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練習の成果

 カルに呼び出された私が闘技場へ到着したときには、ラファさんはすでにそこで待っていた。



「おはようございます、ラファさん」


「おはよう、タマキ。疲れた顔してるね。課題は大変だった?」


「ええ、この課題のおかげでとっても充実した毎日が過ごせましたよ」



 笑顔で言ったが明らかな皮肉だ。


 昨日の追い込みのせいで体はヘトヘト。

 起き上がるのも辛かったが、カルに突かれてはそのまま寝ていることなんて出来るわけがない。

 非常識な時間ではなかったが、もう少しだけでも休みたかった。



「ハハ、それはよかった! じゃあ、早速成果を見せてもらおうかな?」



 私は鞄に入れていた水晶玉を取り出した。


「わかりました。それじゃあ、やってみますね」



 私は水晶玉に軽く手を当て、昨日の感覚を思い出しながらラファさんの姿を強くイメージする。



 すると、手が触れている部分から、まるで生き物かのように水晶玉がうねりながら変化していく。



 始めは体の大まかな部分。

 身長は、165センチの私が少し見上げるくらい。

 細身だが、うっすらと筋肉の見える体。

 少し骨張ばった大きめの手。



 全体の形成が終わると、細かい模様がゆっくりと刻まれ始める。



 特徴的な碧眼は光を通して輝くように。

 睫毛は自分が思っているよりも数ミリ長く。

 ほんのり色づく口元は、リズのような女性たちを魅了するように怪しく微笑む。



 こうして隅々までラファさんを見てみると、確かにリズが言っていたことにも頷ける。

 神、とまでは言わないが、完璧に整った体のパーツは見る人を近寄り難く思わせるほど美しい。

 細部まで作り込む過程で幾度となくそれを思った。



 最後の髪の毛の一本がピシッと音を立てて動きを止め、全ての作業が完了した。




 ──こめかみに汗が伝い落ちたのを感じる。



 朝目覚めたときの疲労感が輪をかけて酷くなった。

 立っていられないほどではないが、さすがに少し休憩したい。



 作り始めてからどれくらい経ったのだろうか。

 集中しすぎて考える余地がなかった。

 あまり時間をかけてなければいいが……。



 ふと、ラファさんの様子を見ると、難しい顔で黙り込んでいた。


(どこか問題があっただろうか……?)



「ど、どうでしょうか?」


 沈黙に耐えきれなかった私は、素直に評価を聞いてみることにした。


「……素晴らしい出来だよ。正直、いくら手助けがあったとしても、この短期間でここまで仕上げてくるとは思わなかったから驚いたよ」


(リズのことはお見通しだったか……)



「一つだけ改善点を挙げるなら、もう少し早く仕上げられるようになることだね。こんな風に」


 ラファさんがどこからか別の水晶玉を出し、右手を振り上げると、パキパキと音を立ながら極めて精巧な私の像が一瞬で出来上がった。



 とてもよく出来ているが、心なしか鏡で見る自分よりも2割増しくらい美人な気がする……。

 ラファさんには私がこんな風に見えているのか、それとも気を遣ってくれたのだろうか。


 おそらく後者だろう。


 あまり像の外見には突っ込まないことにした。



「これはさすがに出来ないですよ! ゆっくり作るのが私には精一杯です」


「練習し続けばきっと出来るよ。ここまで速さと精巧さを保ちながら魔法を使うことは並大抵の術者でも難しい。出来るようになれば卒業後は安泰だよ」



 それは魅力的だ。


 どこの世界でも総じて就活は楽なものではないだろうし、出来て損はしないだろう。


「わかりました。それじゃあ、時間のあるときに時々練習を続けますね」



 ふと疑問に思った。


 練習はやはり人間をモデルに練習するべきだろうか。


「ラファさん、今回の課題はなぜ自分を作らせたんですか?」


「んー? 物を作るより人間を作ったほうがよほど難しいし、タメになるからね。かと言って他の人間にすると、そいつのことを四六時中考えちゃうでしょ?」



「……なるほど。じゃあ次からは別の人を作りますね」


「ええっ、なんで!? 今の会話の流れなら、『じゃあ、次もラファさんで練習しますね!』になるはずでしょ?」


「ラファさんのことは考えすぎて、もう疲れたんですよ」



 ラファさんはガッカリした様子で項垂れる。


 私はその様子が可笑しくて、声を上げて笑ってしまった。



 課題が無事に終わったことによる高揚感か、疲れはもうほとんど感じなかった。

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