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妖精王との共通点

 私は言葉を失った。


 皆の反応から、この現象がどのように捉えられているかはなんとなく感じていたが、そのような背景があったとは思わなかったからだ。

 クリフは明言することを避けてくれたが、黒いモヤを出す存在はこの国の人にとっては気味が悪いどころか、強い恐怖を呼び起こすのだろう。


 私はどうすればいいのだろうか。

 このまま周りの人たちに心労を与え続けてまでこの城にいてもいいのだろうか。



 すると、黙りこむ私を気遣うようにクリフが声をかけた。


「タマキ、大丈夫か……? いきなりこんな話を聞かせてしまってすまない。この世界に来たばかりでいきなりこんなことを言われれば困惑するだけだとわかっていたが、黒いモヤのことが気になっているだろうと思ったんだ」


「いや、クリフが謝ることではないよ。私こそ、黙ったままでいてごめん。ちょっとびっくりしちゃって……。それに、本当のことを教えてくれたのはすごくありがたいよ。ただ……みんなに不快な気持ちを与えながらこの城に居続けてもいいのかなって思っちゃって」


「無理もない。この城にいるべきかどうかについてはタマキは気にしなくてもいいだろう。黒いモヤが同じ類の力だったとしても、それを出す者の本質が同じだとは限らない。それに、妖精王だって完全なる悪意をもって戦争を起こしたわけではないんだ」



 クリフの言葉に少しだけ心が軽くなった。


「戦争を起こしたからといって悪い人だったというわけではないんだね。妖精王がなんで黒いモヤを出したかはわかっているの?」


「いや、それについては誰もわからない。だが、妖精王とその戦争については伝記を読めば詳細がわかるだろう。一冊家にあるが、興味があるなら貸そうか?」


 クリフの申し出に私は飛びついた。


「もちろん! ありがとう、クリフ」

 笑顔でそう言うと、彼も笑みを返す。



「そういえば、タマキはもう城下町へは行ったのか?」



(城下町? 突然なんだろう)


「ないよ。近くにあるの?」


「ああ、商店が集まる区域は徒歩で行ける範囲内にある。もし興味があれば、急なんだが、明日一緒に行かないか? 私もちょうど用があるし、良い気晴らしになるかもしれない」


「うん、行きたい! ……あ、でも午後はラスさんとの授業があるから午前しか空いてないんだけど、大丈夫?」


「ああ、それで構わない。それじゃあ、伝記は明日の朝迎えに来るときに忘れずに持ってくるようにするよ」


 その後、私たちはお互いのたわいもない話をしながら食事を済ませ、帰路についた。




 ***




 次の朝、起床して1時間ほどで全ての準備を済ませた私はコーヒーを片手に、読みかけだった本を読みながらクリフが来るのを待っていた。


 この世界にもコーヒーはあったようで、どの飲料もそれほど主流ではないが、飲むことが出来る。

 しかし、飲むためには毎回食堂へ行かなければならず、その度にいちいち行くのは面倒だった。

 そこで、この世界に来てから1週間が経った頃、リーナに頼んで(おそらく食堂から)貸してもらったコーヒーを淹れる器具を使い、飲みたいときに自分の部屋で入れることにしたのだ。



 淹れ方はリーナに教わった。


 まず、上下二層に分かれている金色の金属ポットの上半分にコーヒーの粉を入れる。

 布のフィルターが張ってあるため、粉は下に落ちないようになっている。

 そして、そこに熱湯を注ぐと、布を通ってコーヒーが抽出されるという仕組みだ。


 つまるところ、ドリップコーヒーだ。



 熱湯は、部屋に常備している飲料水をカップに入れ、魔法で熱湯にしている。

 最初の頃はリーナによく手伝ってもらったが、最近ではほぼ自分一人でお湯にすることが出来るようになった。



 魔法の操作は──もちろん練習は必要だが──強くイメージすることで可能になる。

 ただし、緻密な作業が必要なことや、長時間維持しておく必要があることはより難しく、経験がいる。

 沸騰させるのは一瞬で済むため、魔法初心者の私でも比較的習得が早かったようだ。


 勉強でも仕事でも、作業中は温かい飲み物を飲み続けるのが習慣だった私にとって、部屋でコーヒーや紅茶がすぐに飲めるのはすごくありがたい。

 なんなら、お湯を一瞬で沸かせられる分、こちらの生活の方が幾分快適かもしれない。


 コーヒーの粉や茶葉も食堂からまとめてもらっているが、そのうちタダ働きして返そうと思う。

 城で働く人たちには城にある施設は自由に使う権利があるが、私は居候の身。

 周りの人たちは気にする必要はないと、親切心から言ってくれるのだろうが、私の気が収まらない。



 この城の人たちに何か貢献したい。

 ラスさんのところで私にも何か出来ることがあればいいのだが……。


 そこまで考え、ふと時計を見ると、本を読み始めてからかれこれ1時間は経っていた。


 そういえば、クリフが何時に迎えに来るか聞いていなかった。


 私にとって、誰かを待つことは特に苦ではない。

 誰かを待ってようがなかろうが、することは特に変わらないからだ。


 だが、人によっては怒るのではないだろうか。

 それとも、もしかするとこちらではあまり時間を気にする人は少ないのかもしれない。



 コンコン──。



 おそらく、クリフだろう。

 私はすぐさま本を閉じ、彼を出迎えるため部屋の入り口へと向かった。



「おはよう、タマキ。もう準備は出来てるか? もし早すぎたのなら部屋の外で待つが……」



 外見に変化があるわけではないのだが、早朝の彼はなんとなく機嫌が良いような気がした。



(もしかして朝型なのかな……?)



「ううん、大丈夫! 今すぐ出られるよ」


「よし、じゃあ行こうか。……と、そうだ。昨日話していた伝記、忘れる前に渡しておくよ」


「ありがとう! 時間が空いたときに読むようにするね」



 微笑むクリフとともに、まだ見ぬ城下町への期待に胸を躍らせながら私は部屋を出た。


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