旧友の変化
環を部屋まで送り届けたあと、書斎で書類に目を通していたセハリスは、誰かが扉をノックする音を聞いた。
「来ると思っていましたよ」
そう呟きながら立ち上がり、扉の前で待つ人物を部屋に招き入れる。
「あなたがこのような時間に私を訪ねるなんて珍しいではないですか」
扉の前で立っていたのは、未だに外出着を見に纏ったままのクリフォードだった。
「渡さなければいけない書類があったし、少しお前に聞きたいこともあったんだ。他の奴らの耳に入っても困るし、こんな時間に来たのは許してくれ」
クリフォードは少し焦ったように言った。
「もしかすると、タマキのことですか?」
「……タマキって名前だったのか。お前は自由に話せていいな。今日一緒に行動したときは本当に大変だったんだ。身振り手振りで最低限の意思疎通がやっとだった」
「おや。もしかして、もうタマキのことを気に入りました? 女性が苦手なあなたが、彼女のことを気にかけるなんて思いませんでしたよ」
「そういうわけじゃない。ただ、俺に近づいてくるような女性とは違うから、少し興味が湧いただけで……。それで、結局何者なんだ? 俺の判断は正しかったのか?」
「まだ確実ではないですが、そうではないかと思います。彼女はやはり別の世界から来ており、前の世界ではこちらでいう賢者のような立場に着くため勉学に励んでいたそうです。この世界で役に立てるようにとリズモア語を始め、勉学に対してとても意欲的でしたね」
「そうか……」
クリフォードは、何かを考え込んでいるかのようにしばらく押し黙った。
「おやおや、本当に珍しいこともあるものですね。明日は嵐でも来るのでしょうか?」
セハリスは、今まで見たことがない旧友の様子に、思わず笑みを浮かべながら言った。
「それほど気になっていたのなら、あなたも今日の夕食に呼べばよかったですね。先ほど、話の流れで私の部屋でご一緒することになったのですよ」
「なんだって? 夜に二人きりでここに来たのか?」
「もちろん二人きりに決まってるじゃないですか。夕食はテラスで美味しく頂きましたよ」
「……お前こそ珍しいじゃないか、長い時間女性と2人きりで過ごすなんて」
ほんの少しだけ、不機嫌そうに見える様子でクリフォードが言った。
「タマキは特別ですからね。私の美貌に取り憑かれることもなく、あなたのように気軽に話せる存在は私にとっても貴重なんですよ」
「……そうだな」
クリフォードが呟いたのはそれだけだった。
「こんな時間にすまなかった」
感情を見せない声色でそう告げると、彼は足早に部屋から出て行った。
「おや、少し虐めすぎてしまいましたか」
セハリスはふふっと笑みを浮かべたのち、作業に戻る。
夜が更けていく。