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1章-8 颯爽登場

「で、なんでギラルは昨日オレに挑んできたんだい」


「自分は子供のころから異世界人の英雄譚を聞かされて育ちました。英雄を名乗り出る者が出てきたのなら、本物かどうか知りたくなりまして」


 彼は過去にそういった偽物の異世界人を多く見て来たそうだ。彼にとって異世界人は憧れの存在であり、それを騙るような人たちに辟易していたそうだ。

 ただけんかっ早いだけでなく、ちゃんとした理由があったのだ。


「昨日の早計な自分を恥ずかしく思いますが、同時に良かったとも思っております。異世界から来た人の旅の供をすることが自分の夢でした。あそこで自分が戦わなかったらおそらくシュウセイ様を異世界人と知らずそのまま集落を追い出していたでしょうから」


「はは、たしかにそうなってた可能性もあったな。オレとしても案内役どころか非常時に使えるお金も手に入って嬉しいよ」


 ギラルはポーチをひとつ持ってきている。その中に、金と携帯食料、着替えと土産の干物が入っている。どう考えても干物はサイズ的に入らないはずなのだが、このポーチは亜法によって内部の空間が広げられていて、見た目よりも多くのものが入るそうだ。ペルナさんが非常に興味を持っていた。

 しかし、このポーチもだいぶ前に買った物なので新しく買うべきとも言われた。ここらへんはギラルの懐と相談であろう。

 当然だが、使用したお金はあとで返す。ギラルは必要ないと言っていたが、出世払いで無理やりにでも受け取ってもらう。


 そしてちょっと驚いたことは、この世界にも紙幣のあることだ。貨幣は想像できていたのだが。

 貴族といった間では重い硬貨よりも軽い紙幣のほうが人気もあるので、価値のもっとも高いものを紙幣にしている。

 紙幣にはこの世界でも珍しい白金を薄くのばし、紙に貼って扱っているそうだ。貨幣には銅貨、銀貨、金貨があり、その上に白金紙があるとのこと。これは魔人領の国であればどこでも共通だそうだ。

 銅貨120枚で銀貨1枚、銀貨80枚で金貨1枚、金貨40枚で白金紙1枚となる。ちょっとわかりづらい。

 なんでも3年間戦士ギルドで働いて得た金が、白金紙3枚と多少の小銭。ギラルは武器を愛用の槍一本を修理・補強して使うし、強固な鱗を持つため防具に金をかける必要もないため、それだけの備蓄ができたのだとか。実際今ギラルの格好は薄い布でできたパンツ1枚で終わりだ。大事なところを隠す以外の意味はないとのこと。


 「お、やっと森を抜けたよ。いやあ疲れた。特に精神的に」


 すでに防御結界は解除しており、森の端が見え、その向こうには草原が広がっている。


「ここを出ると街道がありますが、あまり人通りも多くないです。禁忌の森が近いですからね」


 森の外に出て周囲を見渡すと、一面草原であり、多少の木以外のものが見えない。生前の日本では見られなかった光景だ。

 感動しているところに、ペルナさんが声をかけてくる。


「秀清、あそこに結界があるのわかる?」


 ペルナさんの指、元へ肉球が指し示す方向を見ると、大きな建物?とそれを取り囲む人影が見える。


「ん、ありますね。中に建物みたいのも見えます」


「そう。私、結界こそ見えるけれど中の様子はわからないのよね。あれは光を屈折させてその場に何もないように見せる式ね。ちょっと構成が甘いから見つけられたけど」


 ギラルに顔を向ける。


「自分には何も見えません。しかし人通りの少ないこの街道でわざわざ見つからないようにするとは、怪しいですね」


「…ちょっと先行するから、ギラル。君はあとについてきてくれ」


 返事を聞く前に走り出す。近づくにつれ、様子をはっきりうかがえるようになる。

 どうやら建物の周りに人だかりができている。そして、その周囲で倒れる人も散見できる。


「もしかして、強盗か!」


 馬のような下半身をした男が女性を捕まえているのが見えた。とにかくただごとではないのは間違いない。

 グングンその距離は近づく。男が片手で女性の両腕を頭上で押さえつけている。そしてもう片方の手で服を破き始めた。

 まだ目標まで100mくらいの距離がある。しかし、今のオレにその距離はとても短かった。盗賊と思われる集団はオレに気づくや急いで弓矢を構えて射るが、オレの速度についてこれず、すべてあらぬ方向へと飛んでいく。


「止まらずに降ろして! 結界を解除するわ!」


 ペルナさんをできるだけ負荷のかからないように、しかし急いでおろす。横目で見ると着地に失敗したようだが、心の中で謝りつつ前を向く。

 集団の一番端にいるものがナイフを持って突っ込んでくる。邪魔なので払いのけるように拳を当てると大きく飛んでいった。

 後先を考えず、一直線に女性をとらえている馬男へと駆ける。馬の脚で蹴りあげてきたので受けとめ、そのまま足を掴み、振り回して放り投げる。

 受け身も取れずに倒れる馬男。取り巻きの男たちが彼のもとに集まり、急いで容体を確かめる。

 傷だらけで倒れている人たちはすでに亡くなっているかもしれない。この場に来てしまった以上、オレもこうなってしまう可能性はあるが、不思議と恐怖心等を感じられない。おそろしく冷静だ。


 女性が後ろで何か言っているのだが、ペルナさんの翻訳がないので理解できない。まだこの非常に大きな結界魔法は解除されてないので、ペルナさんですら手こずる代物なのだろう。

 取り巻きが巻物を取り出す。まずい、なにか魔法のようだがその専門家はいまこの場にいない。

 巻物が開かれた瞬間、無数の火の玉がこちらを目掛けて襲い掛かってきた。


 かなり広範囲にばらまかれているが、避けようと思えば簡単な速度だ。しかし、後ろには女性がいるし、さらには建物もあるからそういうわけにもいかない。

 後ろに1つでも逸らしてはいけない。覚悟を決め、神経を集中させる。






 目の前のエルフの服の上半身の部分を破いて下着姿にし、さあお楽しみだと思ったところで部下から声をかけられた。

 苛立ちつつそちらを見ると1人の男が明らかにこちらにむかって走ってきている。誰だ? というかここが見えているのか? なんであれ、まだ距離もあるしこちらには戦士ギルド出身の弓兵もいる。正義感の強いことはいいことだが相手を見ないから無駄に命を落とすのだ。


 そう思って女のほうに顔を戻してその美しい唇を指で堪能するが、周りが騒がしい。なにかと思えば部下の一人が殴られる瞬間だった。いくらなんでも、来るのがあまりにも早すぎる。

 その部下が地面に落ちきる前にその男はもうオレのすぐそばまで来ていた。大槌を手に取るも、それを振り回す時間はないためあわてて後ろ蹴りをくりだす。

 タイミングは完璧だった。自慢の後ろ足はクリーンヒット。そのまま動かぬ肉が木の葉のように吹き飛んでいく。そのはずだったのだが…感じたのは自分の質量をはるかに超える岩でも蹴ったかのような感触。ひるんだところを捕まり、振り回されたせいで膝と股関節が脱臼し、その後投げられ打撲も負った。


 あれは化け物だ、ここで殺さなければならないと勘が伝える。


「あ、兄貴!」


 治癒師を兼ねる魔法師が駆け寄ってくるが、ここは結界内で魔法を使えない。まさか自分にあだが帰ってくるとは思わなかった。


「亜法陣はまだあるか! ここで全部使いきっていい、あいつを殺せ!」


 そういったものの、残っていたのは小さいながらも超高温の火球を13個飛ばす中範囲を殲滅させる亜法ただ1つ。しかし、その1つで十分だ。

 先ほどの襲撃の時は混戦となったために使用できなかったものだ。この炎は超高速で飛び、強力な貫通力を持つために想像以上の威力を持つ。単なる鉄の鎧なら肉体ごと貫通し、さらに後方の敵をも攻撃できる。

 これは同胞、魔法師《赤の杖》の得意とする魔法の1つでもある。彼の作成したものでもあり、オリジナルより威力も規模も小さいが、1人殺すには余りある性能だ。

 もしかすると、後ろにいるお姫様にも当たってしまうかもしれないが、こちらの命が優先だ。


「燃やし尽くせ!」


 とてつもない速さで襲い掛かる火球。これで邪魔者は消える。そのはずだった。

 ところが目に映る光景は、火球は掻き消え、化け物の立ちはだかる姿であった。






 ペルナさんに教えてもらったこと。マナで作られた炎は、生成時に性質変化させたマナを燃料にして、それと酸素さえあれば空中でも燃え続ける。逆に言えば、酸素を遮断すれば普通に消える。

 そして、それとは別にわかったこと。それはオレの肉体についてだ。


 飛んでくるピンポン玉ほどのサイズの炎を片手で握りつぶす。それだけで、炎は簡単に消えた。


 そう。炎に触れても、雷に打たれても、この身体に傷はつかない。

 ペルナさんと実験して判明したのだが、この身体は熱に対して非常に高い耐性を持ち、髪の毛だって燃えない。たとえ炎の海に飛び込んでも熱いとすら感じないだろう。呼吸ができなくなるかもしれないのでやりたくないが。

 そういうわけで、ひたすら握りつぶしてしまえばこの炎の雨を完封できる。ただし、範囲が広いためカバーするのが大変だ。

 第三者から見たら非常にシュールな光景であろう。ハエを捕まえようとする間抜けな人間に見えるかもしれないが、それでも、瞬時に思い浮かんだ対処法がこれなので仕方ない。


 結果的に被害を出すことなくすべての炎を消し去った。

 それを見た男たちは、馬男をかばいながら撤退していく。足を怪我したのか引きずりながら必死に結界まで逃げる馬男。

 可能な限り生かして捕らえようかとも考えたが、ペルナさんはまだ動けなさそうだしギラルはまだ着いていない。ほぼありえないだろうが、この建物の中に伏兵がいる可能性もゼロではない。そう考えて、彼らが完全に見えなくなるまで女性のそばにいることにした。


 ここでふと気づく。これ、もしかして建物じゃなくて車なのか。車輪がついている。

 いやいや、でかすぎるだろ。トラックのコンテナのようにただの箱型ではないために全く気付かなかった。扉付近がボコボコに変形して壊されているので、やはり強盗の類だったようだ。

 ギラルが遅れて到着し、拘束されている女性たちを解放している。あいつちゃっかりおいしいところ持っていきやがった。


 さて、状況を説明してもらいたいものだが、エルフの女性は拘束されていた女性と抱き合って泣いているため口をきけない。

 結局このあと、ペルナさんによって結界を解除し終えても被害者は泣き続け、落ち着くまでさらに時間を要した。

この話の途中、視点をほかのキャラクターに変更しています。読みづらいと感じましたら申し訳ないです。

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