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むかしむかし。
あるところに働きものの女の子が住んでおりました。
そんな女の子の夢はいつかお城のお姫様になることです。
だからいつも寝る前に窓からキラキラと輝くお城を見てはお祈りをします。
「わたしにもいつかステキな王子様が迎えにきてくれますように」
あるとき一人の男の子が道で倒れていました。慌てて近づき女の子は男のを助けます。
それから仲良くなった二人は友達になりました。あるとき女の子は男の子に自分の夢を話しました。すると男の子は笑顔で言います。
「とっても素敵な夢だね。僕が叶えてあげるよ」
すると男の子が見る見るうちに姿が変わり、魔女になったのです。
魔女は杖を一振りすると女の子の周りがキラキラと光りました。
「きっとこれで叶うわ」
「……これがこのグラティアに伝わる『はじまりの物語』なんですが、この先の話は書物にも何も残されていないんです。なので王家の人間は代々この物語を口伝いで繋いできました」
溜息を零しながらシオンは続ける。
「なにか感じたことはありましたか?」
「……いえ、これといってなにか特別な感じがしないんですけど、完成させたら宝の在りかが分かるって仕掛けがあったり「残念ながらそういったことはないんですけど。——この物語は一体いつこの世界に伝わったのかも作者もそして結末さえ今となっては分からないのです」
物語を管理する世界できっとこの『はじまりの物語』は何かしらの鍵を握っているのは真緒ですら容易にその考えにたどり着く。
しかし腑に落ちない。この世界はかなり昔から存在している。はじまりの物語、といってるぐらいだ。この物語が生まれたのもかなり昔のこと。
それなのに未だなんら手掛かりの一つも掴めていないのに今更真緒が介入したところでぶっちゃけ何か進展があるようには思えなかった。
それに物語としてはとてもお粗末な内容、というか物語と呼べるのかも怪しい出来だ。本来の話ともしかしたら全然違っている可能性だってある。
「ま、いっか。とりあえず事情は分かりました。手伝うのはいいんですけどつまりこれってあたし物語が完成しないと元の世界には帰れない、ってのが鉄板のお約束だと思うんですけどやっぱりそういう力が働いてたりします?」
「あ、えっと「そうです」
言いにくそうに口籠ったシオンをまるで庇うようにセオリトが告げる。
そんなセオリトをキッと睨みつけるシオンだが彼自身何とも思っていないようだ。
「なので貴方様にはこの城でシオン様の手伝いをしてほしいと思います。我々の都合で貴方様をお連れしたので衣食住の心配は不要です」
「つまり事実上の食っちゃ寝生活が約束されたわけね!」
「お手伝いをして頂くことが前提とはなりますがそうなるかと思います」
昔読んだ本を探す為に色々なジャンルの本をそこそこ読んできた真央にとってこの展開も予想の範囲内であった。
本人の都合でこの世界に来たわけではないのだからその時点で結構迷惑をかけているのだから衣食住が約束されて当然といえば当然。
(でもここで一個どうしても毎回納得がいかないことがあるんだよね)
そう。城に住むまでは納得できるが結局のところ自分が自由に使える資金源は一体何処から支給されているのか、というマネーの問題だ。
素直に考えればきっと衣食住に加えてある程度のお小遣いが支給されているのだろう。
石油王とぶつかった訳でもなく手伝いでお金が手に入るなんてかなり有難い。有難い、が。
「……では一つあたしから条件、というかお願いがあるんですけどいいですか?」
「もちろん!」
「お手伝いはします。けどしばらくこの世界で生きていかないといけないので何処かで働きながらお手伝いをするってのはどうでしょう?」
働きながら、と訊いたときの二人の顔はまさに鳩が豆鉄砲を食ったようであった。