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第十四話 それぞれのクエスト シエル編

 


 レンが盗賊団を鎮圧するという濃厚な一日を過ごす傍らで、シエル達3人もまたそれぞれのクエストに精を出していた。

 シエルは普段のスカート姿ではなく、薄着にオーバーオールという装いでとある場所に来ていた。


「おう!嬢ちゃんが学生さんか!」


 鍛冶屋ザババ・エイリール南支店

 王都に本店を構える大手の商社グループで、主に冒険者の装備や生活用品を作っている。

 シエルが来たのは本店に比べればこじんまりとした一軒家程度の大きさの店舗だった。しかし、奥から聞こえる鉄を叩く音にシエルは望んでいた仕事と然程変わらないだろうと期待していた。


「初めまして!シエルって言います。今日はよろしくお願いします!」


 シエルは元気に自己紹介すると、ぺこりと頭を下げた。


「ガッハッハ!また元気のいい嬢ちゃんが来たもんだ!俺はここの店長やらしてもらってるバッカスってんだ!話は学校から聞いてるよ。さ、入った入った」


 バッカスは手に持っていた槌で工房の中に入るよう指す。身長はシエルと同じくらいだが、半袖から覗く腕は鋼のような密度を感じさせる程に筋肉が詰め込まれていた。

 ドワーフと呼ばれる種族だ。


「嬢ちゃんは今日一日俺らの手伝いをしてもらう。おうお前ら挨拶しろ!」


「ウオッス!」


「あら可愛い子ね。仲良くしましょ」


「…………しく」


 シエルが再び自己紹介をすると、工房にいた3人は簡単に挨拶を済ませ各々の作業に戻った。


「あれ?他に人はいらっしゃらないんですか?」


「ん?ああ。ここは支店だからな。本店の製品を卸したり簡単な修理をするのがほとんどだ。どうだい?しょぼいだろう?」


「いえ、そんなこと……」


 図星を刺されたシエルは思わず言葉を濁して俯く。


(ダメ。どんなに小さくたって、どんなに簡単な仕事だって、それを一生懸命やって生きてる人がいるんだから。私もここでできることを精一杯やる。そうよね?レン)


 シエルはそう思い直し、レンの顔を思い浮かべて小さく頷いた。


「そんなことないです。どんなお仕事だって誰かの為になるんですもの。私も今日は精一杯お手伝いさせていただきます!」


「へへ、気に入ったぜ嬢ちゃん!んじゃあまず基本から教えてやっから、支度が済んだら俺ん所に来な」


 バッカスはニッコリと笑うと、鼻歌混じりに工房の奥の炉に向かってのしのしと歩いて行った。

 シエルのクエストはこの南支店の職員の手伝いである。

 威勢よく言い放った有言を実行する為に、シエルはバッカスの後を追った。


「ところで。ウチの手伝いなんかが割り当てられたってことは、嬢ちゃん鍛冶屋でも志望したのかい?」


「いえ。私、錬金術を鍛えたいんです」


 シエルの一言に、工房内にいた全員が手を止めてシエルを見た。


「錬金術師ッスか……!」


「凄い……!」


「…………!」


「マジかよ嬢ちゃん!?その歳で錬金術が使えるってのか!?」


「は、はい。そうですけど……」


 意外なリアクションに、シエルは戸惑ってキョロキョロと全員の顔を見回す。驚愕や羨望、嫉妬のような感情がそれぞれに浮かんでいる。


「た、たまげたぜ……錬金術って言やあ、世のコトワリをカイメイする選ばれた才能を持っている奴だけが使えるって技術だろ?」


「才能だけじゃないわ。一握りの才能と血の滲むような努力を欠かさなかった者だけが門戸を叩くことができるとも言われている」


「す、凄い逸材が来たッスね……なあマリオ?」


「うん。俺よりずっと若いのに……」


「あ、あわわわわ」


 矢継ぎ早に飛び交う褒め言葉にシエルは思わず赤面してしまう。


「せっかくだから何かひとつ見せてくれや!俺らみたいな木端職員じゃ錬金術って奴はめったに見れねえからな」


「は、はい。えっと……集中して……」


 シエルは深呼吸をして心を落ち着かせると、手元に物質をイメージした。


現出(ジェネレート)


 短く呪文を唱え、脳内に一振りの鉄剣を握る自分を思い描く。鉄の重さ、感触、匂い、形状。様々な情報をより現実のものと一致させていくと、やがてそのイメージは現実のものとなってシエルの手に握られた。


「な、何もねぇところから剣が……」


「いつ見ても惚れ惚れしちゃうわあ」


「す、スゲェ……」


「凄い……!」


 自然と拍手が上がる。ニーナはぺこりと頭を下げ、剣をバッカスに手渡した。


「ほう……こりゃあ……」


 剣を隈なく見ていたバッカスは、僅かに眉根を寄せた。


「よく似ちゃいるが、鉄とは呼べねえな」


「!」


 シエルは一瞬驚いたように目を見開き、ばつが悪そうに下を向いた。


「な、何言ってんだよ店長。シエルちゃんの剣はそりゃあ見事な……」


「いえ。私も店長と同意見だわ」


 工房の紅一点であるビスタが割って入る。


「私の先輩に錬金術師がいるけれど、あの人の完成度は半端じゃないわ。この剣も確かに良くできてはいるけど」


 ビスタは剣を近くの台に置き、近くにあった鉄剣を振り上げ、シエルの剣めがけて振り下ろした。


 パキィィン


 2本の剣はぶつかり、シエルが創った剣だけが真っ二つに割れた。


「この通りよ。何故貴女のだけ割れたか分かる?」


 ビスタの問いに、シエルが神妙に頷く。


「同質素材同士ならどちらも同じように壊れるはず。私の鉄に対する理解が不十分だったから、密度が少し小さくて負けたんです」


(あの時だって……)


 シエルはレンがルドルフと剣をぶつけ合った時のことを思い出した。レンの剣だけが折れたのは自分のせいでもあると思いつつ、心の何処かで否定したかった。

 チヤホヤされていた空気が一変し、すっかり沈み込んでしまう。


「ん。分かってるならOKね。なるほど。シエルちゃんは錬金術を磨く為にウチに来たのね」


 シエルは静かに肯定する。


「そういうことなら話は早いわ。私が先輩に教えてもらった方法なら少しは上達するかもね」


「ほ、本当ですか!?」


「ええ。いつか機会があればその先輩本人にレクチャーしてもらおうかしら」


「やった!ありがとうございますビスタさん!」


 シエルは思わずガッツポーズをする。

 初めは何かヒントを掴めれば儲けものと思っていたが、予想以上の収穫の予感。

 込み上げる希望に、シエルは胸の高鳴りを抑えられないでいた。

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