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プロローグ

「死」という概念については、これまでも幾度となく思案したことはあった。


 まだまだ年端もいかない高校生の俺が「死」などという壮大なテーマについて偉そうに語るのはあまりに滑稽だと百も承知しているが、ある夜布団に包まり「死」について悶々と悩んだ経験がある身としては、多少なりとも自分の考えを持っていると言いたくなるのも不思議ではないだろう。


 ただ、そんな俺でも成長するにつれ、その恐怖も次第に薄れていて、気づけば「死」について考えることもほぼ皆無となっていた。

 理由は単純で、そんなことを考えるよりも日々の与えられた課題をこなしていくのに()()だったからだ。

 「死」なんてのはまだ先の話であって、そうやっていつまでも怯えるだけで消費してしまうほど若者の貴重な青春は待ってはくれないのだ。

 この平和な街では、そんな心配よりもホワイトボードに書かれた問について考えることの方がよっぽど重要なのだ。

 

 「死」への恐怖という面においては時が解決してくれたが、未だ「死」そのものという概念が未知であることに変わりはない。

 この長い歴史の中で聡明な先人たちが多様に定義をしてきているのだろが、生憎彼らが残した難解な文献を眉間にシワを寄せながら読み漁るほどの好奇心や忍耐力を俺は持ち合わせていなかった。

 それでも「死」について最もシンプルに定義した言葉と出会った。


 そのシンプルな言葉とは「無」である。

 つまり『「死」とは完全なる「無」である』ということだ。


 もちろん、この「無」とは主観的なものであって、仮に俺が死んだとしてもその瞬間に世界から俺の存在が消えてなくなってしまうという訳ではなく、あくまで俺が認識していた世界が「無」になるという意味だ。

 よって死んだからと言って俺が今まで存在していた事実すらも消え去ってしまうというわけではないし、全ての人に忘れ去られてしまうということもない。

 ただ、死んでしまった身としてはそれを確かめる術はない。だが死んでしまえばそんなのは関係ない。


そんな少し懐かしいことを考えながら、俺は照り付ける日差しの中、廃墟となった駅前の大通りを独り瓦礫を掻き分けるように進んでいた。

 、、、もう二週間経つのか、、、

 二週間前まではここら一帯には駅を囲むようにビルが立ち並んでいたのだが、全てが倒壊した今は随分と見晴らしが良くなってしまっている。


 何故、俺は忘れかけていた「死」についてあれこれ思い出していたのか。

 何故、俺は世界の終わりのようなこの地を独り歩いているのか。

 

 それは、、、。


 俺はもうすぐこの場所で自らその命を終わらせなければならないからだ。


 、、、一応言っておくが、別にこの世界に絶望したからとか生きていく価値を見出せないからとかそういう後ろ向きな思考でこんな選択をしたという訳ではない。

 むしろ、俺は高校生らしからぬ勇敢な決断をしたと自負している。

 かと言って前向きに死ぬというのも言葉面だけ取ってしまえば、褒められるものではないことは確かだろう。

 どちらにせよ、もしただ死にたいだけならば、こんな場所をわざわざ死に場所に選ぶこともない。俺は俺の命に価値を見出したからこそ()()にいるのだ。


 ただ死にたいというわけではない。

 ただ死ねばいいというわけでもない。

 俺はある覚悟を持ってこんな廃墟にいるのだ。


 もちろん死ぬのが怖くないわけではない。

 散々迷ってようやく俺は覚悟を決めたのだ。

 しかし、それでも唯一不安がある、それは、、、


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 


「あなた、まるで三流小説の主人公みたいね」


突然、声がして顔を上げるとそこには一人の女性が立っていた。顔を見なくてもそれが誰なのかはすぐに判った。

 ここには誰にも悟られないようにして来たつもりだったが彼女にはお見通しだった。


 確かに彼女の言う通り、我ながら俺は三流小説の主人公なのかもしれない。

 わざわざこんな場所で誰にも知られないようにひっそりと死のうだなんてまるでお涙頂戴の展開は、ありきたりすぎて逆に冷めてしまう。


「さしずめ、お前はその小説のヒロインだな」


 俺はそう言うとそのまま彼女の顔見ることもなく通りすぎた。


「かっこつけんな!」


 彼女は過ぎ去った俺の背中に向かって叫んだ。

しかし、それ以上彼女が何かを言うことはなかった。

 そして、俺もそのまま立ち止まることはなかった。

 立ち止まってしまえばその瞬間、せっかく決めた覚悟が崩れてしまいそうな気がしたからだ。


背を向けていても彼女がどんな顔をしているのかが目に浮かぶ。

 俺の身勝手な行動への怒り、そんな俺を止めることのできない自分への苛立ち、色々な感情が入り混じってさぞ複雑な表情をしていることだろう。

 しかし、もう決めたことだ。誰も俺を止めることはできないのだ。この俺でさえも。

 そして俺はこれが最善の手だと分かっている。というより、これが一番悔いが残らないやり方だと知っている。


 何かを得るためには、時には犠牲を払うことも必要だ。

 まぁ、今回は俺自身の命を犠牲にするのだから、俺が得る物というと何もないわけだが、少なくとも俺の周りにとってはいい方向に転がるはずだ。

 、、、と思いたい。


 最後に彼女に会えて少しだけ救われたような気がした。

 この命も少しは価値があると思えたからだ。


 ・・・もし、俺が死んだら彼女は悲しんでくれるだろうか。




 そんなことを考えていると、どうやら目的の場所に着いたようだ。

 おそらく彼女はここを知っていたのだろう。先回りできたのもそのためだ。


 そこには、街の都市部にしては少し場違いな古い民家が建っていた。

 窓は割れ、壁にはいくつもの大きな穴が空いてはいるが、なんとかその建物の形状を保っていた。

 玄関を上がってすぐ左側のドアをくぐりリビングに入ると、そこには並ぶように二つの男女の亡骸が横たわっていた。

 俺はその亡骸の片方が手に握っている拳銃を見つけると、それを丁寧に取り上げた。

 そして、余計なことを考えてしまわないようそのままその銃口を自分のこめかみに当てた。

 そして、大きく深呼吸して引き金に掛けた人差し指にゆっくりと力を込めていく。

 


 何も考えてはいけない。。。。

 

 あとは撃鉄が打ち落とされて弾丸が弾き出されるのを待つだけだ。


 でなければ、恐怖に勝てない。


 恐怖や不安、後悔や希望あらゆる感情が混ざり合うように湧いてくるが、それらを全て頭ごなしに否定していく。


 すでに覚悟をして、俺は決断した。


 例え俺の命が無価値だろうが俺は三流小説の主人公みたいに、、、



 バーーーン!!




 一つの銃声が遠く鳴り響いた。。。

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