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イカのおすし短編集

鶴の一声

作者: イカのおすし

 鶴の一声という諺がある。

 いわく、どんなにうるさい会議でもその人が声を発すれば、その場は静かになり、皆がその人の言葉に注目を集めるという奴だ。

 しかし、僕はそんな言葉を持ってない。


 あぁ、また自分の考えしか言わない奴等が騒いでいる。

 ちゃんと計画性をもって言わないと、それじゃ只の子供の我儘だ。

 今度はその意見に反対するものが騒いでいる。

 反対するのも良いが、反対するときは何がどういった理由で駄目で、だからこうするべきだとそこまで考えてから言って欲しい。売り言葉に買い言葉じゃ、終わる会議も終わらない。


 どうしてこうなった。僕が社長になってからというものいつもこれだ。

 お前らいつも自分勝手な事言いやがって、もっと計画性のある事を言いやがれ。


 そんな事を思いっていると、今度はいつも黙っている奴が口を開く。少し期待したが、出てきた言葉で僕は内心呆れた。なんだそれは、現実味が無さすぎる。言いたいことは分かる。筋も通っている。でもそれは、労力と利益があまりにも見会わない。勘弁してくれ、あんたは何年ここにいるんだ。

 その後も会議はヒートアップしていった。マシな意見も何度か出た。でもマシなだけだ。それすらも今は出ていない。嫌になる。


あー、もういいや、ここで煙草吸おう。


 僕は、灰皿を机の上にちょっと強めに置く。

 胸ポケットからソフトボックスタイプのマルボロゴールドを取りだし、箱を二、三振る。

 飛び出た煙草の一本を口に咥えた。

 ズボンのポケットからマッチ箱を取り出し、右手にマッチ、左手に箱を持つ。

 マッチの先端を箱のストライカーに押し付け、箱が変形しない程度で強く、指で捻るように擦り付ける。

 バチバチッと勢いよく火が上がり、周囲に火薬の匂いが漂う。

 火を煙草に当て、火をつける。

 マッチのおしりを親指と人差し指で摘まみ、中指で弾くようにして火を消す。

 紫煙を深く吸い込み、肺に充満させ、吐き出した。

 観れば皆が僕の方を向いていた。

「さて、続きを始めようか」

 その後の会議は順調に進んだ。


 


「イヤー、社長のあの行動にはビックリしましたよ」

「そうか、お前は初めてだったな、社長のあれは。確かに、あれだけの面子の中で、堂々と煙草を吸うなんて普通はないからな。まああれだ、そのお陰であの会議も直ぐに終わったから、いいじゃねーか」

「そうっすね。こうして自分達がこの時間から飲めるのも社長のお陰っすからね。それにしても、いやー、カッケーな~。自分もやってみてー、あれだけの面子の前で堂々と」

「やめとけよ、お前には無理だ。それしたら直ぐコレだ。あれは社長だけが出来る“鶴の一声”だからな」

「違いないっす」


 

 鶴の一声:大勢の人達が議論する中で、否応なしに従わせる有識者・権威者の一言(ことわざ辞典より)

 

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