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001

その日はいつもと同じ夢を見た。

 

 「はぁはぁ」


 吐く息はとても浅く。

 熱を帯びている。

 体は限界であると訴える。

 でも逃げなければならない。


 「グロロロロロォオオオオオオオオ!」


 見慣れた街中に耳を裂かんばかりの咆哮が響き。

 体は自然と動き出す。

 もつれる足、うまくできない呼吸。

 二つの意味で汗はとまらない。

 走りながら半身を反らしそれを見た。

 漆黒の巨大な体躯。

 筋肉ははち切れんばかりに盛り上がり。

 一本角の無毛の頭の三つの目玉は鮮血のように赤く同色の焔を纏い。

 俺の頭がすっぽり入るであろう大口に並ぶかろうじて白い歯は黄ばみを帯び。

 これだけ離れても臭気が伝わってきそうだ。

 黒の化け物はどしんどしん足音を立て追ってくる。

 見慣れた街中を平穏を蹂躙する異形の化け物。

 そろそろだ――。

 そろそろのはずだ――。

 いつもと同じく俺は曲がり角を左に回った。

 俺の目に飛び込んでくるのは壁だ。

 この道は行き止まりになっている、

 そんなことは分かりきっている――。

 何度もこの夢を繰り返し見てきたのだから――。


 「グモウォオオオオオオオオオオオ!」


 化け物は歓喜の雄たけびを上げ口元から涎を垂らす。

 その涎は酸性なのか涎が垂れたアスファルトからは小さな煙が立ち上る。


 終われ終われ終われ終われ終われ終われ終われ終われ――。


 あれ? 終わる気配がない――。

 いつも追い詰められて目が覚めるのに――。

 化け物は悠々と近づいて大口を開けた。

 口内からは生暖かく生臭い臭気が俺の顔を撫でる。

 蒸発した酸性の唾液の混じった吐息はびりびりとした痛みを俺の頬に感じさせる。

 あーこれ夢でも死ぬな。

 そう直感した。

 この化け物は俺を頭から喰らうつもりだ。

 後悔がなかったといえば嘘になる。

 対した人生でなかったことは、異論をはさみたいがそれができない程俺の人生はありふれていて。

 それでも生きたい。

 それでも生きたい。

 それでも生きたい。

 そう流れそうになっても必死に強がる涙のようにあふれ出そうなのに声に出ない。

 俺は静かに瞼を閉じた。

 閉じてしまえば貪り食われる恐怖がなくなる気がして――。

 ひと時に静寂が訪れる。

 ドシン足音が1つ。

 後二歩目。

 ドシン、

 後――。

 ドシン。

 終わりだ――。

 

 「グッ――」


 くぐもる声が聞こえる。

 その力なき声に驚いて思わず目を開けた。

 化け物には首がなかった。

 どういうことだあれだけ屈強な筋肉に覆われていた首が何故。

 次に赤い血しぶきが立ち上った。

 びちゃびちゃと俺の体に降りそそぐ流血の雨。

 さらに次に化け物の体は流血に比例して萎み背中から倒れた。

 俺の視界は朱に染まり前がよく見えない。

 そして化け物が倒れた後後ろに立つ人影が見えた。

 でもはっきりとは見えない。

 目に入った流血は視界を妨げ。

 拭っても拭っても目に入ってしまう。

 どうやら血には毒や酸が含まれていないようだが。

 そしてその人物は――


 「見つけた貴方は私の最後の希望」


 確かにそう聞こえた――どうやら若い女の子。


 「彼方さん! 彼方要かなたかなめさん!」


 なんだとうるさ――


 「起きなさい! 授業中ですよ!」


 バッチンと衝撃が響き俺の精神を強制的に引き戻した。

そんなわけ本当に新作です。

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