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孤軍のジャンヌダルク  作者: 勝見 純
第一章 魔に誘われた田舎娘
3/251

一幕 災厄の日

  最良の日も最悪の日も、始まりはそう変わらない。

  いつもの朝から始まる。

 




 星誕暦せいたんれき707年




 私は十歳の女の子、魔術マレストが扱える特別な子。


 私には、他の人にはない特別な魔術という力を操る力がありました。


 ある日、神様からのお告げを聞きます。


 世界をその魔術で〜〜〜導いてくださいと。


 私は魔術で世界を導く旅に出ます。


 世界には人を喰らう魔物イーパーが溢れています。


 そして、世界の中心である皇都には魔術士マレシスタという、私のように魔術を操る人が大勢いました。


 世界はそんな魔物と、魔術士達が日夜命がけで戦っていました。


             〜

 

 私の魔術で世界を導くため、皇都という人の世界の中心で、魔術を極めて、世界一の魔術士になる。皇帝様よりもすごい、魔術士になる!


             

 

 

 「ヒスイ、コウを起こして!」


 「…あ、は〜い」


 ―――――魔術に目覚めた十歳の少女は、世界の中心、皇都で魔術を極める修行に明け暮れる。


 アタシはもう十二歳になるのに、毎朝兄貴を起こすことから一日が始まる。なんだこの違いは。


 ()()()()もちろん、お話の世界だけどさ。


 この世界には()()()()()()()()()()…アタシには関係ない。


 魔術士や魔物もいるのに……ほとんど知らない。魔物は別にいいけどさ。


 もうすぐ十二歳になる少女、ヒスイ・ロランスはため息混じりに兄を起こすため、自室の扉を開けた。


 彼女は魔術に興味を持っているが、自分の部屋でひとり、楽しむようにしている。


 彼女の住む閑静漁村クアル・ビレッジに、魔術士など一人も存在しない。


 

 「コウ! 朝ごはーん。…あ・さ・ご・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」

 

 今日もドンドンドンドン。ドアを叩く。 コウを起こすのがもう日課になってない? 嫌なのに…

 

 「うるせぇんだよッ! 朝っぱらから。後、呼び捨てで呼ぶなっていつも言ってんだろ、ヒスイッ!」

 

 すぐ怒るんだもん、起こしてもらっといてこいつ!


 兄コウとヒスイは歳が近く、犬猿の仲といってよかった。

 

 「うぎゃ! 痛ぁい…ちょっとママぁー、コウがまた叩いたよー!」

 

 「もう…コウもヒィも早くご飯食べちゃって。それからコウはお兄ちゃんなんだから、手を出さないの!」

 

 本当、コウはすぐ叩く! 年上のくせに。

 

 「ま、コウは子供だからしょうがないよね。アタシがお姉ちゃんになってあげるわ♪」

 

 「はぁ…まじでウゼぇ」


 ウザいのはこっちだ! 毎日毎日起こしてあげてるのにどうしてこんな目にあうんだ!


 ふたりは起きてドアを開けて会うなりぶつかりあって、朝食の待つリビングへと向かった。コウ・ロランスは三人兄弟の末子。ヒスイ・ロランスはさらに下の末っ子長女になるので、お互い譲らず折り合いが悪いといった具合だった。

 

 どうしてこう毎日喧嘩になるんだかと…ヒスイは本当はコウと仲良くなりたい、などではなく朝からエネルギーを使いたくないと今の関係性に不満というか、嫌気がさしていた。


 一体いつから喧嘩し始めたんだろう……覚えてないや。


 喧嘩の理由なんて、どうせ今と対して変わらないと思うし。


 きっとこれからも変わらない。はぁ…


 そう朝からため息をつき、リビングへと入る。

 

 「ヒィ~、おはよう」


 「おはよう、パパ!」


 父ミーテルの朗らかな態度に、ヒスイは兄との戦闘でダメージを負った心身を癒やした。


 体格は大柄で、ミーテルは朝食のフレンチトーストに使っていた手を、ナイフとフォークから離すと、立ち上がり大きな手でヒスイを抱きしめようと近づく。


 だがしかし、十二歳という思春期真っ盛りの娘は、笑顔でそれをいなした。父は残念そうにしながらも、男兄弟三人の後に生まれたひとり娘可愛さに、憎さなどこれほどもない。無論、ヒスイも父が嫌いなわけではない。

 

 パパはいっつもアタシの味方♪ 怒られた事なんて一度もない。


 父には絶対の信頼があった。

 

 パパはアタシが何したら、怒るかな?


 そんなことを思いながらも、何も思い浮かばない。


 父はさっそく娘のごきげんを取ろうと、話を仕掛ける。

 

 「ヒィ~、もうすぐ十二歳の誕生日だけど、何が欲しい?」

 

 「アタシの部屋が欲しい!」


 ヒスイはすぐに答えた。

 

 もうそろそろ、パパとママとの相部屋はキツイ…嫌いなわけじゃないよ!


 それに相部屋だと、魔術の本も読みづらいし…


 ヒスイはそれを、ベッドの裏に隠していた。

 

 「じゃあ家を改築(リフォーム)しないとな!」

 

 こんなお願いも聞いてくれるもん! パパ大好き!


 父娘おやこのノロケた会話に、コウは呆れつつも、この父親なら本気でやりかねないと釘を差した。

 

 「父さんまじ!? 改築費いくらかかるんだよ」

 

 「いやいや、コウ達男兄弟を一つの部屋に押し込めば、模様替えだけで済むよ。ちょうどリフォーム考えてたし」

 

 「…まじ、父さん?」 


 コウは父の凶行に耳を疑った。

 

 「まじだよ、コウ」

 

 父は真面目だ。


 「ヒィ! 早くご飯食べて。亀車(かめしゃ)が来ちゃう」

 

 「は~い」


 母に急かされるも、ご機嫌なヒスイはマイペース気味に朝食を進めていた。母のことも、なんらヒスイは嫌いではない。

 

 ちょっと口うるさいこともあるけど、ママとは一番の仲良し! まぁ周り男ばっかりだから当然と言えば当然なんだけど。

 

 生まれた時から…きっとどっちかが先に死ぬまで、ママとはずっと一緒。そう思う。


 それほど彼女は、家族に対し愛着を持っていた。


 ふたりの兄のうち、テーブルには次兄だけが座っていた。

 

 「おはよう、オルクにぃ! …ラグマ兄は?」

 

 「おはようヒスイ。ラグマ兄ならとっくに出ていったよ。ヒスイが起きる前に」

 

 「仕事? そんな朝早くから」

 

 「その分帰りは早いんじゃないかな」

 

 「ふ~ん」

 

 ラグマ兄、毎日仕事で大変そうだなぁ。大人は大変だ、凄いや。まぁ仕事は魔物狩りをする村の自警団っていう、あんまりそそられない仕事だけど…


 のんびりと朝食をとりながらヒスイは思った。


 いかにも田舎臭い仕事が、皇都に興味を抱く少女にはそそられない。また魔物というものは彼女にとって、特に怖い存在ではなかった。

 

 …コウやオルク兄も将来、学校卒業したら自警団に入ったりするのかなぁ? コウはともかく、オルク兄はないと思うけど…運動も剣術もダメダメだし。


 魔術が使えれば…皇都に行けるのかな。


 この村には魔術士がいないから、よく分からないけど。


 ヒスイは魔術士の存在を、些細な学校の授業と、村にほんのわずかしかない魔術の本で知り、学んだ。


 皇都か、行ってみたいな。お城…帝城とか見てみたい。


 …まぁ夢か。

 

 「オルク兄ってさ、今年学校卒業だよね、もう仕事は決まってるの?」

 

 「やりたいことは決まってるよ」


 …大丈夫かな、二十二歳にもなって無職ニートになったりして。


 ふたりの兄に比べ華奢な次兄の、将来像までふわりとした感じにヒスイは一家の将来に、一抹の不安を感じた。

 

 「ヒィ! 時間よッ」


 母に急かされると、ヒスイは手にしていたフレンチトーストを置いた。ぼやぼやしていたら時間がない。

 

 「行ってきまーす!」

 

 「ヒスイ、残ってるぞ」

 

 「あげる! オルク兄は()せてるんだから。可愛い妹からのプレゼントだよ」

 

 そいつを食べて力をつけて、お主も早く一家のために働いてくれぃ!


 「…残飯プレゼントされても誰も喜ばんぞ。ヒスイの将来が心配だな」


 次兄もまた同じように、妹の将来を憂れうのだった。

 

 「ヒィ! 忘れ物」

 

 「ああはいはい!」

 

 「慌ただしい奴、嫁の貰い手ねぇぞ」

 

 「いいじゃないかコウ、その時はお父さんがずっと側で面倒見るよ。むしろ他所の馬の骨なんかに、ヒスイを渡すものか!」

 

 「―――まじ…父さん」

 

 「まじだよ、コウ」


 ヒスイはバタバタと玄関の扉に手をかける。

 

 今日もギリギリだなぁ…いつもの慌ただしい朝。まるで昨日のことのように変わらない。

 

 「ヒスイ、行ってらっしゃい」

 

 「ありがとう、オルク兄。行ってきま~す」

 

 オルク兄のやりたいこと…訊きそびれたな。ラグマ兄とは会ってもないし…

 

 よくよく考えれば、昨日と違うんだな。

 

 ま! 家に帰ったら嫌でも会えるし、好きなだけ話せるんだけどね。




 魔術を使えれば、学校へ行くのも楽になるのにな。


 「クエェェェェェェェェェェェェェ!!!」


 この村では魔物が、アタシ達を学校へと運んでくれる。

 

 家を出て少し歩くと…人が二十人は乗れる亀の魔物が、大きな甲羅を改造された座席を背負って、今日もノッシノッシと歩いてくる。


 亀車も楽は楽だけど、そんなに速くないし、よく揺れる。

 

 ただこんなノロマに見える亀車でも、自分の足で歩いていくより百倍速いらしいから、体の大きさって重要なんだなぁ。


 ヒスイは亀車と同じように呑気な表情を浮かべながら、その中へと乗り込んだ。


 

 

 「おはよー、ヒスイ」

 

 「おはよ、ルミィ」

 

 中に入るとルミィがいた。ヒスイはいつも通り隣に座る。吹きさらしの座席の端にすわり、風に煽られるヒスイは今日も今日とてといった具合の表情だったが、ルミィは少し様子が違った。ヒスイはすぐにその様子の違いに気づく。

 

 「…ヒスイ、何かいいことあった?」


 だが、先に声をかけたのはルミィだ。

 

 「別に? 今日も遅刻せずに、亀車に乗れたくらいだけど」

 

 朝ごはんは半分食べ損ねた、コウのせいで!


 半分は自分がのらくら朝食をとっていたせいだが、責任はすべて兄にとらせる。

 

 「そっか……そうだよねぇ」


 ルミィは嬉しそうに、チラチラと少し逸しながら親友の顔を覗く。

 

 「ルミィ、何かいい事あったの」

 

 「えッ!? …えへへ、分かる?」

 

 分かり易すぎるわ、かわいい奴め!


 内気な親友の白々しい行為に、ヒスイは可愛いものを見たと満足した。また、久々にルミィが思い切り喜んでいるのを、見た気がする。

 

 「実はねヒスイ、昨日お兄ちゃんが渦炎蛇竜(リザラ・マンダ)を討伐したの! それで大きな仕事は終わったそうだから、お兄ちゃん一度帰って来るかもしれなくて…!」


 兄が帰ってくることに、ルミィは感情を高ぶらせていた。しかし亀車に乗っていた他の人間は魔物の方に関心を寄せた。

 

 「本当に!?」「すげぇー!!」「渦炎蛇竜を倒したってよー!」と、周りの男子達が一斉に群がる。ヒスイは兄が三人もいるせいか同年代の子達をこどもと見なし、自分はややそっけなく、ただ兄を褒められて照れくさくするルミィを見つつ、ぼんやりそれについて考えた。

 

 渦炎蛇竜…確か巨大な蛇に翼が生えた、炎を吐く大きな魔物だ。人や、他の魔物を喰らう程、強くて凶暴な魔物だって学校の図書室にあった本に書いてあった。


 村の外には、そんな恐ろしい魔物が棲んでいる。らしい。村の外に出たことないから見たことないけど…どうして村は襲われないのかな?

 

 ルミィはお兄ちゃんを褒められて、必死に伸びに伸びた鼻を手で(おお)って隠してる。

 

 「流石は、魔滅士レミネーターサファイスだな」

 

 亀車の先頭で鞭打って動かしてるおじさんが、そう言った。


 しかしその言葉に誇らしさはない。素顔は前を向いて見ることができず、声音は、今も元気にやっていることの確認のように、ヒスイには見えた。そしてヒスイは、魔滅士という言葉に引っかかる。


 魔滅士…魔物を滅する剣士、なのかな?


 魔術に関しては村にある限られた書物は網羅してると自負していたが、魔滅士という言葉に見覚えはなかった。


 ヒスイはルミィの兄、サファイスについてもよく知らない。会ったことも、ほとんどない。


 サファイスさんは皇都で、軍人をしてる。ルミィの自慢のお兄さん。魔術士ではないって、ルミィは言ってた。


 この村には人を襲うような魔物はいないから、サファイスさんのような強い剣士も、魔術士も必要ない。


 家にあったあの本には…世界は人を喰らう魔物と、魔術士も命がけで戦ってるって書いてあった。


 どうしてか分からないけど、この村は平和だ。

 

 でもきっと我が家が襲われたりしたら、皆丸焼け丸飲みにされちゃうくらい、強い魔物なんだろうなぁ…渦炎蛇竜は。


 「いいなぁ~ルミィは。アタシもサファイスさんみたいな強いお兄ちゃんが欲しかったわ」  


 サファイスさんは強いし、なにより皇都や魔術のことも、よく知ってると思う。たくさん話を聞いてみたい。

 

 むくれるとおじさんが「ははッ、ヒスイちゃんのとこだってたくさんお兄ちゃんがいるだろう」と冗談めかして笑う。

 

 「でもヒスイ、お前のとこの兄ちゃんも魔物討伐してるんじゃなかったっけ?」


 一人の男子が訊いてきた。

 

 「ああ…うちのラグマ兄は怠大貍(ダルゴリ)倒すのが精一杯よ」

 

 どっと男子達が笑い声を上げた。男子ってホント単純。

 

 怠大貍(ダルゴリ)…ダルマみたいなゴリラ。臆病だからじっとして、近くの草や苔を食べる。そのくせ人や敵を見かけると一目散に逃げだす、臆病だから。


 そりゃ勝てるわ! アタシでも勝てるかもしれない!


 ヒスイは空を見上げて、同じ兄の、埋めがたい力の差を嘆いた。

 

 「だったらヒスイの兄ちゃんさ、サファイスさんに戦い方教えてもらえばいいんじゃね?」


 また男子のいらん一言に、ルミィはお人好しに反応した。

 

 「…頼んでみる?」

 

 「ううん、ラグマ兄嫌がると思うから。何ていうか…」

 

 荒くれ者で短気だし、人から命令されるのとか大嫌いに違いない。

 

 「あッ、でもヒスイの()()()()()()()()()は、前にお兄ちゃんに稽古つけてもらってたよ」


 その言葉にヒスイは引っかかった。

 

 「…コウ?」

 

 オルク兄なわけないし。

 

 「そうそう、コウお兄さん。お兄ちゃん誉めてたよ、中々筋がいいって!」

 

 「げぇッ!」

 

 「なんでげぇ…なの?」

 

 だって、コウが強くなったらアタシへの拳骨も強くなるじゃない! なんてことしてくれてるの。

 

 「ははっ、ラグマもコウも、相変わらず元気しとるみたいだな。ヒスイちゃんとも仲良くしてるみたいで、おじさん安心したよ」

 

 おじさんはアタシの心の中を察したように笑った。仲良く……ねぇ。


 「…ところで、おじさん。ラグマ兄のことも知ってるの?」

 

 コウはアタシと四つ違いで、去年までこの亀車に乗ってたから知ってて当然だけど、ラグマ兄が学校を卒業したのなんてずっと前だ。

 

 「そりゃあ知ってるよ。おじさん長いこと亀車の操縦手をやってるからな。ラグマのやつは長男だし、負けん気が強いんだろう。まぁ下も似たようなものだけどな」

 

 ―――確かに、ラグマ兄とコウは少し似てる。

 

 「人とすぐ喧嘩になる割には、いつも誰かと一緒にいる。中身は寂しがり屋なんだろうな…まぁ人なんてみんなそんなもんか」

 

 「…そうかなぁ」

 

 アタシはコウと毎日喧嘩するけど、構って欲しいわけではないな。

 

 「しかしルミィちゃんは大変だろう……サファイスのやつは皇都から滅多に帰ってこないし、家で変な話をしていたりしないかい?」


 操縦手は慣れた手つきで手綱をさばきながら、その目は半ば、ルミィの方を向いて言った。

 

 「…はい、お兄ちゃんは忙しいですから、滅多に帰ってこられないのは仕方ないんです」


 ルミィは寂しさを隠すような作り笑顔でそう答えた。寂しさだけを隠していたのではないが。

 

 「そうか……けどね、ルミィちゃん。サファイスのやつに気をつけておくんだよ。おとうさん達に、そう伝えておいてくれ」

 

 彼は急にそんなことを言った。


 ヒスイと、ルミィは意味がわからなかった。


 「どうしてですか!?」


 唖然とするヒスイを横に、普段はおとなしいルミィが声を上げると、操縦手はいらんことを言ったような顔をした。


 「あ、ほら…サファイスのやつは気難しいやつだから、それに外の世界で魔物と戦って、お兄ちゃんも疲れているだろうし。久しぶりに帰ってきたからといってあまり話しかけると、却って疲れてしまうだろうから、そのへん気をつけた方がいいと思ったんだ」


 それを聞くと、ルミィはしょげるように気を落とした。ルミィはサファイスさんが帰ってきた時、たくさん話しかけているんだろうな。でも…


 ヒスイが声を出すより先に、魔物が現れた。


 挨拶鳩ハロポッポーが、風にのって吹きさらしの亀車へ降りてくる。


 「ルミィちゃん、オハヨー! ゲンキダシナヨ」

 

 「ルミィチャン、オハヨー! カオアカカッタネ?」

 

 「ルミィチャン、オハヨー! …サテハコイシテルネ? ワカルヨ、ボクニハ」

 

 「きゃッ!? いきなりやめてよ~挨拶鳩!」


 ルミィは少しうれしそうに、魔物とじゃれ合っていた。ヒスイもそれを見て、溜飲を下げる。


 本当にお兄ちゃんのことが好きなんだな。

 

 …アタシはお兄ちゃん達のこと、どうなんだろうな。


 多分、なんだかんだ好きだ。ホント多分。 


 家族なんだし。

 

 「ヒスイチャンオハヨー! ワスレモノナイ?」

 

 「ヒスイチャンオハヨー! マタオニイチャントケンカシタ?」

 

 「チョット…フトッタ? ワカルヨ、ボクニハ」


 やめんかい、馬鹿鳩ぉ!

 

 挨拶鳩は言いたい放題言うと、また飛び去って言った。


 この村にいる()()()、優しい者達ばかりだ。




 「クエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

 「はい到着だよ。それじゃあ皆、しっかり勉強してくるんだぞ」


 亀車がいつも通り学校に、辿り着いた。操縦手のおじさんはそれ以上は何も言わないまま、亀車と一緒に去っていく。

  

 「クァアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 進行方向を伝えるように鞭で軽く打つと、亀車はまた重い(うな)り声を上げて、いつも通り来た道を帰る。振り向かなくても声と地響きだけで伝わるほどだ。

 

 人なんて一口でペロリと食べられるくらい、大きな大きな亀。

 

 アタシの知ってる亀と言えばこの亀車だけど、図鑑に載ってる亀という生き物のほとんどは、亀車とは比べものにならないくらい小さな生き物だ。でもアタシは小さな亀は見たことがない…亀車が全部食べちゃったのかな?

 

 確か亀車の本当の名前は…トランス・カタパルトだったっけ?


 ヒスイは思い返したが、そこまで魔物に興味があるわけではないので、うろ覚えだった。

 

 「よぉ嬢ちゃん~、おはよ~」

 

 「あ、浮浪者(おじさ〜ん)


 そして話しかけられ、頭から外れる。


 今日もいつも通り学校の正門に、浮浪者おじさんがいた。


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