんだよ、村を出ようとしたら…少し道に迷って、そうしたら一人、どこにもいねぇんだ!」


 ラグマ兄や自警団の人達はやっぱりここにいた。コウも一緒にいる。


 「お前らが勝手に村に来といて、好き勝手やったうえにそっちの迷子の面倒を、なんで俺達が見なくちゃいけねぇんだよ!」


 コウはそう強い口調で言った。自警団の人達も同じ考えみたいだ。どうして…


 魔術士の人達は今朝の村長さん達のことがあったからか、ここでも強い口調で言い返してはこない。


 だからアタシが、間に立った。


 「みんなどうして…捜してあげようよ!」


 助けない理由なんてない。


 自警団の人達や…魔術士の人達は何も言わなかった。


 ただその前にうちの家族が声を荒げる。


 「ヒスイ、お前なんでここに来たんだよ、帰れッ!」


 嗚呼、コウが…コウがアタシをのけものにする。助けてオルク兄。


 だけどオルク兄も、追い返されるならここで追い返されるって言ってたから…どうしようもない。


 「あの、俺の妹も、いないんですッ!」


 アルトが口を挟んだ。村の人達は驚きつつも、態度は変えない。


 「分かった。そっちも俺らが捜して見るから、お前達は帰れ」


 ラグマ兄もそう言った。アタシ達はこれ以上、為す術もない。


 だけど、味方してくれる人が一人いた。


 「そのふたりも、俺が連れて行く」


 背の高い…そしてなによりも鋭い目をした剣士…背丈に見合った長剣を腰に指した痩せた男の人が、アタシ達の味方をしてくれた。


 魔滅士レミネーター、サファイスさんだ。


 その威圧感は凶暴な魔物のような…会ったことはないけど。怖い大人の人とはまた違った、静かに君臨する動物界の王みたいな威圧感だ。


 「え、けどよ…サファイスさん」


 コウやラグマ兄も、サファイスさんの前では大きな声を出せない。


 「この森の外側…魔物がいる方も、こちらへ来るとき粗方狩り尽くしてある。それに俺がいれば…心配は不要だ」


 サファイスさんはそう言うと、アタシの方を見て…


 「捜し手は多いほうがいいだろう…彼らは懸命に探すだろうしな」


 そう言った。


 「…ありがとう、ござい、ます」


 アルトは慣れない敬語で不器用にそうサファイスさんに言ったけど、彼はアタシの方を見て…


 「俺達はこっちを探す。ついてこい」


 そう不器用に、というかぶっきらぼうに言い歩き出した。


 「お兄ちゃん、ワタシも…」


 ルミィはそう駆け寄ったけど、サファイスさんは…


 「危険だ。うちへ帰るんだ」


 そう短く告げた。顔も合わさないまま。


 「…うん」


 ルミィはそう、寂しそうに言った。


 …この森の外側には魔物がいるかもしれないなら、ルミィについてきてほしいとは言えない。


 アタシは……外の世界に興味がある。




 涼しい夕暮れの中、あてもなく捜し続ける。一大事だけど派手に動き回って探ることが難しいので、汗はかかない。

 

 草は深く生い茂っていて、分かれて捜すアタシ達は、それほど離れていないけれど、分かれたコウ達の様子を確認することはできない。


 「ソフィーちゃーん!」


 そう叫ぶけど、反応は一切ない。そういえばいなくなった魔術士の人達の名前を聞きそびれてた。


 周りからも人を呼ぶ声は聞こえてたけど…どれだけ呼んでも反応がないので、段々と呼ぶ声も少なくなっていった。


 アルトは段々と、苛立つように捜し始める。


 「くそ…くそ、くそ! いねぇッ!」


 苛立つというより、焦りだ。アルトは焦ってる。


 アタシ達は、ただ心配なだけだ。


 サファイスさんは、ただ黙々と草を刈りながら捜し続ける。


 「…ヒスイで構わないか」


 サファイスさんはアタシに聞いた。


 「…あ、うん」


 はい、か。咄嗟に聞かれてついため口になってしまった。


 「ヒスイ、小僧。俺から離れるなよ」


 アルトは小僧。アタシは小娘じゃないんだな。


 「くそッ! くそッ! くそッ!」


 アルトは聞いていないようだった。




 夜になってきた。


 もう、二人を捜す声も聞こえない。


 ――――アルトの姿もない。


 少し離れたところにいた。けど、()()()()()()()してた。


 「アルト、暗いし…サファイスさんから離れないようにしないと」


 「同じとこ捜しても効率が悪いだろ。なんのために俺達が来たんだよ!」


 それは、そうかもしれないけど…


 アルトはサファイスさんから離れるように突き進んでいく。アタシもそれを見守るように、後に続いた。


 ―――――ここは、村の中かな、外なのかな。


 「ピィポォオオオオオッ!!!」


 外だ。


 暗闇でも分かる。聞いたことのない声だ…


 豚のようだけど、牙がある。だけど猪じゃない。人よりも大きな目玉がある。


 大きさはアタシ達より少し大きいくらい。むき出しの牙と鋭い歯はアタシ達を簡単に食べてしまうに違いない。


 魔物イーパーだ。


 魔物はアタシ達を見つけるなり、高い声を上げて襲いかかってきた…


 「きゃあああッ……」


 ―――――悲鳴が、止まった。一瞬で。


 アルトも、アタシに逃げるよう言おうとしたけど…その前に()()()()()


 魔物が。


 猪型の魔物は声を上げる間もなく、背後から一口で飲み込まれるように食べられた。


 自分よりも五倍は大きな、怪物に上から喰らいつかれて…


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