表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

変態優男魔法使い

「嫌だっていてんだろ。ついてくるな。」


「そんなこといわずに〜。お願いします〜」


 スタスタと歩いていこうとするその人にすがりつく。

 あんな生活、もううんざりなのだ。

 没落貴族というのは貧しい上に、貴族共にバカにされる、ある種平民よりもかわいそうなご身分。その上、家族が一人もいないなんて、もうこんな寂しい生活耐えられない。


「私、いくらでも努力するっ!だから、お願い!!」


「しつこい。おい、はやく馬車をだせ!」


 慌てた感じでそういうそいつから向けられる視線は明らかに『コイツやばいだろ』といってる。

 くっ⋯⋯こうなったらなけなしの女子力をフル活用するしかない⋯⋯


「私、もう一人は嫌なのっ!」


 そいつの高そうな服の袖を握ってそういう。

 あと数歩で馬車に辿りつかれてしまうところだった。


「ほんとに⋯⋯嫌なの!⋯⋯」


 目を潤ませ、か細い声をだす。イメージ的にはおねだりする時の姉を思い浮かべて。


「………………」


 黙り込んでいるそいつに大きな期待が生まれる。が、それも一瞬。


「もともと見れたもんじゃねぇのに、余計ひどくなった」


 なっ…………。

 衝撃のあまり服の袖をつかんでいた手から力がぬける。その隙にスタスタと歩いていくそいつを、名前すら知らないそいつを、私はただただ呆然と見つめた⋯⋯。

 私が生まれてきてこのかたずっと貯めこんできた女子力を全否定するどころか見れたもんじゃねぇ?⋯⋯。

 馬のいななきとガタゴトと馬車が遠ざかっていく音。

 地べたに座り込みギュッと唇をかみしめる。


「私だって美人な、普通の貴族になりたいっつーのっ!」


「その願い、叶えて差し上げましょうか?」


「うわあぁ!?だ、誰!?」


 いきなりの声に飛び上がる。

 辺りを見回すと私の後ろに


「そんなに驚かなくても⋯⋯」

 と苦笑いを浮かべる優男、って感じの男の人がいる。

 白髪にマリンブルーの優しそうな瞳。白い肌にほっそりした華奢な体型。

 女性と見紛うほどの美少年⋯⋯だとぅ⋯⋯。


「あの、冷やかしならけっこうですんで」


 それからボソッと「美少年とか滅びろ⋯⋯」とつぶやきながら立ち上がる。


「んっ?っとうわあぁぁぁ」


 慣れないドレスの裾に躓き、無様にも真後ろに勢いよく倒れる。

 そして⋯⋯


「いったーい!!」


 頭を地面に強打し、その痛みに転げまわる。


「なんっで受け止めたりしないのっ!?」


 普通だったら受け止めるだろ!なのに、コイツ、サッと避けた!視界の端にきっちりとうつってるんだよ、この優男!!


「ごめん⋯⋯つい、反射で⋯⋯やっぱり、重そうなものが倒れてきたら逃げちゃうよね⋯⋯」


 と、天使と見紛うほどの笑みを浮かべる優男。いや、ここで美少年スキル発揮するなよ!


「はあ⋯⋯もういい⋯⋯」


 深くため息をつき立ち上がる。

 せっかくの高級品が土まみれとか⋯⋯

 優男に一声かけようかと思ったがそんなことをする必要もないかと思い直し、歩き出す。


「うわっ!?」


 短い悲鳴をあげ倒れこむ。またもや裾を踏んで倒れてしまった。このドレス呪いでもかかってるのか⋯⋯?


「べっ!」


 口に入ってしまった土を吐き出す。


「ぷっ!あははっ!!」


 いきなりふきだす優男。

 そりゃ、今の私は無様だろうさ。けど、そんなに笑わなくてもいいじゃないか。


「もういっそ、そのドレス脱いで裸になれば?」


 目に涙を浮かべながらそういってくる優男。

 はっ?……。一瞬動きも止まってしまうが、どうやら本気でいってるらしい。


「んっ?どうかしたの?どうせなら脱がせてあげようか?」


「はっ、はいっ!?」


 思わず変な声がでる。明らかに冗談じゃない感じでそういうことをいうのは遠慮してほしい⋯⋯。


「あっ、そっか!こっちではみんな服を着るのだものね。ごめんね、コトネちゃん驚いちゃったよね。」


 そういって困り顔になる。悔しいが、私より明らかに可愛いぞ、コイツ。そして、こっちとは?コイツはどっちのやつなのだ?まぁ、とりあえず⋯⋯


「名前は?」


 無愛想にたずねたのに、優男はニコリと人のいい笑みを浮かべる。


「僕はラン。君の願い事を叶えてあげる魔法使いさ。」


「はっ?⋯⋯」


「とりあえず、契約しようか」


「はっ!?やだ、やだ、やだ!!なにそれ、契約って何さっ!?」


 ランはニコリと優しい笑みを浮かべる。


「大丈夫。すぐに終わるよ」


「はっ?」


 そういって顔をしかめた途端にフッと私を包む優しいにおい。目の前にはランの顔。唇にあたったやわらかい感触。

 こ、こ、これって!?

 いーーーやーーーっ!!

 慌ててそいつをから体をはなす。


「コトネちゃん、ちゃんとやらないと契約無効になるよ?」


 だから、契約ってなんだ!?しかも、キ、キスをちゃんとって⋯⋯

 再び近づいてくるランに反射で飛び蹴りをくらわせる。

 ズサーッ

 そんな効果音がつきそうなほど思いきりスライディングするランにベーッと舌をだしてやる。


「あんたみたいな変態魔法使いお断り!!私は自分の力であいつのハートを手に入れてみせるから!」


 そう、あいつのハートを手に入れてめでたく結婚できれば私はこの生活から抜け出せるのだ。諦めるわけにはいかない。

 何年もあの家で野草生活していた。そんな時、私の心の支えとなったのはあいつと幸せな結婚生活を、満ち足りた生活を送る私。

 今、改めて思うとバカらしい話だ。あいつは姉が好きなのに。でも、それでも、そんなことを忘れてでも信じたかった。すがりたかったんだ⋯⋯。

 私はトボトボと歩きだす。

 そう、わかっててたはずなのに。苦しい。

 ⋯⋯私、あいつのこと何一つ知らないな⋯⋯。


「よしっ!」


 不美人な私の唯一の取り柄はいつでもボジティブシンキングできることだ。

 というわけで、あいつのことを知るためにもあいつを追いかけよう!名前すら知らないんだもんね!知ることがたくさんだ!




「で、なんであんたもいるの?」


「だって、僕コトネちゃんと契約したからね。」


 そういって鼻息荒く胸をはるランは、紺のローブを身にまとっているんだけどすごい土まみれ。まあ、私がしたことだし悪気は一切ない。

 それよりも、あいつだ。私の目線の先には屋敷の前で多くの女性に囲まれているあいつがいる。

 私は今、根性という私最大の武器を糧に自力であいつの屋敷へやってきたところなのだが(私の家は郊外にあるのだが案外市街地へは近く馬車の後さえ辿れば容易に追いかけることができた)。

 当の本人は美人の貴族女性に別人のようにニコニコ笑顔を振りまくばかり。全く動きがないし、こちらからあそこに突っ込んでいくしかなさそう。

 せめても、名前は知りたいところだが。


「コトネちゃん、怒ってるの⋯⋯?」


 服の袖を引っ張ってくるので思わず振り返ると、ランがコテンと頭をもたれさせてくる。


「僕、まだこっちのルールに慣れてなくて⋯⋯ごめんね。ファーストキス奪っちゃって⋯⋯」


 なんだ、この生き物。女子かよ。普通に可愛い

んだが。

 でも⋯⋯


「その〝ファ〟からはじまる言葉を二度と発しないで。」


 あれが私の初めてとか、考えたくもない。あんな、全身土まみれで初対面の優男とだなんて……。極貧生活の中でずっと夢見てきていた私の理想の〝ファ〟はあの貴族の男と結婚式でするはずだったのに……。

 顔をそむける私の服の袖をなおも引っ張るラン。


「なんで?なんでコトネちゃんはそんなに⋯⋯」


 なんだかひどく苦しそうなその口調に振り返る。

 こちらをジーッと見つめてくる悲しそうな瞳に胸が痛くなる。ランがなにをいいたいのかは分からない。できれば、力になってやりたいとも思う。でも私は心も汚いものだからあいつの嫁になることが先決なのだ。

 もうこの際貴族に嫁げるならどこでもいい気はするが、こんな私をもらってくれる人なんて他にいないと思う。あいつなら、私の姉に恋したわけだし、私はその妹だし、いけちゃうんじゃないか!?というなんの根拠もないポジティブシンキングでここまで来たわけだけど⋯⋯。


「よしっ!行くぞ!!」


 頬をたたき改めて気合をいれた私は、ランを引き離し歩きだす。

 白と金を基調とした大きな屋敷。手前には美しい花々が咲き誇る庭園。それを守るようにそびえ立つ重厚な門の模様は細かく、美しい。一種の芸術作品のようだ。そんな門の前で貴族の女性方を相手にするその人を睨みつけるようにして歩いていく。


「タクト様、これ受け取ってください!」

「タクト様〜!こっち向いて〜!!」

「タクト様、かっこいい!!」


 キャーキャーと騒ぐ貴族の女性達とその女性達に囲まれている〝タクト〟くん。

 そうか⋯⋯タクトというのか。にしても、すごい人気。確かにこんなに容姿の整った貴族なんてそうそういないもんね。

 私の貴族のお坊ちゃんのイメージはお菓子を食べてるおデブちゃん。それに対してコイツは⋯⋯うん、イケメンだ。

 がっしりとした体つき。スーッととおった鼻筋に気の強そうなルビー色の瞳。少し長い赤髪は高そうなリボンで結んである。俺様な雰囲気がプンプン漂うイケメン貴族。


「っ!近づけない⋯⋯」


 無理矢理にでも前に進もうとするが、恋する女子達のパワーはすさまじい。

 そんな時肩をツンツンとつつかれて振り返る。するとそこにはランがいた。ローブについていたフードを深くかぶっていて表情はよく見えない。


「助けてあげようか?」


「はっ?」


 こいつになにが出来るというのか。


「僕と君は契約したからね。でも、ちゃんと契約できてないからお願い事は一日一回までだよ。」


「なっ、なにそれ⋯⋯」


 私はコイツになにもしてないのに、なぜ一日一回も願い事を叶えてくれるんだ?

 昔、父がある男に騙されお金をひったくられて以来(これが私達が没落貴族になった大きな理由)こういったことは一切信じられないのだ。


「僕のこと信じて。そうすれば、コトネちゃんはあの子と⋯⋯」


 その言葉に、はっとする。


「そういえば、なんであんた私の名前とか知ってるの?会ったことないよね?それに教えてもないし。こわいんだけど。」


 早口にそうまくしたてるとランは悲しそうな声をだす。


「コトネちゃんは覚えてないんだね。まあ、それもそっか。とりあえず、お願い事してくれれば叶えてあげるよ?大丈夫。代償とかはないから。」


 ゴクン

 つばを飲み込み、唇をかむ。

 そんなの、叶えて欲しいに決まってるじゃん!父がある男にだまされた時、私は父の神経を疑ったものだが⋯⋯。


「私を、お姉ちゃんにして」


「わかったよ」


 儚げに微笑んでそういう。

 ランは私にそっと手をかざすとなにか呪文のようなものをつぶやきだす。

 女子達はタクト様に夢中で気づく様子はない。


「ヘイクド・リズス・ベイス!」


 ランがそういうと私の周囲から風が巻き起こり⋯⋯


「なっ、どけ!」


 キャーキャー騒いでいる女子をかき分けこちらに向かってくるタクト。

 私、ほんとに⋯⋯


「マーガレット、生きて⋯⋯いたのですね⋯⋯」


 ええええっ!?な、なんで、泣いてるのっ!?そんなに感動してるのっ!?

 タクトがひざまづき私の手にそっとキスする。それに驚きと恥ずかしさがこみ上げてきて、ランがそっと姿を消したことに気づかなかった⋯⋯。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ