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春の雨はあたたかい  作者: 登夢
3/21

同居生活の始まり

これは、オッサン目線で書いた前作「春の雨にぬれて」をヒロイン目線でリライトした裏ストーリーになっています。

【3月5日(土)】

朝、薄明るいのに気が付いた。まだ6時。昨晩、圭さんに明日は休みだから遅くまで寝ていようねといわれていたけど、目が覚めるとジッとしていられない。音がしないように起きて洗面所で身繕いを済ませる。圭さんはソファーで毛布をかぶってまだ寝ている。ソファーは寝苦しそうだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。音がしないように朝食の準備に取り掛かる。


テーブルに出来上がったものから静かに並べてゆく。トースト、サラダ、ハムエッグ、ホットミルク、食器は一組しかないのでバラバラな食器に朝食が載っている。圭さんが起上ってこちらを見ているのに気が付いた。


「おはよう」


「おはようございます。ごめんなさい。起こしてしまって」


「どうしたの」


「朝ごはんを作っています」


「ありがとう、でも今日は休日だから遅くまで寝ていて良いのに」


「冷蔵庫にあった材料で作りました。良かったら食べて下さい」


テーブルの上に準備された朝食を覗き込むと、すぐに洗面所へ行って身支度をしてきた。私の向かい側に座って「ごちそうになります」と言って食べ始めた。無言だ。時々私をチラ見する。まんざらでもないようで、嬉しそうに残さず食べてくれた。満足してくれたみたいで作ったかいがあった。少しは感謝の気持ちが通じたかな?


10時になったら、私の身の周りのものを買いに近くへ買物に行こうと言ってくれた。確かに、着の身着のままで出てきたので、下着の替え一つないのだからありがたいと思いそうさせてもらうことにした。


マンションの玄関で管理人さんに私を紹介してくれた。私は田舎から遊びに来た姪と言うことになっていて、しばらく滞在すると言ってくれた。圭さんは、独身者が未成年の女の子を部屋に泊めていることを不審に思われないように知恵を絞ったみたい。でも3月の今頃、春休みでもないのに私のような年頃の女の子が泊まりに来ているなんて、少し考えればおかしいと思う。


姪ということだから、手をつないでも構わないだろうと、恐る恐る圭さんと手をつなぐ。圭さんが私の顔を見たので、私は笑顔を返したけど、ぎこちない笑顔だったように思う。圭さんは手をつないでくれた。受け入れてもらえたのが嬉しかった。


ユニクロへ行った。気に入った下着や部屋着をそれぞれ4~5着選ぶように言われた。これから暖かくなるので春物を見ていると、圭さんは自分のものを買うといって男子の売り場へいった。着るものがないので買ってもらった。圭さんに何度もお礼を言った。


それから、布団屋さんへ行って、私のために布団一式を購入してくれた。夕刻に届けてくれるように頼んでいた。これで圭さんは自分の布団で眠れる。あと、総合スーパーでもう1人分の食器を購入して、圭さんのリュックに入れた。かなり重い。私のために本当に申し訳ない思いでいっぱいになる。ここまで相当な出費になっている。私は何度も何度も圭さんにお礼を言った。圭さんは「気にしないで」とだけ言った。


お昼はバーガーショップでハンバーガーセットを食べた。ハンバーガーなんて久しぶりでおいしかった。こうして2人で食べているとほっとして気持ちが明るくなってくる。


外食やお弁当は高くつくのでこれからは私が料理するからと言って、スーパーの食品売り場で、野菜、果物、肉類、牛乳、パンなどおよそ1週間分の食料を購入してもらった。かなりの量になったけど、二人で分担して運ぶ。帰り道、圭さんはどことなく楽しそうに食品の入った袋をぶらさげて歩いている。私も嬉しいような楽しいようなそんな気持ちで歩いて帰った。


帰ってから買ってきたものの片付けなどをしてから少し休憩。洗濯物の取り込みをしていたら、もう5時近くになっていた。夕食の準備を始めなくちゃ。そういえば今日の献立を考えていなかった。とりあえずボリューム感のあるシチューを作る。あと、冷蔵庫に前からあった卵で卵焼き、ほうれん草のお浸し、ごはん。妙な取り合わせになったけど最初だから良いかな。


圭さんは、おいしいおいしいと言って食べてくれた。私は嬉しくて笑った。笑ったのは久しぶり。私が笑ったので圭さんも笑った。私は改めて同居させてもらうことのお礼を言った。圭さんはこのときも「気にしないで」と言っただけだった。


丁度6時に布団が届いていた。夕食の後、リビングのソファーの後ろに場所を作って、そこに布団を敷くことにした。始めは圭さんが「僕がここで寝るよ」と言ってくれたけど「私がここで寝ます、圭さんはこの家のご主人なのだから寝室で寝てくれないと困ります」と頼んでそうしてもらった。


リビングのその場所は死角になっていて、どこからも見えない空間だった。寝ているところは見られないし、座って着替えをすれば見られない。でも圭さんは絶対に覗きには来ないし近づかない。これは間違いない。


圭さんはお風呂に入ってから自分の部屋に引き上げた。リビングの後ろが私の居場所になったのでソファーに座るのを遠慮したみたい。それに、女の子の私が居ると落ち着かないみたい。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


お風呂に入って身体を丁寧に洗って、今日買ってもらった下着と薄手のかわいいトレーナーを着た。私は決心していた。圭さんの部屋のドアをノックする。どうぞと言われたので中に入った。圭さんは布団に寝転んで、小型のテレビを見ていた。私は躊躇なく布団に入って圭さんにしがみついた。


「抱いて下さい。お願いします。もう、これくらいしかお返しできません」


「ばかなことを言わないでくれ、そんなつもりで同居させる訳ではないから。事故で亡くなったけど、僕にも妹が居て、もし僕も死んで妹が生き残っていたら、今の君と同じ境遇にいたかもしれないと思ったら、力を貸さずにはいられなくなっただけだから」


「抱いて下さい。叔父に汚された身体ではいやですか」


「今、美香ちゃんを抱いたら、それこそ叔父さんと同じことをしていることになる。同居させてもらうという君の弱みに付け込んでいるのと同じだから」


「私が嫌いですか」


「いや、いや、なかなか可愛い良い子だと思っている。料理も上手だし。でも今は絶対に抱けない」


「お願いします。でないと私も困ります」


「良いかい、淫行条例というのがあって、18歳未満とみだらなことはしてはいけないことになっている。それほどいうのなら、美香ちゃんが18歳になったら考えてみよう。18歳になって、その時、僕のことが好きになっていたら考えてもいいよ」


「今でも好きです」


「いや、違うと思う。今お礼のためと言ったじゃないか」


「分かりました。18歳まで待ちます。それで私のことが好きになったら抱いて下さい。お願いします」


「約束しよう」


「ありがとうございます。それから今日は朝までここに一緒に居させてください。抱かなくても良いですから。お願いします」


「まあ、それで気が済むなら良いよ。おやすみ」


圭さんはテレビを消して背中を向けるとじっとして動かない。少し離れているけど、圭さんの身体の心地の良い温かさが伝わってくる。圭さんは私に好意を持っていてくれていることが分かった。それから、18歳になったら抱いてくれると約束してくれた。つい口から出てしまった言葉かもしれないけれど。


同じ布団で寝ているのに身体が離れているので寂しい。抱きしめて寝てほしいといえばよかった。動いたら邪魔になると思うのでじっとしている。そんなことを思っていたら眠ってしまったみたい。


夜中に悪い夢をみた。叔父さんの夢。驚いて目が覚めて、怖くて悲しくて、そばで寝ている圭さんにしがみついた。圭さんは目を覚ましたみたいだったけど、抱きついたままにしておいてくれた。圭さんの匂いがする。温かくて心地よい。また、眠りに落ちた。


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