永遠に崩れない
檸檬 絵郎さまのかっぽうミニ企画2019に参加させていただいた時のものです。
お題「次のイラスト『猪目笠の男』から思い浮かぶ詩、または短編小説を書きなさい。ただし、どこかに『乾杯』というワードを入れること。」
「……これ何ですか?可愛い」
ブレザーのスカートを微かに揺らしながら前かがみになり、俺のデスクの上に飾られた小さな人形を見る17歳の教え子。
「猪目笠の男」
あくび混じりに椅子にもたれて腕を組み、何気なく職員室内にいる周りの教師の動きに目を遣る。
「何ですか、それは。怪しくて可愛い」
こいつは一度始まったらしつこいんだよな、色々と。
「ハートだ、あ、腰のところにも」
「あぁ」
「どこで買ったんですか?」
「旅行の土産だよ、三重だったかな」
「お土産?誰からの?」
「嫁さん」
凛と上がるまつ毛の奥にある黒目が濃くなっていく。
「あ、急に可愛くなくなりました」
キーンコーンカーンコーン
「ほら、掃除だぞ」
「……はぁい」
予鈴によって発生する学校中にいる人間の濁流が、俺たちの間に流れる微妙な空気を覆い隠す。
それを利用して彼女が呟く言葉は。
「先生、今日も好きです」
「だめです」
パタパタと行ってしまった彼女。
自由でいいよな、若いやつは……。
つい大人になった姿を想像してしまう。
「乾杯っ」
そんなフレーズを赤い唇から零し、チェーンのピアスを揺らしてグラスを傾ける彼女。
そして結局こう呼ぶんだ。
「ねぇ、先生」
だめだ、俺たちの関係は永遠に崩れない。
そしてそれが一番居心地がいいんだよ。